1-30:ユエバの町


 イザンカ王国領、ユエバの町。



 ここは古くからイザンカ王国とドドス共和国、そして東にはジマの小国への中継点の町として知られている。

 そして場所的にどの国の街にも向かえる冒険者が集まる冒険者の町とも言われている。


 と、エマニエルさんには教わっていた。

 私は城からは初めて出たので知識はあるけど現物は初めて見るものばかり。

 見えてきたユエバの町は、首都ブルーゲイルの街同様に高い壁で囲まれた場所だった。


 噂では百年程前に一旦町が破壊され、教会の鐘突き堂以外は瓦礫の山になったと言う話だが、いつの間にか元に戻っていたと言う訳の分からない状況もあったらしい。

 町を瓦礫にする程の災害だか何だかの時には住民はこの近くにある世界最大の迷宮に逃げ込んでいたとか。

 迷宮はあの黒龍の住処とも言われていて、黒龍はその最下層に通常は住んでいるらしい。

 なのでその時は住民たちは黒龍の庇護を受けたとか。


 うーん訳の分からん話だこと。 



「まったく、邪魔です!」


「なんニャこの雑魚どもわニャ!」


「くっくっくっくっくっ、我が主様のお通りです、頭が高いですよ!」


 

 ユエバの町の防壁近くに集まっている魔物たちがあの三人に吹き飛ばされていた。



「これ、町のもう一つの問題も片付いちゃったわね……」


「おいアルム! 前から気になってたんだがお前んとこのあの従者って一体何っ!?」



 同じく馬車に乗っていたカリナさんとエイジがこちらに向かって聞いてくるも、正直には話せない。

 あの三人の力は正しく規格外だ。

 多分、あの三人で国の軍隊に匹敵するのでは?


 私が回答に言い淀んでいると、アマディアス兄さんが助け舟を出してくれる。



「あの三人は我が国の精鋭部隊の者だ」


「いや、アマディアス兄ちゃん、それでも何百匹もいるゴブリンやオーク、コボルトにときたま混じってる他の魔獣も一緒にふっ飛ばしているんだけど!?」


「精鋭だからな」


「言い切った!?」


 あくまでも精鋭部隊の者と言い切るアマディアス兄さん。

 これ、ある意味開き直ってない?

 まぁ、本当の事は言えないけど……



「マリーのやつ、また強くなってる…… 流石『ブラッドマリー』の異名は健在ね」


「ブラッドマリー!? 何ですかそれ!?」


 カリナさんが言う物騒な二つ名に思わず聞き返してしまった。

 するとカリナさんは意外そうな顔してこちらを見ながら話し始める。


「マリーは昔ユエバの町で冒険者やっていたのは知ってる? その時に前衛を任せると対象物を必ず血祭りにあげると言う強さを誇ったの。それでついたあだ名が『ブラッドマリー』、毎回返り血であの銀の髪の毛を真っ赤に染めていたっけ」


 何それこわっ!


 マリーは現在二十二歳。

 私の専属としてこの五年間よく仕えてくれている。


 ……ちょっと待て。

 確かお母様の所に来て、私がすぐ生まれてそれからずっと私専属になっていたって事は、冒険者の頃って十六、七歳?

 その前にはジマの国にいたらしいから、マリーって一体……



「あの、そうするとマリーって冒険者の時って成人したばかり位だったんですか?」


「ああ、そう言えばそうかもね。人族ってすぐに年取るから細かい事は覚えてないけど、今の彼女はあの時より強くなってるわね。返り血であの銀の髪の毛を染める事がなくなってるもんね」


 そう言ってカリナさんはなんか楽しそうにする。

 私もつられて外を見ると、あの三人の中でマリーもなぎなたを振ってばったばったと魔物たちを処理していた。

 確かにその姿は返り血を一滴もうけてはいなかった。


 マリーさん、あなたって一体……


 そんなこんなでユエバの町のもう一つの懸念事項だった、町周辺の魔物一掃が終わった。

 私たちはカリナさんの先導でユエバの町に入るのだった。




 * * * * *



 町中は至って普通のものだった。


 私のいるブルーゲイルは魔道具による街の整備が進んでいたが、ここユエバの町はそうではなかった。

 何と言うか、ファンタジーの世界の町そのもの。

 町並みも道路とかは地面がむき出しのままだった。



「おおっ! 外部から来訪者だ!!」


「じゃぁ、魔物たちはどこかへ行ったのか?」


「商業ギルドに連絡しろ!!」



 町の城門を開いてもらって中に入るとそこにいた人びとが騒ぎになる。

 どうやら魔物が大量に発生して町に閉じ込められていたようだ。



「カリナさん、もしかして今までユエバの町って出入りが出来なかったの?」


「ええ、大体三、四日前くらいからね。いくら弱い魔物でも数があれだけいたら冒険者で掃討するのは厳しかったからね。なので金等級である私が様子を見に出てたのよ」


 そう言って薄い胸を張る。

 エルフ族はその身体特徴的にスレンダーな種族だとか。

 確かにカリナさんもそうだった。

 その代わり身軽で魔力量が多く、精霊魔法の使い手ばかりだと聞く。



 ちなみに、この世界には大きく分けて三つの魔法系統が存在する。


 一つが私が得意とする魔法。

 これは基本的には古代から連なる魔法を指し、女神様の御業の秘密を人に伝えたものとされる。

 呪文や魔法陣の助力を使って魔法を発動させるやつだ。

 生活魔法もこれに入る。


 二つ目が精霊魔法。

 これは先のエルフ族が得意として、精霊にエルフ語で呼びかけて魔力を代価に力の行使をするものらしい。

 なので普通の魔術師には扱えない。

 というか、まずはエルフ語が分かって精霊との交信をしなければならない。

 精霊に気に入られないと精霊は呼びかけに答えず、結果魔法が使えない状態になると言う。

 それと面倒なのが四大精霊と呼ばれる、土、水、火、風の精霊たちはその媒体が無いと存在できないので、例えば水の無い場所では水の精霊が使えない。

 なので、精霊使いは水筒を持ち歩くとか。


 三つ目が神聖魔法。

 これは主に教会などの僧侶たちが使う魔法で、傷を癒したり病気を治したりする魔法で、凄いやつだと投入する魔力量によって失った手足まで再生できるとか。

 ただ、この神聖魔法って今の女神様じゃない古い女神様からの恩恵らしく、その辺は「今までこうだったから!」的な感じであまり深く考えてはダメらしい。

 それに疑問を持った瞬間、神聖魔法が使えなくなると言うなんとも皮肉な魔法らしい。

 研究者の中には、「思い込みで魔法使ってんじゃね?」とか、「結局古代魔法と同じで呪文さえ分かれば普通の魔術師でも使えるんじゃね?」とか言われている。

 確かに簡単な【回復魔法】と僧侶が使う【癒しの奇跡】の効果はほとんど同じ。

 

 呼称が違うだけとも言われている。



 さて、そんな事を思い出しながらいると、馬車はカリナさんの指示で大きな建物の前で止まった。

 そしてカリナさんが馬車のみんなに声をかける。



「着いたわよ。ここがユエバの町の冒険者ギルドよ」





 私たちは冒険者ギルドのへと入ってゆくのだった。

    

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る