第5話 柏浩介は素直に話す
柏は先輩たちと話を終えると、みんなのいる教室へと向かう。
きっと女子三人で楽しく演技の話をしているだろうと浅はかなことを考えていた。
教室の扉を開け、中を見た柏は混乱した。
「じゃ、じゃあ私は心臓マッサージをするから館山涼子はAEDを持ってきてくれ!」
「う、うん!」
即興劇でもやっているのか?
そう思い中に入ると、館山がやってきた。
「あ、柏っち。大変だよ! 流山さんが死んじゃって!」
「落ち着け」
「あう!」
そう言って柏は館山の額にチョップをした。
状況が呑み込めていない柏だが、楽しそうに流山の胸を揉んでいる成田を見て、ああこいつが元凶だとすぐに判断する。
「おい、千夏何をしている」
「何って心臓マッサージをだな」
「嘘こけ、顔が笑っているぞ」
「くっ! バレたか!」
「え、嘘だったの? じゃあ流山さんは!?」
「脳の処理が追い付かずフリーズしたんだろ」
「お前ら何の話をしていたんだ……?」
柏が聞くと、館山は言いづらそうに目をそらし成田は露骨に口笛を吹き始めた。
成田はともかく、館山も答えられないことって何だ? と柏は不安を募らせる。
「あれ? 柏先輩?」
「おお、流山。気が付いたか」
「私、何して…………そうだ! 柏先輩!」
「な、なんだ?」
「その、あの……館山先輩とはどういった関係なのでしょうか……?」
何とも言えない瞳を向けられた柏は、なんとなく状況を察する。
千夏のやつが余計なことを言ったのだろう。
柏は正直に話すことにした。
「……館山とは昔、付き合っていた」
「!!」
「詳細に言えば、秋大会で館山とは恋人の役をやることになってな。その期間だけ付き合っていた」
「どういうことですか?」
「まぁ、端的に言えば偽装カップルみたいなもんだ」
「そう、ですか……」
流山は複雑な表情を浮かべて、下を向いた。
柏はすかさず、成田の方を見て訴える。
(おい、この状況どうすんだよ)
(罪な男だねぇ、浩介は)
(言っている場合か! どうにかしろ)
(仕方ないにゃ)
「流山凛、ちょっと来ようか」
そういって成田は流山の肩を持ち、教室の角の方へと歩く。
そして柏と館山に聞こえない声で何やら耳打ちする。
「――――」
「いや、でも……」
「―――――」
「それは、そうかもしれないですけど」
「――――――」
「!? それ本当ですか!?」
急に大きな声を出す流山。
柏と館山は、不思議そうに顔を合わせる。
何の話をしているのか? 二人には知る由もなかった。
そして、柏の近くに流山と成田が戻る。
「すみません、柏先輩。取り乱しました」
「お、おう。なんだかよく分からんが、大丈夫か?」
「はい、もう大丈夫です。部活を始めましょう」
「そ、そうか」
なにやら上機嫌に流山に柏は困惑しながらも部活を始めることにした。
そんな二人の横で、館山は成田に近づき、小声で話しかける。
「成田っち。何言ったの?」
「なに、浩介の好みが銀髪の敬語系後輩だから、お前にもチャンスがあるぞって背中押してやっただけだ」
「え、それだけ?」
「ああ、単純だろ?」
「いや、その……」
「それよりいいのか館山涼子」
「ん? 何が?」
「恋敵の出現だぞ」
「…………成田っち嫌い」
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