1-29:ユエバの永遠の乙女


 どうやら近くにこちらの様子をうかがっている何者かがいるようだった。



 私はアビスとカルミナさんにその者を捕らえるよう指示をする。

 すぐにアビスとカルミナさんがその者を捕らえに行くけど、大丈夫かな?

 殺しちゃわないだろうか?


 もしまた私を狙った刺客なら今度こそ捕まえてその背後を調べたい。



「アルム、近くに何者かが潜んでいるのだな?」


「はい、カルミナさんが気付いたようですしアビスも一緒に行かせましたから多分大丈夫とは思いますが……」


 マリーにエイジを頼みながら、私はそうアマディアス兄さんに応える。

 カルミナさんの感知は多分確かだろうし、もしまたジーグの民でもアビスがいれば何とかなるだろう……


 ん?

 もしジーグの民だったらカルミナさんでも感知できないはず?

 となると、他の誰かかな……


 ちょっと首を傾げ私は彼女らの帰りを待つ。

 その間にこちらも状態を立て直し、馬車に戻りながら陣形を組んでいると、カルミナさんたちが戻って来た。



「アルム~捕まえて来たニャ!」


「くっくっくっくっくっ、貴女、よもや我が主に危害を加えようと画策でもしたのでしょうか? 我が主の前で正直に言えば苦しまずに始末してあげますよ?」



 戻ってきたカルミナさんとアビスは一人の女性を捕らえていた。

 年の頃はマリーと同じくらい。

 多分二十歳ちょとだろうか?


 しかし近づいてきた彼女はあからさまに私たちと違っていた。


 耳がやたらと長い。

 何と言うか、笹の葉っぱの様に頭の横に飛び出ている。



「だから違うって言ってるでしょうに! 何なら冒険者プレート見せてあげるから!!」



 そう言てカルミナさんたちに連れらて来たその女性はエルフらしき人だった。



「あなたは……『ユエバの行かず後家』?」


「だぁ~れが行かず後家だぁッ!!!? って、あんたはマリー??」


 長い金髪でもの凄い美人さんのそのエルフの彼女はこちらにいたマリーの顔を見て驚きの表情をする。

 だがこちらのマリーは眉間にしわを寄せて嫌そうな顔をしている。



「マリー、知り合いなの?」


「知り合いというか、まぁ、彼女はユエバの町では有名な人物ですから……」


「ちょっとマリー! マリーならこいつらに言ってやってよ! 私は怪しい者じゃないんだからって!!」


 怪しい人が自分から怪しい者とは言わない。

 が、マリーも知っているほどのユエバの町の有名人なら多分違うのだろう。


 私はカルミナさんとアビスに言う。


「その人、放してやってよ。いろいろと話が聞きたいからね」


 私がそう言うと彼女はこちらを見て言う。



「あんた誰?」



 その瞬間アビスが殺気をバラまくのを私は慌てて止めるのだった。



 * * *



「そうか、貴殿が有名な『ユエバの永遠の乙女』か。先ほど我々もいろいろあったものでな、非礼は詫びよう」



 アマディアス兄さんはそう言って彼女に謝罪する。


「アマディアス様、この者にそのような謝罪は不要です。そもそも『ユエバの永遠のいかず後家』が悪いのですから」


「誰が行かず後家よ!! 私はこう見えてもまだ三千歳になってないのよ!? まだまだ若いわよ!!」


 マリーのその言葉にカリナさんと言うこのエルフの女性は憤慨する。



「何よ、マリーだって結局まだ結婚してないじゃない? イザンカ王国へ行ったって聞いたけど何そのメイド服姿?」


「私は既に生涯お仕えする旦那様……もとい、主様がいますからもう嫁いだも同然です。『ユエバの永遠の乙女』とか自分で言いふらして気に入った男を喰いまくっているあなたとは違います」


