1-20:刺客の正体?


 魔人のお陰で私を襲った刺客が倒された。

 しかもアマディアス兄さんの部屋に潜伏していた奴を。



 もうね、城中大騒ぎ。

 警備の甘さは勿論、逃げ去ったはずの刺客がずっとこの城に潜伏していて未だに私の命を狙っていたと言うのだから。


 思いっきり表ざたに出来ない大問題。


 しかも倒したのが魔人となればなおさら。

 一応、内々でアマディアス兄さんが刺客に気付き、倒した事にはしたけど。



「でもよくわかったね?」


「光栄です。主をお守りするのは私の至高の喜びとなりましょう」


 黒執事はそう言って仰々しく頭を下げる。

 が、隣にるマリーとカルミナさんはもの凄く不満気だ。



「くっ、アルム様のおそばに居ながらまったく気配を感じ取ることが出来なかったとは! このマリー、一生の不覚!!」


「アルムの周りの気配はずっと探ってたニャ。それなのに気が付かニャいニャんて……」



 そうとう悔しがっている。

 分からなくはないけど。



「それで、まじ…… この名を出すわけにはいかないか。ねぇ、名前とかないの?」


「私にございましょか? 私共は名前というモノを持ちません。どうぞ主様のお好きなようにお呼び下さい」


「名前が無いの? うーん、今後呼ぶときに困るな……」


 流石に「魔人」と呼ぶわけにはいかない。

 なので適当な呼び名を決めないと……


 アルムエイド、私の名前からいじって……



「アビス。 そうだ、僕の名前からもじってアビスってどう?」


「私めの名前にございますか?」


 私は魔人に向かってそう提案すると、魔人はぱぁっと明るい顔をする。



「アビス! 何と気高くそして深淵なる魔力を持つ我が主と同じく深みを感じる名!! 私めにそのような名を授けていただけるとは!! ああ、天にも昇る気持ちとはこう言う事を言うのですね!!」



 なんかアビスの上に光が差し込んでキラキラとしている。

 相当嬉しいのか、端正な顔を笑顔でキラキラフォーカスしている。


 うん、美形男子を見ているのは癒される。



「このアビス、主様の為にますます殺しに殺しまくりましょうぞ!!」


「いや、殺しちゃダメだって!! いいかいアビス、君はものすごい力を持っているのだからむやみに人を殺したらダメ! これは命令だからね!!」


「分かりました、我が主の御心のままに」



 そう言って仰々しく手を胸に当て頭を下げるアビス。

 まったく、本当に分かっているのだろうか?



 と、使用人が私たちを呼びに来る。

 特にマリーに用があるとの事だ。

 

 私たちは首を傾げ、呼び出しに応じるのだった。




 * * *



「来たか、アルムよ」



 そこは地下室。

 正直あまり居心地のいい場所ではない。


 そしてその部屋の中央には台があって、あの刺客が寝かされていた。


 地下室には既に父王やアマディアス兄さんがいた。

 今回は流石にエシュリナーゼ姉さんたちはいない。



「幼いお前には酷やもしれんが、今後お前に関わる事かもしれん。見ておくがいい」


 父王はそう言って手招きをする。

 そこには衣服を脱がされ、裸になった死体とその者がまとっていた衣服や装備品が並べられていた。



「こ、これは……」


 その死体を見たマリーが思わず口を開く。

 それをアマディアス兄さんは見逃さなかった。


「何か分かったか、マリー」


「この者はローグの民ではありません。ローグの民は全て頭髪が無いのです」


「頭髪が無い?」


 マリーのその言葉にアマディアス兄さんは聞き返す。

 するとマリーは確認するかのように一つ一つ言い始める。


「ローグの民は、ローグの民は長きにわたる迷宮での生活により、肌は青白く頭は頭髪が無く、皆スキンヘッド。男性はひげを蓄えるものが多いと聞きます。しかし…… この者は頭髪があり、ひげも無い。それに…… 」


