1-19:大問題


 どうしてこうなった?



 今私は父王の前で兄たちも含め囲まれている。

 それもそのはず、魔人を従者にしてしまったからだ。



「アルムの魔力漏れは凄いとは知っていたが……」


 王様である父はそう言って大きくため息を吐く。

 もちろん、アマディアス兄さん他、みんなも同じ感じだ。

 正直居心地が悪い。



「アルム、確認するが後ろに控えているその者が魔人で間違いないな?


「……はい、お父様」


 苦虫をかみつぶしたような表情で重々しくそう聞いてくる。

 まぁ、言いたい事は分かる。

 私の後ろには人の姿に化けた魔人が執事姿てたたずんでいる。

 チラ見すると涼やかな顔でこちらを見ている。

 


「お、お父様! アルムは悪く無いわ、私が一緒に魔法書庫に来るのを許したんだから、責は私にあります!」



 一緒にいたエシュリナーゼ姉さんはずいっと前に出てそう言うも、父王に片手をあげられてそれ以上の発言を止められる。



「アルム、その魔人と契約をしたと言うのだな?」


「……はい」



 父王は私にだけ発言をさせるように一つ一つ聞いてくる。

 主従関係を結んだので、事実上この魔人は私の配下で私の意向一つで国を滅ぼせられると言う事になる。

 となれば、私の扱いは今まで以上に厳重となる。



「父上、発言をお許しください。事を大きくさせないために重鎮たちにもこの件は秘密にしましたが、アルムはまだ五歳。この件は私にお任せ願えないでしょうか?」


「アマディアスよ、お前はアルㇺをどうするつもりだ?」


「はい、我が手元に置き王道の何たるかを学ばせようと思います」


 重い空気の中、アマディアス兄さんはそう言って父王を見る。

 事が事なだけに対外的には絶対に知られてはいけない。

 一緒にいたエナリアにさえ厳しくこの事は他の人には言ってはいけないときつく言い聞かせていた。


「なれど、アマディアスよアルムをお前に任せて大丈夫か?」


「お任せを。兄としてしっかりと教育を致しましょう」


 アマディアス兄さんはそう言って深々と頭を下げる。

 すると父王は私を真っ直ぐに見て言う。



「アルムよ、お前でも事の重大さは分かっておろう。そこの獣人の娘をお前の従者に認めるのとは訳が違う。その者はこの国さえ亡ぼす事が出来るのだぞ?」


「……は、はい」



 まるで蛇に睨まれた蛙だった。

 私自身どうしていいか分からない。


 ただ、この魔人と始終契約を結んでから魔力漏れが減った。

 いや、今までよりかなり良くなった。

 多分、こっちの世界に魔人が具現化する糧となる魔力が常に私からこいつに流れているからだろう。

 意識を研ぎ澄ませば、魔人以外にもカルミナさんにもわずかながら常に私の魔力が流れ込んでいる。


 たぶん、使い魔の契約のせいだろう。



「お前はまだ幼い。しかし一つだけは心に刻んでほしい。この国を大切に思い、王族としての責務をしっかりと果たす事だ。分かるか?」


「え、えっと、この国が未来永劫豊かに発展する為に頑張れって事ですよね?」


 私がそう答えると、父王は驚きの表情をする。

 そしてにっこりと笑い言う。



「既に王道の何たるやを理解しているか……であるなら、更にアマディアスの元で学ぶがいい、アルムよ」



 父王はそう言って周りのみんなも見る。



「この件はアマディアスに一任する。皆の者もこれ以上は他言無用じゃ」



 そう言って立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。

 私は大きく息を吐き、その場で椅子に座り直す。



「正直、監禁か何かされるとおもったぁ~」



「そんな事、この私が許さないわ!」


「そ、そうですアルム君は何も悪くないんですから!」


「お兄ちゃん、アマディアスお兄ちゃんのとこ行っちゃうの?」


 女性陣はすぐに私の周りにやって来る。

 

 

「それで、アマディアス兄さんアルムをどうするの?」


「まずはアルムの部屋を引き払い、私の部屋に来させる。従者であるマリーとカルミナ、そしてそこの魔人もな」


 シューバッド兄さんの質問にアマディアス兄さんはこちらを見ながらそう答える。

 つまり、私を常に目の届く場所へ置くつもりだ。



 え?

 アマディアス兄さんと常に一緒??

 何それ、なんのご褒美!? 


 長身でイケメン、私と同じく青い髪の毛が長くすらっとした感じがしてクールな兄さん。

 女官や貴族令嬢から絶大な人気があるアマディアス兄さんを独り占め!?


 ぐへへへへへ、なんて役得!