「何ってるのよ! 私のは純愛よ、純愛! たまたま相手がみんな人族だから先に死んじゃうだけじゃない!! 人を尻軽女の様に言わないでよ!!」


 あ~。

 なんか面倒そうな人だなぁ。


 あまり関わらない方がいいような感じもするけど、捕まえてしまって連れてきてしまったから仕方ない。

 それでも苦笑をするアマディアス兄さんはカリナさんに聞く。



「して、貴殿はこの様な所で姿隠しの魔法まで使って何をしておられたのか?」


「ああ、殿下。誤解ないようにお願います。私はユエバの町の依頼で最近付近で活性化している魔物たちの動向を調べていたのです」


 カリナさんはアマディアス兄さんに向かってそう答える。

 それを聞いてアマディアス兄さんはチラッとマリーを見る。


 マリーはため息を吐いてから小さく頷く。



「そうでしたか、それは失礼をした。我々も先ほどグリフォンの群れに襲われていて気が立っていたのです」


「グリフォンの群れ!? やっぱり…… ゴブリンやオーク、コボルトなんかの下級の魔物が町の付近に大量に現れる訳だ…… 今の時期にはまだグリフォンの繁殖期で無いのに群れで殿下たちを襲ったのですか?」


「ええ、我々も驚いていた所です」


 アマディアス兄さんはそう言うも、カリナさんは周りを見てマリーに言う。



「あんた、一体何やらかしたのよ? この一帯焼け野原じゃない? さっきの大爆発はあんたの仕業?」


「失礼ですね。あれこそ我が主の真なる力です!!」


 マリーがそう言うと、何故かアビスが嬉しそうに頷いている。

 しかしそれを聞いたカリナさんは周りをきょろきょろ見てからアマディアス兄さんに向き直って言う。



「流石イザンカ王国の血筋ですね。魔道の技はイージム大陸でも一級。これも殿下がなさったのですね?」


 そう言うカリナさんにアマディアス兄さんは申し訳なさそうに私を見ながら言う。


「いや、これをやったのは我が弟、アルムエイドだ。彼は私の自慢の弟でもあります」


 そう言うとカリナさんは驚きこちらを見る。

 そしてマリーを見ながらジト目でいう。



「あんたの主って殿下でないとすると、こっちの小っちゃいの?」


 カリナさんが私を見ながらそう言うとアビスがまた殺気立つ。

 私はまたまた慌ててアビスを押さえてから言う。



「どうも、アルムエイドです。それでカリナさん、なんで魔物……と言うか、グリフォンがこんな時期に群れで襲ってくるのですか?」


「ああ、それ等を調べていたらこっちの獣人たちに捕まっちゃってね。私の精霊魔法の姿隠しが通じないなんてそうとうね」


「当り前ニャ! あたしは獣人の村一番の戦士ニャ!!」


 ここでカルミナさんが大きな胸を張って自慢げにドヤ顔する。

 しかしここでマリーがつかさず突っ込を入れる。


「猫はそれでもジーグの民には使い物になりませんでしたけどね」


「にゃにぉニャ!」


「ちょ、ちょっと待って、今ジーグの民って言った? まさかジーグの民が動いてるの?」


 だがカリナさん「ジーグの民」という言葉に反応する。


「はぐれですがね。左腕に追放の刺青がありました」


 だがマリーの話で何か考え始める。



「魔物の活性化、ジーグの民、そしてジマの国では黒龍様が現在不在とは……」



 ん?

 今ジマの国の黒龍が不在って……



「アマディアス殿下、出来れば私と一緒にユエバの町の冒険者ギルドへお越し願えないでしょうか?」


「何かあるのですね? 分かりました。ちょうど我々もユエバの町を目指していた所、一緒に参りましょう」



 ん~。

 せっかくジマの国に御呼ばれしたけど、なんか色々とフラグ立ってない??





 私はそんな事を思いながらガタガタ震えるエイジのいる馬車へと戻るのだった。  


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