第10話 柏浩介は試練を与える
「さて、では部活を始めるぞ!」
成田が堂々とした態度で宣言する。
みんなジャージに着替え終わっている。
ただ、いるのは二年生と一年生だけだった。
「春大会も近いことだし、そろそろ役を決めないとだな」
その一言で、空気が変わる。
少しだけ緊迫感が増した。
二年生の三人は、それが良い傾向だと解釈する。
「成田先輩ぃ、質問なんですけどぉ。どうやって配役を決めるんですかぁ?」
船橋が軽く手を挙げて質問をした。
成田が視線を送ると、柏が答えた。
「基本的には、俺が判断することになった」
「! 柏先輩がですかぁ!?」
船橋が驚いた声を上げた。
それと同時に流山と船橋は柏に選ばれたいという欲が出た。
「そのためにも改めてみんなの演技を見たくてな。今日は短めの台本を持ってきたから、今日はそれをやってもらう」
成田はそう言いながら、一年生たちに台本を配る。
「これは、八人劇ですか」
「そうだ。ちょうどお前たち一年生の人数だろ? これから一時間半後に俺たち二年生と三年生がそれを見に来るから。あとはお前たちで話し合って決めてくれ」
『え』
一年生全員が驚いた表情をする。
そりゃそうだ。突然一時間半後に劇をすると言われれば混乱する。
柏が補足をする。
「もちろん、台本見ながらでもいいが、動きはつけてもらう」
『!!』
平然と難易度を上げてくる。
そのまま去ろうとする二年生たちを船橋が止めた。
「あ、あの柏先輩ぃ!」
「ん? どうした船橋?」
「さすがにその、一時間半で劇をするのはちょっと……」
「長いか?」
「逆ですよ! 短すぎです!」
「大丈夫だ。そんなに長い劇じゃないし、見ながらでいいってさっき言ったろ?」
「で、でも……」
船橋が他の一年生を見ると、みんな不安そうな顔をしていた。
ただ一人、流山を除いては。
それを見た成田は嬉しそうに話しかけた。
「流山凛。だいぶやる気みたいだな」
「はい。だってこれが春大会の評価になるんですよね?」
「うむ。その通りだ!」
渡された台本に目を通しながら、流山は答えた。
彼女の瞳には不安や恐怖は一切なかった。
その熱に当てられたのか、他の一年生たちも台本を読みだす。
「どうだ船橋? 出来るだろ?」
柏は笑顔で船橋に問う。
覚悟を決めた船橋は、拳を作りながら柏に言った。
「分かりましたよ! やってやりますよ!」
それを見た二年生たちは満足そうに教室を後にした。
~廊下にて~
「はぁ……」
「おい、浩介さっさと離れるぞ」
「いや、でも……」
「そうだぞ柏。こっから先は一年生で決めることだ」
「しかしだな、もし何かあったら」
「「くどい」」
「な! 二人ともなぜそんな平然とできる!?」
「この心配性のバカ者が」
「過保護が過ぎる」
そう言って成田は柏の右肩、松戸は左肩を持ってずるずると引っ張る。
本当は心底心配な柏なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます