第5話王様vs黒髪少女

「いやだぁ!!!」


 ︎︎王室に国王の声がひびく


「は?」


 ︎︎7歳の少女が出しているとは思えないほどの低い声が、国王の声が響き終わった後に聞こえる


「男装なんて信じらんない!女の子は可愛くなるために頑張ってるのがいいんじゃん!可愛いんじゃん!俺はその過程を見るのが好きだから8歳から毎年パーティー用意してんだよ!」


 ︎︎そのまま座っているソファーに仰向けに倒れ込み赤ん坊のように手を振りながら叫ぶ


「そんな変態みたいな欲望、セレスティーヌ王妃と王子殿下達に聞かせてあげたいです。」


 ︎︎先程といい、国王に向けてはならない様な冷淡な目で見ながら呆れたように呟く


「エルくんのその格好や口調だって本当は嫌なんだよ!許してあげたんだよ!それだけでいいじゃん!セシリア穣は絶対綺麗になるんだよ!」


 ︎︎ついには涙目になりながらエルジェを見つめた


「僕のは村の掟なんだよ。それは村が作られた当初の国王様が許可してるから、陛下が拒否しても無駄なんだよ。何が許してあげた、だ。おま⋯陛下が何を言っても僕の格好や口調は変えられませんよ?」


 ︎︎今度は呆れを隠さず早口で捲し立てた


「お前って!お前って言おうとした!あのエルくんが!やったぁ!」


 ︎︎国王はその一言以外全く聞かず、喜んだ


「うっわ、年下の子供にお前呼ばわりされて喜ぶ変態だったとは思いませんでした。これは王妃にご報告しなければ。」


 ︎︎ソファーから立ち上がろうとしたところで国王が止めようとしてくる


「あぁ!?待って!セレスには言わないで!!」


「あれ?いつもはセレスティーヌと仰るのに、随分と焦っておりますね。」


 ︎︎嘲笑うかのようにフッと笑いまだ座っている国王を見下した


「いや!その!夫婦だしこのくらい当たり前っていうかー?普通だし!」


 ︎︎やや早口になりながら耳を赤らめた


「そうですか。では、ここからは脅迫にしましょうか。」


「へ?」


「今の出来事、セレスティーヌ王妃に言われたくなければ、男装許可証にサインを。」


「うっ⋯」


「家族から冷たい目で見られたくなければ、書いた方がいいですよ。」


「ひ、卑怯者ぉぉ!!」


「どんな手を使っても任務を遂行させる。有能な部下を持って良かったですね、陛下。」


「分かったよ!書けばいいんだろ!セレスに言ったら、さすがのエルくんでも怒るからな!」


 ︎︎国王は不貞腐れながらサインを書き始めた


「書いてくれればいいんです。あ、今お菓子作りにハマっているんですが、陛下の好きなお菓子ってなんですか?」


 こうやって、国王の好感度を上げておくことも忘れてはならない


「作ってくれるの!?エルくんの手料理も美味しかったし、楽しみだなぁ。あ、マカロンがいいな!仕事しながら食べれるし美味しい!」


「分かりました。では、セレスティーヌ王妃によろしく言っておいてください。失礼します。」


 ︎︎エルシェはペコリと頭を下げ、フードを被り直してから契約書を机から取って出て行こうとして止まった


「あっ、忘れるところでした。」


「なんだい?俺との別れのハグか?」


 ︎︎そう言って立ち上がりおもむろに両手を広げた


「陛下、俺というのを直す気はないのですか?」


 ︎︎エルシェはハグという言葉を無視する


「王室のみだから大丈夫だ。それで、要件は?」


 ︎︎流石と言うべきか、もう先程の残念な姿は全く見当たらないほど切り替えられていた


「10〜15のメイドはいませんか?黒髪と、対等に話すことの出来るメイドは。」


「えー、そんなのいる訳ないじゃん。」


「ですよね。どうやってあの人に近ずこう⋯」


「もしかしたら⋯セレスの専用メイドを知っているね?」


「はい。ステラさん⋯でしたっけ?」


「あぁ。ステラの子供がそのくらいだった気がする。」


「では、本人に聞きに行きたいので手伝ってくれませんか?」


 ︎︎エルシェは不安そうな顔をに作り下から目線で国王を見た


「もちろんだとも!!さあ行こう!」


 ︎︎頼られて嬉しかったのか、元気よく扉へと向かっていった







王妃の好きな園芸がすぐにできるよう、王妃の自室は園芸室の近くの南側に位置する。

王室が北側にある為、距離は必然と遠くなってしまう。

すると、エルシェの不得意とする意味のない雑談が始まってしまう。


『雑談ってあんまり好きじゃないんだよな。他人にわざわざ自分の時間をあげてるって感じがして。』


 そのエルシェの性格を親から聞いたのか、国王は意味のある話題を振った


「エルくんから見て、セシリア嬢はどうだった?」


「そう⋯ですね。」


 ︎︎1度考え、ずっと思っていたことを口にした


「彼女、中に何かいる⋯かもしれません。」


 ︎︎エルシェはその後、確信はしてはいないのですが⋯と言葉を続けた


「そうか。それは⋯取り憑かれている、のか?」


「悪魔の気配は感じませんでした。しかし、1度だけ人格が奪われていました。本人も気付いたようですが、それで焦って隠している様子を見るに、自分の中に何かいることを本人は知っているようです。」


 ︎︎取り憑かれると言う言葉から、悪魔の事と察し報告を続ける


「⋯そうか。その存在は確認できそうか?」


「無理⋯ですね。存在としては悪魔ではないことは確認済みです。これから悪魔などになることは無いでしょうが、セシリア穣を乗っ取る可能性は十分にありますね。」


「ふむ。悪魔ではないということは、魔物である場合は?」


「その可能性もあると考えましたが、魔物にとって子供は好物に当たるので、泳がせているとは考えにくく魔物であっても今は無害である、と考えました。しかし、成体が好きな魔物も確認されているので、少なくとも⋯です。」


「⋯では何故彼女は黙っているのだ?」


「今の所の情報では推測でしかないので報告は難しいです。もしかしたら二重人格かと考えましたが、奪われていた時間が短すぎるので可能性は限りなく低いです。」


「⋯ステラの娘、説得に成功しないと情報を得るのが難しそうだな。」


「はい。陛下からもご説明よろしくお願いします。」


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