2-4:姪


「マリーよ、お前はイザンカの第三王子の元へ行くと言うのだな?」


 


 ジマの国の国王はそう言って私を見る。



 いやちょっと待って、マリーはすでに私専属のメイドで、理由は知らないけど今はうちの国の人間なんじゃ?



「はい、身も心も全てアルムエイド様に捧げます」


「ふむ、歳の差があるようだがよいのだな?」


「勿論です。私はもう大人です。自分で決めた事です」



 マリーはそう言って私を見て頬を赤く染める。


 あの、マリーさん??



「では話は決まったも同然じゃな。アルムエイド殿、我が姪を頼むぞ」


「えっ? はっ? あ、あの??」


「ややおてんばじゃが、今は亡き我が弟夫妻の忘れ形見じゃ。竜の血が濃くじゃじゃ馬じゃがもらってやってくれ」


「あ、え、ええぇとぉ……」



 ちょっと待って。

 それってマリーを私の所へ嫁がせるってことぉ!?

 

 いや、ちょっとちょっと!

 マリーの正体がジマの国の国王の姪と言うのも驚きだったけど、その姪を年端もいかない私の嫁にしろって!?



「ヨテューン王よ、これはいささか急ではありませぬか? 我が弟はまだ五歳ですぞ」


「はっはっはっはっはっ、正妻とは言わぬ。マリーの身請けをしてやってほしいのだよ。側室でも構わん。マリーはジマの国を出る時に王族との縁を切っておる。ジマの国とはもう関係のない人間じゃ。じゃが、儂も人の子。我が姪の幸せを願ってやまない。それに第三王子のそばにいては困る事でもあろうかな?」



 うっわぁぁぁ、この国王かなりのやり手?


 マリーはもうジマの国の王族とも関係ないけど、変な所へは行かせたくない。

 それに私の元に居れば第三王子なので将来政争に巻き込まれる可能性も低い。

 そして、年齢的にも年が離れているので御しやすい。

 正妻ではなくとも私に対する影響は少なからずともあると。



 そして一番は私をジマの国としても見張る絶好の人材と言う事か!!




「……このお話はあまりにも性急故、一度国に帰って検討を」


「なに、これは儂の個人的な頼みじゃよ。国同士では何の問題も無かろう? マリーもそれでよいであろう?」


「はい、私は一生アルミエイド様のおそばに居させていただければそれで十分です。それに、アルムエイド様の妻となるなど恐れ多い。妾として可愛がってもらえば十分です♡」



 はい、アウトぉーっ!

 

 マリーさん、それ「おまわりさん、このお姉さんです!」案件よっ!!

 私まだ五歳。

 あなた二十二歳。

 歳の差十七歳よ?


 何それ、何処の逆源氏物語??



「はっはっはっはっはっ、そう言う事だアマディアス殿。今まで通りマリーをアルムエイド殿のそばに置いてやってはくれまいか?」


「……マリーは我が国の人間です。是非もありません」



 ここまで言われると流石にアマディアス兄さんも何も言えなくなる。 

 そして想定以上にやり込まれ、アマディアス兄さんはいつものポーカーフェイスの頬に汗を一筋流していた。


 アマディアス兄さんが私と一緒にジマの国に来たのは私の保護者として。

 しかしその最大の目的は有利な条件で今後予想されるドドス共和国との対応について協議したかった。


 しかし完全に私をダシに先手を取られた。


 つまり、「姪っ子やるから関係を強くするが、協定以上の事はしないよ」って事だ。

 しかもマリーはもう王族じゃないけど、非公式にイザンカ王国の第三王子の元へ嫁いだも同然となっている。

 その事実がイザンカ王国の事前活動に釘を打ったことになる。



 アマディアス兄さんはこれ以上ジマの国から有利な条件を引き出せなくなったのだ。 



 

「今宵は宴を用意しよう、ジマの国の自慢の海産物も沢山準備させる。楽しんで行ってほしい」


「……お心遣い、感謝いたします。それではまた宴の時に」


「うむ」



 アマディアス兄さんはそう言ってヨテューン王にお辞儀をして私たちを引き連れ謁見の間から退場するのだった。



 * * *



「ふう、思った以上に先手を取られたな……」


「あの、アマディアス様。申し訳ございませんでした……」


「いや、マリーは我が国にとって、アルムにとって必要な人材だ。今まで通りアルムを頼む」


「はいっ♡!!」



 与えられた部屋に移ってソファーに座り込みながらアマディアス兄さんは大きなため息を吐いた。

 ジマの国に来てからずっとやられっぱなしのような気もする。

 でも、マリーを非公式ながらに私の元へ嫁がせた事実はイザンカ王国に大きな貸しが出来た事になる。



「ままならぬものだな…… しかしこれで一層アルムの身の安全は約束されたようなものか…… 後はドドス共和国か……」


 アマディアス兄さんはそう言ってちらりと私を見る。

 そして椅子に座り直し、私とエイジを呼ぶ。



「アルム、エイジ。お前たちはまだ幼い。イザンカ王国は何があっても負ける事は無いだろう。しかし、よく覚えておいてくれ。万が一があった場合お前たちエシュリナーゼ含み、動けるもの全員はマリーと共にこのジマの国に来るのだ。いいか、今のお前たちにはまだ意味は分からないだろうが、これだけは忘れるな」



「アマディアス兄さん?」


「アマディアス兄ちゃん??」


「ふっ、まあ万が一にもそんな事は無いだろうが、マリーがお前たちを守ってくれる。そしてジマの国もな……」



 そう言うアマディアス兄さんの瞳は何かを決意したかのようだった。

 でもそれって、万が一戦争になってドドス共和国にイザンカ王国が負けた時にジマの国に落ち延びろって事だよね?



「アマディアス兄ちゃん、何の事か知らねーけど、うちの国はオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』もある。それにイザーガ兄ちゃんやミリアリア姉ちゃんもな!」


「そうだな。ブルーゲイルに万が一があってもレッドゲイルがある。イザンカはそうやって王族の間でも争った歴史は有れど、その血筋は守って来たからな。いや、余計な事を言った」


 そう言ってアマディアス兄さんは立ち上がり言う。



「今宵は宴を準備してくれるとの事だ。準備もあるが先に身体の汚れを落としておこう。風呂に行って来る」



「あっ! じゃあ僕も!!」


「アルム様はだめです。私と一緒です! またのぼせたらどうするんですか?」


「うにゃ? 今日のご飯はさかニャか? ならあたしもさっぱりしてお腹いっぱい食べるニャ! アルム、一緒にお風呂に入るニャ!!」


「あ、アルム。俺も一緒でいいか///////?」


 

 あーっ!

 せっかくアマディアス兄さんといちゃつけるはずだったのにぃっ!


 マリーがそう言い始めると、アマディアス兄さんは「では頼む」と言ってさっさと一人でお風呂に行ってしまった。





 私はマリーに捕まってカルミナさんとエイジも一緒にお風呂へと行く羽目になるのだった。


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