1-5
「うーん、割と情報は無かったわね」
こってり絞られたピンティが横たわる傍で、スエは聞いた情報をメモに書き起こした。
アタラ山に居る鬼の面を付けた怪物は、ここ二十年ほどアタラ山を徘徊している怪物で、そいつの通った後に壊れた木工デバイスが落ちていることがあり、その中には
ドライブを買い取っている者は何者か解らないが、アタラ山を越えた先、ヨウコウ市にあるショウグウ寺に決まった日時に置くことで誰かが金と変えてくれているらしい。
「つまり、取引相手も誰だかわからない、と。役に立たない暴漢ね」
「知ってる情報は全部吐いたでしょ!? 旦那の元へ帰らせてちょうだい!」
「それ言うだけならそっちが被害者みたいに見えるけどむしろ私の木工デバイスとかに関してはこっちのが被害は有ったんだからね!」
「あたしのプリティアームのが被害はデカいわっ! あと乙女心!」
そんな二人を他所に、ラシャは思い立ったかのように立ち上がる。そして二人に軽く頭を下げる。そして朗らかに、あっけらかんと別れを告げる。
「では、僕はこれで。お世話になりました」
そしてロナの手を取って茶屋の従業員室を出ようとしたため、スエが呼び止めた。
「ちょっとちょっと。目的地はアタラ山でしょう? じゃあ一緒に行きましょう」
スエはてきぱきと荷物をまとめていく。ラシャが口を開くより先に、スエは続ける。
「目的は同じアタラ山の怪物なんだし、旅は道連れ世は情けって言うでしょ? それに、
「それを言われると、確かに、そうですけど」
「ああ、あと、道案内としてあいつは連れて行くわよ」
バレないように静かに這い出そうとしていたピンティをスエは指さした。
ラシャは少し考え、ため息交じりに渋る理由を口にする。
「僕の旅の目的は、復讐です」
ラシャは思い詰めたように、ぽつりぽつりと続ける。
「僕とロナが居た寺の皆、僕ら二人以外の家族を殺した奴が鬼の面を付けていたんです。僕も四肢を切り落とされ、朦朧とする意識の中でそれだけしか覚えてなかったんですが。あれは人の力とは思えない剛力を振るっていました。あの鬼の面の怪物と相対する以上、巻き込むわけにはいかないと思うんです」
そうして拒絶されることを恐れて口どもったラシャの言葉をスエは軽く笑い飛ばした。
「私の旅の目的はね、ドライブを流してる奴を絞めること」
スエは何食わぬ声の調子で、しかし強い意志を感じさせる声で続ける。
「私の元居た一座はドライブで正気を失った憲兵によって殺されたの。つまり、私も復讐が旅の目的ってことね」
そして、スエはラシャの前に立って握手を求める。
「私より腕が立つようだし、お互いに頼っていきましょ。大丈夫よ。危なくなったら逃げるから。まあ、もしかしたらお互いに仇が一緒かもしれないじゃない?」
巻き込みたくないのだ、という言葉もスエは笑い飛ばすのだろうとラシャは思った。そこで苦し紛れにロナに意見を求める。
「ロナ、スエさんが付いてきていいかな? どう?」
と聞いたところでロナは答えない、とラシャは思っていた。が、僅かに、ロナのラシャの手を握る力が強くなる。
「え? 今、気のせいじゃなければ……! ロナ、今僕の手を握ったの?」
ラシャがロナの顔を覗き込むと、僅かに視線がラシャを追う。何も言いはしないが、僅かに反応がある。
その様にスエが我が事のように喜びを見せる。
「反応あったじゃない! 今までに何の反応も無かったんでしょう? 何が切っ掛けか解らないけど、良い兆候ってことよね?」
確かに。何が切っ掛けか解らない。今日は特に騒がしかったから、その結果かもしれない。もしそうなら、少しの可能性がスエと同行することであり得るのだとすれば、ラシャに選択の余地はない。
だが復讐の旅路に他の人を巻き込むのは……どう考えても間違っている。
利用してよいのか、巻き込んでいいのか、だがロナに少しでも可能性があるならばと葛藤した中で、ラシャは少しだけ自身の悪い心に目を瞑ることにした。
「解りました。これじゃあ仕方ない。改めまして、よろしくお願いします」
ラシャはスエの手を取った。
「ええ、よろしく。良いわよ、頼ってくれて」
反対側の手で、ラシャとロナの握る手に僅かに力がこもる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます