第3話 館山涼子はすぐに気づいた

「なにやら、面白い気配!!」


 謎の沈黙を打ち破ったのは教室の扉を思いっきり開く音だった。

 柏たちが視線を向けると、そこには好奇心旺盛な瞳をした成田千夏が立っていた。

 まずい。

 柏の本能が働いた。


「何でもない、何でもないぞ千夏」


「いいや浩介! 僕の第六感がびびびっときたね! 面白いことが起きている!」


「そんなことはない。だから教室に戻っていろ。ほら、ハウス」


「つれないな……おや? 浩介の横にいるのは館山涼子ではないか!」


「やっほー成田っち。お邪魔しまーす」


「どうしたどうした! 演劇部への見学か? それとも浩介の付き添いか? どちらにしても歓迎だ! ほら入った入った!」


 成田は館山に近づくと手を取り、教室の中に無理やり案内した。

 残された柏と流山は、お互いに顔を見合わせる。

 先に話し出したのは流山だった。


「館山さんは演劇部に興味があってこられたんですね。そうならそうとおっしゃて下さればいいのに」


「ああ、すまんな」


 本当は流山のことで相談があって来てもらったとは言えず、話を合わせる柏。


「こちらこそすみません…………私てっきり」


「? てっきり何だ?」


「い、いえ! 何でもありません!」


 顔を少し赤らめて柏から顔をそらす流山。

 柏はなんのことか分からなかったが、とにかく流山の機嫌が直ったことに安堵した。

 そして、成田と館山の後を追うように教室に入っていった。


「相変わらず、広いねーここは」


「ふふふ、そうだろうそうだろう。教室とはいえ机やイスは隣の部屋に片してあるからな」


「そういえば、今年はどれぐらい新入部員入ったの?」


「よくぞ聞いてくれた館山涼子! 今年はなんと8人も入ってな!」


「おおー! 大量だー!」


 オーバーリアクションで楽しそうに話す二人。

 そんな二人と見て、流山は柏に話しかけた。


「あの二人って仲いいんですね」


「ああ、館山は去年の秋大会に助っ人をしてくれてな。そのときから俺らの代や三年の先輩たちとは顔なじみなんだ」


「そうだったんですね」


「ああ、あいつも結構いい演技をしてな。」


「それは柏先輩から見てもですか?」


「? ああ、誰から見てもいい演技だと思うぞ」


 柏は質問の意味を理解していなかった。

 流山の目に嫉妬の炎が混じっていたことを気づかなかった。

 朴念仁の柏は、そのまま話を進める。


「そういえば、他のメンツはどうした?」


「日直だったり腹痛だったりサボりだったりで、現状は成田先輩と私だけです」


「そっか、三年の先輩たちは?」


「打合せで別の部屋にいます。今日の部活は柏先輩に任せるとのことです」


「りょうかい」


 柏はカバンを教室の後ろの方に置く。

 さてどうしたものかと考える。

 

「ちなみに僕は今、人狼がやりたい」


「いや、四人じゃ厳しいだろ」


「えー、浩介のけちー」


 いつの間にか近づいていた成田が要望を出すが、柏が却下する。

 悪態をつくが、柏は気にしない。

 せっかく館山もいることだし読み合わせでもするかと結論付けようとしたときだった。


「あ、あの柏先輩。もしよろしければ少し演技のことで相談したいのですが……その! 人数も少ないようですし! 柏先輩がよければ!」


「なんだ、そんなことか」


「! っじゃあ……!」


「そうだな…………館山、すこし流山の相談に乗ってくれないか?」


「「え」」


「こういうのは同じ女性の方が良いアドバイスができるだろう。俺はちょっと先輩たちのところ行ってくるから、先に話を進めといてくれ」


 そう言って柏は教室を出た。

 唖然とする流山と館山。

 そして腹を抱えて笑いそうになるのをこらえている成田。

 沈黙する教室で、館山はゆっくりと流山の方を向いて聞いた。


「流山さんって柏っちのことが好きなの?」

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