「それに?」


「こ奴の左腕にあるこの入れ墨、これはジーグの民から追放された者の証。こ奴は、はぐれジーグの者と思われます」


 マリーのその言葉に皆その左腕を見る。

 左腕の上腕には確かに黒い刺青が輪の様に描かれていた。


 

「はぐれジーグの民とは、一体どう言う者なのだ?」


 アマディアス兄さんはマリーに向かって静かに効く。

 マリーは一旦息を吸ってから思い出すように語り始めた。


「ジーグの民はジマの国の初代王ディメア様に従ったローグの民の分家ですが、ディメア様が後の人族に討たれた後に何処かへ姿を消したと聞いていました。しかし、数百年前にその存在が知られ、『嘆きの森』で静かに暮らしていたという話です。が、中にはその戒律に反する者がいてそう言った者はその村から追放されると聞き及んでいます」


 マリーの説明に一同この刺客を見る。



「そうなると、これはジマの国の差し金では無いと?」


「はい、多分…… 考えられるのはこれらのはぐれジーグを雇っている者がいると思われます」



「はぐれジーグを雇い、アルムを亡き者にしようとする輩か……」



 アマディアス兄さんは珍しくこめかみに血管を浮かせて苛立っている。

 そして父王も。



「マリーご苦労であった。この刺客の素性が分かっただけでも大いなる進展だ。我らイザンカは今まで通りジマの国とは友好関係を続けよう。アマディアス、草たちをジマの国から戻すがいい」


「しかし、父上」


「むしろアルムを襲った輩の理由が知りたい。が、今ではその理由が分かるというモノだ……」


 そう言って父王は私の後ろん控えているアビスやカルミナさんを見る。



 えーと、確かに召喚魔法で主従契約までしちゃってたけど……  


 ……はい、国を亡ぼす事が出来る魔人や、獣人族随一の戦士と言われるカルミナさんをあっさりと配下にしたんじゃ睨まれるわけだ。


 本来なら幽閉か監禁されていてもおかしくない。

 でもそこはやはり親子の情があるのか、アマディアス兄さんに私を託すことでひとまず落ち着いた。


 でも、アビスがこの刺客を倒したことでまた問題が起きた。

 それは私を殺してどこの誰が利を得るかという事だ。



「アルムよ、先の言葉覚えているか?」


「は、はい。お父様」


「うむ、では引き続きアマディアスに従い王道を学ぶがいい。お前には良き王道を歩んでもらいたい。決して力に溺れる事無く、王族としての責務を果たし歴史に名を遺す人物になって欲しい」


 父王はそう言ってしゃがんで私の目線にまでなってくれる。

 それに少し驚きながら頭を撫でてもらう。



「すまんな、アルム。お前はまだまだ幼いと言うのに父親として何もしてやれなくてな」


「お父様?」



 父王はそう言って立ち上がり、アマディアス兄さんを見る。



「アマディアスよ、アルムを頼む」


「はい、お任せを」



 それだけ言って父王は地下室から出て行ってしまった。

 私はポカーンとしてアマディアス兄さんを見る。


「アルム、ふがいない兄ですまなかった。しかし私は出来うる限りの事をしよう。お前が立派になり、いつしかこの私を超える日まで」


「え? アマディアス兄さん??」


 アマディアス兄さんのその言葉に驚き見上げるも、既にアマディアス兄さんはマリーやカルミナ、そしてアビスを見ながら言う。



「弟の護衛、頼むぞ……」



「はい、全身全霊を持ちまして」


「アマディアス様のお願いニャ、勿論引き受けるニャ。その代わり、あたしとお茶して欲しいニャ!」


「くっくっくっくっくっ、何を当たり前の事を。我が主には私がおります。人間風情が気にするような事ではありません」



 マリーもカルミナさんも、そしてアビスも各々好きな事を言っているけど私を守る事に異論はない。

 うーん、これって下手な近衛兵より強力な連中が私の護衛になっているって事よね??




 うーん……

 

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