1-18:魔人召喚


 ふと気が付くと手元に一冊の本があった。



 何故かもの凄く気になる。

 私はそれを手に取り、読んでみると「魔人召喚について」と書かれている。

 興味本位でそれを開くと、中には魔人についていろいろ書かれていた。



 魔人とは、異世界の上位種である悪魔をさす。


 有名なのは約千四百年ちょっと前位に北の大地、ノージム大陸のルド王国で時の権力者が起死回生で呼び出した魔人によって国が滅ぼされたと言う逸話。


 当時は戦国時代よろしく、数多の国々が異世界人召喚などを行っていてその勢力を伸ばしていたらしい。

 しかし、愚かな者によって呼び出された魔人は制御が出来ず、逆に自国を滅ぼす事となってしまった。

 そして魔人は自分の世界から仲間のレッサーデーモンやアークデーモンを呼び出し、国民に憑依させ隣国の国々を襲った。


 結果、人類自体の存亡の危機となり各国は戦争を中断してこの魔人の軍団と戦う事となった。

 

 当時の魔人の勢力はかなりのモノで、かなりの数の滅びた国もあったそうな。

 そしてその脅威に各国は勇者を呼び出し魔人討伐になるのだが……



「まさしく英雄譚だね。しかし、異世界から呼び出された魔人が意思を持ってこの世界を滅ぼそうとしたのか……」



 そんな魔人を召喚できるってのも凄いけど、問題はこの本。

 どうやら古代魔法王国時代は膨大な魔力を背に、魔人さえ使役出来ていたようだった。


 なんでも、魔人ですらその魔力量が凌駕する存在には抗えないとの事。

 つまり、魔力さえデカければ魔人でさえ使役できるって事!



「うーん、流石に魔人召喚はなぁ~。いくら僕の魔力が漏れているからって、流石に世界を滅ぼすような魔人相手じゃね」


 そんな事を言いながら魔導書を閉じようとして、そこに書かれている魔法陣に手をついてしまった。

 その瞬間、魔法陣に私の魔力が吸われ始めた!?



「なっ!?」



 しまった!

 呪文と言うか構築していた内容を速読と「理力向上」で理解していて、その術式が頭に残っている。

 私の洩れだした魔力と、その理解した術式が発動条件となる魔導書の魔法陣に触れてしまい起動を始めてしまった!



「て、手が離れない!?」



「アルム様、いかがなされ…… アルム様っ!!」


 何とか魔力遮断して手を本から放そうとするも、どんどん魔力を吸われている。

 異変に気付いたマリーが来るも、こうなってしまうと、もうどうしようもない。


 既に魔導書の魔法陣に吸われた魔力のせいで本自体が輝き始めている。



「ダメだ、マリー! みんなを連れて逃げるんだ!! カルミナさんエナリアとアプリリア姉さんをお願い!! エシュリナーゼ姉さん、シューバッド兄さん逃げてぇっ!!」



 私の意志とは裏腹に魔力がどんどん吸われてゆき、本の中の魔法陣が輝き莫大な光亮を放ち始める。


「こうなったら、魔人が出てきたらさっきの爆裂魔法で!!」


 城が壊れてでも魔人の出現は止めなければならない。

 私は意を決して爆裂魔法の為の術式を思い出す。



 きゅ~……


 カッ!!



 まばゆい光は本の魔法陣に集約され、やっと私の手から離れる。

 そしていったん落ち着いた魔導書が魔法陣が描かれたページを上に床に落ちると、その真上に向かって光の柱が出来あがる。

 そしてその光の中に人影が浮かんだ。



「くっ、みんなごめん! 【爆裂核魔ほぉ】」


『お待ちください、我が主よ! 私は既にあなた様の配下にあります!!』



 私はその陰に向かって爆裂魔法を放とうとする。

 しかしいきなり、慌てふためいた声が頭の中で響く。

 驚いてそちらを見れば、光が収まるそこに、真っ黒な青年が立っていた。 



 どっきーんっ♡!!



 そこには頭に悪魔の角を二本携えた、黒髪ショート、赤黒い瞳を持ち端正で整った二十歳くらいの青年の姿があった。

 しかも執事服姿!!



