第2話 流山凛はよく睨む

「ということで、クレープの王道はチョコバナナでイチゴではない」


「いやいや、柏っち。話聞いてた? あくまでチョコバナナは値段が安くてリーズナブルだから人気もあるってだけ。本当の王道は生クリームとイチゴ」


 部室に着くまでの間、柏と館山はクレープの王道は何かという話で盛り上がっていた。

 ちなみに柏はチョコバナナ、館山は生クリームとイチゴを押していた。

 そして、話の決着がつかずして部室のある旧校舎へとたどり着く。

 

「んにしても、演劇部はいいよねー。旧校舎の二階丸々部室扱いなんだから」


「過去の栄光の名残だがな」


「クール気取っちゃって、嬉しいくせにー」


 何がだ? と思いつつ柏は旧校舎の階段を上る。

 その横をぴったりと館山が付いて行く。

 それはもう、遠目から見たらカップルだと思うぐらいには近い距離で。

 だが二人はそんなことを気にもせず、二階へとたどり着く。

 それがまずかった。


「柏先輩……?」


 廊下の奥の方から呼ばれた。

 そこに立っていたのは、銀髪高身長の美少女。

 学校指定のジャージに着替えていたのか奥の教室から出たところだった。

 そう、彼女こそ入学して一ヶ月もなく三姫数えられる文武両道才色兼備な優等生。

 そして柏の演劇部の後輩。流山凛だった。


 「おう、流山」


 柏は何の気なしに片手をあげ挨拶をした。

 対して流山は一瞬驚いた表情をして固まった。しかしすぐに顔を強張らせて柏を睨んだ。

 流山は早歩きで柏との距離を詰める。

 柏は睨まれていることに気づくと、横にいる館山にアイコンタクトを送った。


(館山! ほら! なんか睨まれているぞ!)


(あれぇー? なんでだろうねー?)


(そうじゃなくて! 理由を教えてくれ!)


(そんなん、私が分かるわけないじゃん)


(おい! 話が違うじゃないか!)


(私は付いて行くと言っただけだよ)


(なん……だと……!?)


 この間わずか1秒。

 流山は柏に近づくと目の前で立ち止まる。

 柏は息を呑む。


「お疲れ様です。柏先輩」


「お、おうお疲れ様だな、流山」


「きて早々ですが、質問があります」


「な、なんだ?」


「隣のその女性はどちら様ですか?」


 流山の後ろに鬼が見えた柏。

 なぜ不機嫌なのか、何を言えばいいのか分からず一瞬言葉に詰まった。

 その一瞬を流山は見逃さなかった。


「なぜすぐに答えられないのですか?」


「いや、それは……」


「何かやましいことでもあるのですか?」


「ないぞ! そんなものはないぞ!」


「じゃあ、なんですぐに答えなかったのですか? 私には言えないことですか?」


「いや、それはその、迫力がすごくてだな……」


「迫力? 誰ですか?」


「いや、だから、その……」


 柏は流山から目をそらし、横にいる館山の方を見た。

 館山はしょうがないなぁという感じで、一歩前に出た。

 そして流山を見て、笑顔で話した。


「初めまして! 君が流山ちゃんだね! 私は館山涼子です! 柏っちとは……まぁ、友達? 違うな。クラスメイトで席が隣なんだ! ちょっと演劇部に興味あって一緒に来ちゃった! よろしくね!」


 完璧なまでの自己紹介をして、親指をサムアップする館山。

 聞いていた柏は「え、友達じゃないの……?」と心の中で呟く。

 そして、流山は、


「柏っち!? クラスメイト!? 席が隣……!?」


 なぜか驚愕していた。

 その様子を見て、館山に衝撃が走る。


「っ! まさか! いやでも……」


 ある可能性に気づいたが、そんなことがあり得るのだろうかと考え込む。

 対して流山は館山を睨み言い放った。


「私は! 柏先輩と同じ演劇部の後輩の流山凛です!」


「お、おう……」


 そして、そんな二人を見て柏は声に出して呟く。


「え、何の状況」

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