1-4
「とはいったものの、どうしたものか」
目の前でなおも膨れ上がる肉塊を前に、ラシャは考えながら走る。
気のせいでないならば、この状態はこの悪漢にとって不測の事態なのだろう。あの困惑した表情からして解る。ならば、この人もまた何とか助けねばならないとラシャは考えた。助けを求める者ならば助からねば嘘だと、そうラシャは信じている。
とはいえ、肉塊はみるみるうちに膨れ上がり、今にも周囲を巻き込んで破裂しそうになっていた。
「
ラシャは背負っていた大太刀を引き抜こうとする。だが引き抜けない。
「でしょうね。抜刀するまでもない、と」
刀だというのに引き抜けないことにどこか納得した様子のラシャは、象牙質の拵えの鞘ごと、その膨れ上がる悪漢の首元に突き刺した。
すると突き刺さっているわけでもないのに、大太刀を、その鞘を突き立てた場所から赤黒い何かが吹きだして空に霧散して消えていく。それは、
徐々に正気に戻ってきたピンティが、狼狽しながらも助けを求める。
「た、助け、て。体の中で、誰かが、あたしを乗っ取ろうとしてる」
「では、うまく行くように御仏にお祈りください」
その様にラシャは事態の収束を確信して安堵の吐息を洩らした。
「この大太刀、名を『
そうして、魔刀の退魔の力故か、ドライブはピンクのトサカの悪漢の体から徐々に抜け出し、ゆっくりと、しかし確実に、事態は解決へと向かった。
その後、難なくピンティはしぼみ、元の姿より縮んで脅威でもなくなった。
ただ、ラシャも想定していなかったのだが……。
「ああ、あたしの、可愛い姿が……ただ金目の物があると聞いて強盗しにきただけなのに……」
ピンティと名乗る筋肉質の悪漢であった者は、体内のナノマシンが抜け出してすっかり別人の姿へと変わっていた。
聞けば、ラシャの大太刀、非想緋緋蒼天が金になると聞いてやってきたものの、筋骨隆々×6の姿に女将が腰を抜かし、つい調子に乗って客たちや店の金をとろうとしていたところにスエの飛び蹴りが飛んできた、と。
すっかり、物理的に小さくなったピンティをラシャが励まそうとする。
「いやあの、女性だったんですね。あ、その、今の姿も可愛い、ですよ? あ、お団子貰って来たんですがいかがですか?」
結果的にラシャに助けられた、ピンティと名乗る女性をあの手この手で励ましたが、ピンティは落ちこんだままである。一般価値観的には今の方が可愛い美人だが、本人は納得がいっていないようである。
「まして、旦那以外にこの姿を見られるだなんて! もうお嫁にいけない!! ……あとお団子は貰う」
旦那が居るなら嫁にはすでに行っているのではないか。
そんな縮んだピンティを茶屋の奥の従業員室へ連れ込み、スエは彼女に聞きたいことがあるとして詰め寄る。
ラシャがどこか申し訳なさを感じている最中、スエがピンティの胸ぐらに手をかける。
「それで、あのドライブはどこで手に入れたの? どうやって手に入れたの? 商品って言うけど誰に売る予定だったの?」
胸ぐらを掴まれ、ピンティは怯えながら応える。
「うぇえ!? あ、あれは旧道外れの、アタラ山に居る怪物から回収した物で。あ、アイツからあたしの
「そこはどうでもいい。で、そいつはどこの何者? 怪物ですって?」
「なんでよぉ! 六本のゴリマッチョ腕良いでしょ!? 良いでしょぉ!?」
「話逸らすんじゃないわよ! 怪物って何!?」
直後、スエに揺すられながらピンティが洩らした言葉にラシャの意識は取られる。
「なんかわからんが鬼の面を付けた怪物だって!」
ラシャがスエの手を止める。一瞬助かったと思ったピンティだったが、そうではなかった。
「その鬼の面の怪物について、詳しく!」
ラシャまでもが詰め寄ってくる。
「ドライブに関して、詳しく!」
二人に詰め寄られ、ピンティはついに音を上げた。
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