『主様、私をこの世界へお呼びいただき、身に余る光栄にございます。あなた様の深淵なる魔力に敬意を表し、服従の誓いを致します』


 彼はそう言って跪き、私の手を取る。

 そして手の甲に口づけを交わすと、魔力の線が彼の左手に伸びて、そこへ主従契約の印が刻まれる。



『おおぉっ! 何と言う身に余る光栄!! 我が主よ何なりとお申し付けください。主様の命とあれば国一つも滅ぼして見せましょう!!』



「ぽ~っ/////// はっ!? え、えっとあなたはもしかして、ま、魔人?」



 しまった、あまりのイケメンでドストライクだったので一連の事に対して、呆けてしまった。


 気付けばマリーがなぎなたで彼を攻撃しているが、いつの間にか張られた防壁に阻まれ届いていない。

 カルミナさんも同じく獣人化して、まるで女性のワ―キャットみたいな姿になり伸ばした爪で攻撃しているけど、マリー同様にその攻撃は届いていない。

 まるで【絶対防壁】で私と彼が包まれている様だった。



『如何にも。私はあなた様に仕える魔人。どうぞご命令を…… ふむ、この私と主様の大切な時間を邪魔する者がいますね? ちょっと殺してきましょうか?』


「まてまてまてっ! 殺しちゃダメ! 彼女たちは僕の従者たちなんだから!!」



 やっぱり魔人、いきなりマリーたちを殺すとか物騒で仕方ない。

 しかし彼は困り顔で私を見る。



『しかし、こ奴等なかなかでして私の張った防壁をもうじき突き破りますが?』

  

「へっ?」



 ぱっきーんっ!!



 魔人がそう言うと同時に、見えない壁が崩されガラスが割れたような音がする。



「アルム様!!」


「アルムっ!」



 マリーとカルミナさんがすぐに私の間に立ちふさがる。

 二人とも魔人に対して臨戦態勢だ。



「ちょ、ちょっと二人ともまって!」



「アルム様はお下がりください! この者、ただならぬ気配がします!!」


「ちっくしょうニャ、鳥肌が立ってるニャ!!」


 

 マリーたちはそれでも構えを解かない。

 しかし、魔人は楽しそうに笑い始める。



『くっくっくっくっくっ、いいですねぇ、元気があって。しかし我が主との至高の時間を邪魔するとは、万死に値しますよ?』


「何を!!」


「こいつニャっ!」


『不満なら相手してあげましょう。すぐ死んでしまうでしょうが』



 まさしく火に油を注ぐ行為。

 もう一触即発状態。



 もう止めて欲しい。

 魔人もなに二人をあおってるのよ!?

 

 


 イラっ。




 ただでさえ魔人が出てきて大変だと言うのに、勝手に主従契約結ばれるし、マリーもカルミナさんも人の話を全く聞かないし!!

 私は心底苛立って来た。





「みんな止めろって言ってるでしょうにぃっ!!!!」





 ドクンっ!

 

 ぶわっ!!



 私の怒りが怒髪天に達した瞬間、体の奥底で何かが開いた。

 それはもの凄い量の魔力となってあふれ出す。



『これはぁ♡』



「み”ゃっ!? な、なんなのニャっ!?」



「アルム様!?」



 対峙していた魔人とカルミナさん、そしてマリーは私の怒りに気付いたようだ。

 特に魔人とカルミナさんは私と繋がっている魔力回路に大量の魔力が流れていてその異変にすぐに気づく。



『くはーっはっはっはっ! 流石主様!! 何と言う膨大な魔力、魔人であるこの私を軽く凌駕するそのお力!!』


「あ、アルム止めるニャぁ~! こ、こんなにされたらあ、あたし、あたしぃニャぁ////////!!!!」



 恍惚とした表情を浮かべ、うっとりとしている魔人。

 太ももを閉じてもじもじとしてへたり込んでしまうカルミナさん。


 そして……



「マリーもやめなさい!!」


「あ、アルムア様ぁ♡」



 あ、なんかマリーまで私の魔力に当てられて赤い顔してはぁはぁしてる?

 とりあえずみんな動きが止まったので、私も落ち着いて周りを見るとみんなピクピクしている。


 私は魔人に向かって聞く。



「主従関係を結んだけど、まず最初に勝手に人殺しちゃダメ! 分かった??」


『はっ、主様の仰せのままに!』



 その魔人はその場で跪き、首を垂れてそう言う。

 私は一応は言うこと聞いてくれるような魔人を見ながら思う。




 どうしてこうなったと……

  

 

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