1-3
「金になる刀を持つガキが居るって聞いて来たんだ! 何処に居やがるか教えてくれりゃ帰るって言ってんだよ!」
表には見るからに分かりやすい悪漢が居た。
整髪料で逆立てて固めた髪の毛をショッキングピンクに染め、煙草に焼けた声で喋る、
茶屋の女将は狼狽しながら応える。
「し、知らないよ! 見間違いだって、堪忍しておくれ!」
「嘘つけ!!」
女将のへたりこむ傍の壁をピンクのトサカの悪漢が殴り砕く。
次の瞬間には、スエはそのピンクのトサカの悪漢へ飛び蹴りをくわえていた。
倒れ込むピンクのトサカの悪漢は、器用に六本の腕ですぐに立ち上がる。
「何すんだこのヤロ、いやアマぁ! いやちょ、待っ」
だが、次の瞬間にはスエはピンクトサカの足をスライディングで払い、倒れたところを蹴り飛ばしていた。
この様に茶屋の中からは拍手と喝采が起こり、スエは少し照れくさくなった。
「そんなそんな、女一人の旅路なもので、荒事に少し理解があるだけでして」
だが派手に蹴り飛ばされたピンクのトサカの悪漢は何食わぬ顔で立ち上がって見せる。
「ふふ、確かに良い蹴りだったぜ」
煙草焼けした声が大衆の拍手喝采を止める。六臂にピンクトサカの悪漢が、今度は油断しないとばかりに六本の腕を使った独特のファイティングポーズをとる。
「このピンティの可愛い顔を足蹴にするとは許せねぇ!」
「ピンティ、って名前なの!? そのゴツイ姿で!?」
「うるせぇ! ゴツイんじゃなくて可愛いだろうが!!」
ピンティと名乗った悪漢の体が二倍に膨れ上がり、六本の腕が異様な威圧感を放つ。そして、スエが反応するより速く、ピンティの右腕三本がスエを捉えて殴り飛ばした。茶屋の壁に叩きつけられ、スエの木工デバイスである左腕と左足が折れていることに気付く。
思わず悪態がスエの口を突いて出る。
「いたた……商売道具に傷付けてくれやがって」
そうして動きの悪くなったスエを、六本腕の巨漢が見下ろす。広い鼻面にゴツイ顔つきの悪漢と息が吹きかかるほどの距離で見つめ合うことになる。
「うーん、可愛い。だが私ほどじゃない」
そして、ピンティがトドメと言わんばかりに三本ある右腕を振りかぶった。だが、その拳はスエに届かない。その拳を、細い腕でラシャが止めたからだ。重くずっしりとした衝撃音が周囲に響くが、ラシャは左腕一本で器用に止めてみせた。
「暴力はよろしくありません。拳を収めてはいただけませんか」
そうして微笑みかける少年にピンティは左腕三本を振りかぶって叩きつけるように殴りかかった。
改造したその六臂の義体は、厚さ三尺、約九十センチの鉄板すら打ち抜けるほどの力がある。あるはずだ。だが、目の前の細身の少年は左腕と右足で器用にその六本の腕を止めてみせた。(右腕は従業員室に置いてきたためである)つまり、左足一本に自慢の六臂の衝撃すべてが踏ん張られている、ということになる。
なおも、微笑みながら少年の姿をした怪物のような存在が平和的解決を提案してくるこの光景にピンクのトサカの悪漢は狼狽した。
「双方共に納得できる着地地点があるはずです。しかし、暴力に訴えては話し合いの余地が残らなくなります。ですから……」
ピンティは目の前の事柄に恐怖を感じて距離を取った。
「なん、なんだお前。ええい! ここで退くわけにいかねぇんだよ! 納品するはずの商品だったのに、商品を使ってでもここは退けねぇ!」
そして、何か小さな、赤い不気味な液体の入った小瓶を呷った。
するとピンティの体が更に膨れ上がり、赤黒く不気味に脈動し始める。不格好に膨れ上がった体は更に威圧感を放ち、見る者にしり込みさせる暴力的な外見に変貌する。
スエはその小瓶の中身に覚えがあった。
「あれは
ラシャはそのドライブなる物を知らなかった。
「ドライブ?」
「あれは木工デバイスの中のナノマシンを活性化させるナノマシンだって言われてる。製法も流通も解らない物。ただ接種することで
そして、小さくスエは「私の旅の目的」とぼやいたのを、ラシャは確かに聞いた。
そんな二人を他所に、ピンティが吼える。その咆哮すら衝撃波を纏っているかのように周囲を揺らし、なおもピンティの体は膨れ上がる。流石に自身の想定外に巨大になる体に困惑の表情が浮かぶが、それさえ押しつぶすほどに膨れ上がっていく。
スエは膨れ上がる悪漢を睨みつけつつ、自身の体の怪我を思って鼻で笑う。
「あの様子じゃ、このままだと破裂して終わりね。ドライブはそういう、使う奴のことすら考えられていない物なの」
スエは周囲の客に避難するように伝え、自身も茶屋の奥へ避難しようとする。
その流れでラシャにも避難を勧めようとしたが、ラシャはスエの勧告を断った。
「でしたら、皆さんの身の安全をお願いします。僕はあの人を止めます」
そしてそのまま膨れ上がり続けるピンティに向かって駆け出した。
スエは思わず聞き返す。
「ええ!? いや、無理だって! だいたいどうやって!?」
ラシャは膨れ上がる巨漢の体を駆けあがり、背中に担いでいた大太刀から藍色の布を払いのけた。
「当ては有ります。この魔刀『
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