「あ、アルム君のお世話は私だってしたいんですけど、アマディアス兄様」


「そ、そうよ、アルムは私の弟なんだから!」


「アルムお兄ちゃん、アマディアスお兄ちゃんのとこずっと行っちゃうの? 私は~?」


 しかし姉や妹は不満を口にする。



「今は仕方ないだろう。アルムを立派に教育し、その魔人の完璧なる制御をしてもらわなければならないのだからな」


 しかしアマディアス兄さんの考えは変わらない。

 こうして私はアマディアス兄さんの部屋に行く事となったのだ。



 * * * * *



「ベッドの搬入までは私と一緒でいいな?」


「え? アマディアス兄さんと一緒に寝れるの??」



 きゃーっ!!


 何それ、どんなご褒美!?

 そんなアマディアス兄さんと一緒にベッドだなんて!!

 さ、触っても良いのかな?

 お話してても良いのかな?


 マジ?



「お前さえよければな。邪魔なら私はソファーで寝るが?」


「是非御一緒に!!」



 余計な気遣い御無用!

 こんなご褒美逃す手はない。


 ああ、生前の私だったら確実に食べていたのだけど!!


 でも、今は男の子の身。

 そう言った事は……

 いや、アリだな。


 ぐへへへへへへ



 私が完全にBL頭になっていると、マリーがやって来て扉に向かって何か言っている。



「こちらに運んで」


「こちらですね、了解しました」



 見れば私の部屋にあったベッドがもう運び込まれて来た!?



「ふむ、思ったより早く持ってこられたか?」


「当然です。アマディアス様にご迷惑はおかけできませんから、あ、ベッドは並べる時に距離取ってくださいね」


 そう言ってマリーは使用人たちにてきぱきと指示を出してアマディアス兄さんのベッドから程よい距離を取って私のベッドを設置する。


 

 何と言う事を!!


 せっかくアマディアス兄さんとくんづほつれづ出来ると思ったのに!!

 しかもこんなにベッドの距離とったら、寝ぼけてアマディアス兄さんのベッドにもぐりこむ事も出来ないじゃないか!!



 私は不満げにマリーを見ると、マリーは口元だけニマっと笑っていた。


 こいつ、わざとか?

 わざとなのかぁっ!?



「ふーん、アマディアス様のお部屋ってこうなってるニャ。しかしこれはチャンスだニャ! 既成事実を作ってしまえばニャ……」


「猫はこっちです。私と一緒に隣の控室です」


「ニャッ!? それではあたしとアマディアス様のラブラブな日々がニャ!!」


「うるさい猫ですね。アルム様にそんな破廉恥なモノ見せる訳にはいかないでしょう? ほらとっとこっちへ来なさい」


「うニャぁ~っ!」



 私のベッドを設置した頃にカルミナさんも来たけど、速攻でマリーに連れられて隣の部屋に行ってしまった。

 そして……



「やっぱりお前もついてくるんだよね?」


「当然にございます、我が主よ」



 一人、黒髪の青年が執事服のまま扉の横にたたずんでいる。

 

「貴様は、隣の部屋に行かんのか?」


「行く必要がありますか?」


 アマディアス兄さんのその質問に楽しそうに答える魔人。

 しかしその眼は笑っていない。


「アルムは私と一緒にいるのだ。貴様は控室に行っているがいい」


「しかし、そうしますと我が主をあなた如きが守れるのでしょうか?」



 しゅっ!


 よろよろ~

 どさっ!



 そう言って魔人は片手を窓の方へ振ると、カーテンの影から人が倒れ出た。

 驚き見ればそれはあの黒づくめ!?



「何っ!?」



「私がこちらに召喚されてからずっと我が主に危害を加える機会を狙っていたようです。しかし、この私がいる限り我が主には指一本触れさせることは許しません」


 驚くアマディアス兄さんだったが、すぐにその黒ずくめに剣を抜き近づく。

 が、倒れた黒づくめはそのまま身動き一つしなかった。


「くっくっくっくっくっ、我が主の命を狙おうとは、不届き千万。死してその罪償って貰いましょう」


「死んでいる……」


 魔人は楽しそうにそう言い、黒づくめを確認したアマディアス兄さんは死亡を確認した。


 と、ここでせっかくこの刺客がいたのにこの魔人、捕まえるのではなく殺してしまうとは!!



「殺しはダメだって言ったでしょ!」


「しかしこの者は不遜に主様に危害を加えようといたしましたので」



 魔人は私に向かって深々と頭を下げる。



「とにかくこの者を調べる。マリー、カルミナ来てくれっ!!」



 だがこれで刺客の身元が分かるかもしれない。

 私は大きなため息をつきながらもう一度魔人を見る。



 こいつ、やっぱり要注意だ……   


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