第6話 館山涼子はよく食べる
「はぁ……」
「なぜため息をついている館山?」
学校帰り、柏と館山は並んで歩いていた。
不意に出たため息を指摘され、館山はジト目で柏を見る。
「べーつにー。何でもないよ―だ」
「?」
朴念仁の柏はよく分かっていなかった。
その態度に少し苛立ちを覚えながらも、まぁ柏っちらしいかと結論付ける館山。
「よし。今日はクレープたくさん食べるから!」
「お、おう。それはいいけど……流山が不機嫌な理由は分かったか?」
「……そうだね。分かったね」
「本当か!?」
「柏っちが本当に知りたいなら、教えてもいいよ」
「……」
どこか真剣な様子の館山の言葉に柏は黙った。
そして降参するかのように言った。
「参った。いつ気づいたんだ?」
「そりゃ、これでも一応、元カノですから?」
「さすがだな」
「で、いつから流山さんの好意に気づいていたの?」
歩きながら、樫田の右腕に軽く体当たりする館山。
柏は動じることなく歩き続ける。
間もなく駅前のクレープ屋に辿り着く。
「確証があった訳じゃない。ただゴールデンウィークあたりから、もしかしたらとは思っていた」
「ふーん、一週間ぐらい前か」
「ああ、ただそうだとして、どうして俺は睨まれたりしているのだ?」
「まったく、柏っちは乙女心が分かってないね! ね!」
柏の右腕に体当たりを続けながら、館山は話を進める。
なぜ館山まで不機嫌なんだ? と思いながらも、口に出したらろくでもないことになりそうと思った柏は黙った。
クレープ屋に着くと、柏はチョコバナナを館山はイチゴの生クリームを注文した。
もちろん、柏の奢りで。
二人はクレープを受け取り、席に着くと話を進める。
「で? ゴールデンウィークに何かあったの?」
「それがよく分からんのだ」
「柏っちって鈍感系じゃないくせにそういうとこあるよね」
「人をラブコメの主人公みたいに言うな」
「三姫に好かれている時点で、もう立派は主人公だよ……あ、チョコバナナ一口頂戴」
「いいぞ」
そう言って柏は食べかけのチョコバナナクレープを館山の顔の前に持っていく。
館山は間接キスなど気にすることなく、かじりつく。
「んー。チョコバナナも悪くないね」
「そうだろそうだろ」
「それで、柏っちは流山さんをどうするつもりなの?」
「どうするって、べつにどうもせん。部活の良き後輩として接するだけだ」
「ふーん。じゃあさ、告白されたら?」
館山の質問に、柏は一瞬固まる。
チョコバナナクレープを食べながら答える。
「正直分からん。ただ今の俺は部活を優先したいからな。支障が出るようなら付き合わないと思う」
「……そっか。じゃあ! この話はおしまい!」
「いいのか?」
「うん。だって柏っちは今部活が大切なんでしょ? ならこれ以上の話は柏っちを困らせるだけだろうし、私はできる元カノだからね!」
満面の笑みで答える館山につられて柏も笑った。
イチゴクレープを頬張る館山の頬に生クリームがついていた。
柏は手を伸ばし、館山の頬についたのを取る。
「か、柏っち……!」
「ん?」
生クリームを取られた館山は柏の触れた頬に手を置きながら、顔を真っ赤にした。
柏はどうした? と不思議そうにしている。
「そういうの、他の子にしないほうがいいよ……」
「あ、ああそうだな。軽率だったな。すまん」
状況を理解した柏は、素直に謝った。
館山は「べ、別に謝ることじゃ……」と柏に聞こえない声で呟く。
「もう恋人じゃないもんな……」
「……柏っち」
「なんだ?」
「あーほ」
「なん……だと……!?」
その後、館山はやけ食いするかのようにクレープを追加で二個食べるのであった。
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