第11話 船橋希色は主役をやりたい

 教室に残された一年生達。

 みんな流山に倣い、台本を読んでいた。

 しかし船橋は現状のままではまずいと考え、動き出す。


「みんなぁ、それぞれで台本読むのもいいけどぉ、ここは読み合わせしない?」


「そ、そうだね。私もそれが良いと思う」


 船橋と仲のいい君津がすぐに肯定する。

 他の一年生は周りの、いや、流山の顔色をうかがっていた。

 流山は船橋の方を見て答える。


「そうですね。時間もないですし読み合わせをしましょうか」


 その一言で他の一年生たちも賛成し出す。

 船橋はその様子に苛立ちを覚えながらも表には出さずに話を進める。


「じゃあ、さっそく役を決めてぇ、読み合わせしよっかぁ」


「どうやって役決めます?」


「時間もないしぃ、やりたい役があるのなら挙手して、他は私が決めよっかぁ」


「そうですね。それでいいと思います」


 他の一年生たちも頷き、配役は船橋が決めることになった。

 この瞬間、船橋は思った。


(勝った。どうせ受動的なみんなはやりたい役なんてないだろうしぃ、ここは私を主役にして柏先輩の評価を上げるんだからぁ!)


「まず主役の次女役なんだけど、やりたい人がいないなら私が」


「あ、私、主役やりたいです」


 流山が手を挙げて船橋の言葉の途中に割り込んだ。

 この瞬間、船橋は思った。


(流山ぁぁぁぁぁぁ!!!! お前にだけは絶対主役はやらせないぃ!!!1)


「流山さん。私も主役やりたいんだぁ」


「そうですか。どうします? じゃんけんでもします?」


「でもでも、流山さんって高校から演劇始めたんだよねぇ? いきなり主役をやるのは……」


「これって別に年功序列とかではないですよね?」


「そうだけどぉ、主役ってセリフ量とか一番多いしぃ」


「大丈夫です。台本見ながらしていいと柏先輩も仰っていましたし」


「でもでも、他の役との掛け合いも多いだろうし」


「大変なのは分かっています」


「けどね――」


 どうにか理由をつけて自分が主役をやろうとする船橋と、平然としながら主役を狙う流山。

 二人のいい争いを見ながら他の一年生は、


「どうする?」


「ちょっと男子。止めてよ」


「だそうだ木更津」


「いやオメーも男子だろ」


「頑張れ凛ちゃん」


「ま、負けるな希色ちゃん!」


 もはや混沌。

 収拾がつかなくなっていた。


「流山さん。主役が止まるとぉ、劇全体が止めるんだよぉ? 主役の重さ分かっているぅ?」


「でもそれってどの役にも言えますよね? 主役だけが特別重いわけじゃないと思います」


「それが分かってないって言っているんだけどぉ」


 刻一刻と時間だけが過ぎていく。

 他の一年生も困り果てていた。


「時間ヤバくない?」


「ちょっと男子」


「だそうだ木更津」


「だから! お前も男子だろうが! こういう時はじゃんけんだ!」


「分かった」


「はうう」


 誰が間に入るかで、じゃんけんをし出す他の一年生。


『じゃんけん、ぽん』


 負けたのは言い出しっぺも木更津だった。


「じゃ、よろ」


「頼んだ」


「だそうだ木更津」


「クソ! 分かったよ!」


「ほら、早く」


「が、頑張って木更津くん!」


 意を決して、二人の間に入る木更津。


「お、お二人さん。時間もないことだしここはじゃんけんで」


「木更津くんはぁ、どう思う?」


「そうですね。忌憚ない意見を聞きたいです」


「え、いや、ここはじゃん」


「やっぱりぃ、初心者がいきなり主役をやるって言うのはぁ、どうかと思うよねぇ?」


「ですから、これは稽古ですし自分のやりたい役に立候補して何が問題なのかと」


「ここは、じゃん」


「木更津くん?」


「木更津さん?」


「何でもないです。どうぞ続けてください」


 そう言って木更津は二人の視界から逃げるようにみんなのところに戻った。

 そして、何事もなかったかのように言い争いを続ける二人。

 涙ぐみながら木更津が戻ると「お疲れ様」「ちょっと男子。頑張ったじゃん」「だそうだ木更津」「よくやった」「す、すごかったよ木更津くん!」と少しだけ仲良くなった六人だった。

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