1-31:不穏な動き
「エディ! 今戻ったわよ!!」
ばんっ!
カリナさんはそう言っていきなり両開きの扉を開いた。
中には大きな机に座ったおじさんがいて、身なりや部屋の作りから偉そうな人に見える。
そのおじさんはカリナさんに驚きながらも慌てて彼女の方へやって来る。
「カ、カリナ!? 戻ったのか!! で、どうだった?」
「どうもこうも、全部問題解決よ! ユエバの町の近くにいた魔物たちも一掃したからもう大丈夫よ!!」
カリナさんはそう言って自分の成果でも無いのに偉そうに薄い胸を張る。
そんなカリナさんを見ていたおじさんは後ろにいた私たちに気付き驚く。
「これは、アマディアス殿下!! 何故このような場所に!?」
「驚かせてすまない、確かエディ殿だったな。旅の道中カリナ殿に会いましてな、ユエバの町まで同行を希望されてやって来たのだ。しかし、町についてみれば周辺に魔物たちがひしめいていたので一掃をしたところだよ」
おじさんはすぐにその場で膝をつきアマディアス兄さんに頭を下げお礼を言う。
兄さんはおじさんに対して頭を上げるよう言って立ち上がらせる。
そしてギルド長のおじさんは更に後ろにいた私たちにも気づく。
「もしやそちらはアルムエイド殿下では? それにエイジ様も?」
「おや、ご存じか?」
「ええ、僭越ながらアルムエイド殿下のお誕生日にご挨拶に行きましてね」
うわぁ~。
あの誕生日会に来ていたんだ。
私はマリーをちらりと見ると小さく頷く。
あの時は三桁を超える祝辞の挨拶の応対で、誰が誰だか覚えてなどいない。
その中にこのエディさんもいたのか。
なんかごめん。
顔覚えて無くて……
そんな事を思っていたらアマディアス兄さんが話題を変えてくれた。
「しかしエディギルド長、この魔物の発生、我々も時季外れのグリフォンの群れに襲われたが何かご存じで?」
「はい、実は我々もその件につきましては調べておる所でした。そこのエルフの上級冒険者に近隣の状況を調べてもらっていたのですが……」
エディギルド長はそう言ってカリナさんを見るも、カリナさんは薄い胸を張って言う。
「残念ながら何も分からなかったわ!」
「うぉぃっ、カリナぁっ!!」
思わずカリナさんのその態度に突っ込みを入れるギルド長。
いや、気持ちは分かるけど。
しかしカリナさんはニヤリと笑いながら言う。
「でもね、グリフォンの群れは本来この時期はもっと南にいる。それもドドス共和国領内辺りにね。そしてマリーから聞いたけど、はぐれジーグの民が動いていた。となれば……」
「となれば?」
ごくりと唾を飲むエディギルド長。
もちろん私たちもカリナさんのその次の言葉を待つ。
「なんだろね?」
「うぉぃぃぃぃっ! カリナぁっ!!!!」
思いきり突っ込みを入れるエディギルド長。
しっかりと手刀を裏拳の如くびしっとカリナさんの方へ向ける。
何なの、この漫才コンビ?
「と言うのは冗談で、今ジマの国では黒龍様が不在よ。そしてはぐれジーグの民がイザンカのあたりで動いていた。更にこの時季外れにユエバの町近郊あたりでグリフォンの群れが発生したおかげで逃げ出した下級魔物たちがこの町付近に大量に現れた。これって前にも似たような事があったのよ、数百年前だけどね」
カリナさんはそう言って腕を組んでこちらを見る。
その様子に誰もが彼女の次の言葉を待つ。
カリナさんはそんな私たちの様子を見てから真面目な表情で言う。
「ドドス共和国が動いている可能性があるわ」
「ドドス共和国が?」
カリナさんのその言葉に真っ先にアマディアス兄さんが反応した。
それを見たカリナさんはニヤリと笑って続ける。
「殿下、数百年前の話となると人族は記憶に薄まっているやもしれませんが、ドドス共和国はジマの国とイザンカ王国に対して野心を捨ててはいません。表面上は和平を謳っておりますが、その実、何かの機会があれば牙を向けてきます。それは何度も歴史上繰り返されて来た事。今ドドス共和国では何が起こっているかご存じで?」
カリナさんの言うその言葉にアマディアス兄さんは暫しカリナさんを見ていたが、あきらめたように言う。
「魔鉱石の輸出が減っていると聞いている」
「ご名答です。今ドドス共和国の財源となる魔鉱石の輸出が減っています。市場でも魔鉱石の価格は品薄の為に値上がり始めて来ています。そうなるとどうなるかお判りでしょう?」
「財政の見通しが悪く成れば当然穴埋めをしなければならないが……」
「今、ジマの国は黒龍様が不在です。となればイザンカ王国にちょっかいを出してもジマの国の盟約は黒龍様不在の状態で行われる」
そこまでカリナさんが言うとアマディアス兄さんはハッとなって私を見る。
「仕掛けてくるつもりか…… となればこちらの戦力は可能な限り削っておきたい…… たとえそれが脅威になるかどうか未知数の子ども相手でも!」
アマディアス兄さんはそう言って、ぎりっと奥歯を噛む。
そして滅多に見せない苛立った顔つきで言う。
「ドドス共和国か、後ろにいたのは!!」
「さて、まだ確証は取れていませんが私が知る限りあの国とはそう言う国と思います。いや、あの貴族たちはと言うべきでしょうね。全く何百年経っても懲りない連中です」
カリナさんはそう言って肩をすくませ両の手を上げて見せる。
と言う事は、私を襲ったあのはぐれジーグの民も、今回のこの周辺の魔物発生もみんなドドス共和国の仕業と言う事になる。
「ドドス共和国……」
私はそうつぶやくのだった。
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