第4話前世の語るエルという人物

「では、僕は陛下に許可をとってきます。また明日会いましょう。」


「はい、また。」










 エルを見送ってからセシリアは部屋に戻った。


『ルナ。』


『はい!大変申し訳ございませんでした!』


『いや、謝らなくて良いから説明して。』


 セシリアはルナに聞かないといけないことがあった。


『あの時、確実にルナの意識…感情?だったわよね。』


『おそらく、私たちの体は半分半分なんだよ。』


『何が?』


『心がだよ。あの時は私の感情が昂って、一時的に私が体の主になったんだと思う。』


『今も出来るの?』


『多分出来ると思うけど、やらない方がいい。』


『なんで?』


『さっきは半分半分って言ったけど、実際にはセシリアちゃんの方が強いんだよ。数として表すと6:4かな?詳しくすると5.2:4.8ぐらいになるかな?あ、少ない方が私ね。これが感情が昂って一時的にだけど、私の方が少しだけセシリアちゃんより強くなったんだよ。』


『なるほど。それで、やらない方がいいっていうのは?』


『今はこの状態で保てているけど、私が出てくるようになったらどっちが体の主かわからなくなってしまう。不安定になるんだよ。』


『不安定…例えば?』


『片方が出たと思ったらまたすぐに片方が出たり、今私が眠くなるように体に疲労が溜まりやすくなったり。とにかくデメリットが多い。メリットであげれるとしたら、片方が精神的に辛くても片方に肩代わり出来る。くらいかな?』


『そっか。勉強そっちに丸投げして、テストの時お願いしようと思ったのに。』


『書けないだけで覚えれるから一緒にやれば2人分覚えれるよ。お得だね。』


『まあ、確かに。ルナは勉強得意?』


『そうだね。暗記や計算は得意だけど、文章問題が好きじゃなくて⋯』


『つまり私が文章問題だけを覚えればいいのね。勉強が楽しみになってきたわ。』


『いや、私の勉強範囲多すぎでしょ。それに、セシリアちゃんがやらないと私も覚えられないから結局やらないとだよ?』


『別に本を読んだり話を聞いたりすればいいだけでしょ?覚えなくてもいいだけなら別にいいよそのくらい。』


『ズル賢いやつ。』


『褒め言葉として受け取っておくわ。私はそろそろお手伝いの時間だから、ルナは眠いなら寝た方がいいわよ。』


『うん。寝るよ、おやすみ。』


『おやすみ。』


『待って!言わなきゃ行けないことがあったんだよ!』


『何よ。うるさいから辞めて。』


『あ、ごめん。それでエルくんの事なんだけど。』


『黒髪黒目の人ね。貴方が出てきたことがバレたんじゃないかと思って焦っていたら、黒髪ってこと忘れちゃっていたわ。⋯もう契約してしまったし、どうしましょう。』


『何言ってんの!エルくんはちっちゃくて可愛くて、なのに頼りがいがあって、最高の男の子だよ!ショタ⋯可愛い男の子が好きな人に人気だった、前言ったゲームのキャラクターだよ!』


『キャラクター?』


『あぁ、本とかで言う登場人物のこと。』


『そのキャラクターなの?主人公は気味悪がったり怖がったりしなかったの?』


『してなかったね。元々エルくんは主人公をサポート⋯手伝ったりする立ち位置で、さっきみたいにフードを深く被って口だけ見えてたんだ。声をかけ続けたら遊びに行けたりして、その時に顔が1度だけ見ることができるイベント⋯出来事?があって、その顔を少し幼くしたらあの顔出ってことに今さっき気付いた!』


『じゃああの子は男の子ってこと?』


『あの顔は幼女だ!ロリだ!絶対そうだ!』


『私たちと同じように男装しようとしている。または顔の似た別人、つまり双子や兄弟がいる場合があるわね。』


『どっちにしろあの可愛い顔を間近で見れるなんて。セシリアちゃんの前世はどれだけ善行を積んできたんだろうね!』


『前世はあなたでしょ。くだらない冗談を言うくらいなら、黒髪のことについて少しでも聞いてきたらどうなの?』


『そういえば。黒髪黒目って私の国では普通なんだけど、この国ではなんかあるの?』


『黒髪は魔王へと至る悪魔の髪色。不幸を呼び、災いをもたらすとされる存在よ。この国ではなく世界中で有名とされる物語に。』


『ふーん。』


『前に私の記憶を継いでいるって言ってなかった?あれは嘘だったの?』


『嘘じゃないよ。小さい頃の記憶みたいに、ハッキリしているのもあるし、全く記憶に無いものもある。分かった?』


『なるほどね。まあ音読してあげるから今からでも知りなさい。』


『音読って。部屋で誰もいないのに音読とか変な人じゃんやめなよ。』


『まあ見ていればいいわよ。寝ないでよ?』


『急に眠くなるから絶対とは言いきれないけど頑張るよ。』
















「お母様。失礼します。」


「あらセシリア。なにかしら。」


「えっと、お腹の中の赤ちゃんに本を読んであげようと思って。」


「ふふっ、素敵ね。なんの本?」


「はい!【勇者の産まれた日】です!この本の勇者様かっこいいから!」


「けど、セシリアのお気に入りの【世界を守るために】は音読しないの?」


「してあげたいけど、まずはこっちの方が勇者様がどんなことをするか分かると思って。」


「なるほどね。じゃあ音読頑張ってね。」


「はい!」








遥か昔、ある村で男の子が産まれました

その子は不思議な力を持っていました

傷だらけの者をすぐに癒やし

不治の病と言われた病気さえ治すことができた

それだけでなく、剣を持たせば大樹を切り倒し、岩をも砕くことができた

そんな力を持っていながら、男は誇らなかった

人を見下すことなく、皆平等に接した

彼はそれまでは村人だった

大勢の中の少し目立つ1人だった

それがある日から変わった

魔王が生まれ魔物達が活発に行動し始めたのだ

男は思った、魔王を倒せる力があるのは、大切な人を守るためではないのか

男は決心した、魔王を倒し世界を救おう

その時、男はただの村人ではなく勇気ある者、勇者となった

勇者はまず各地の村を巡った

村を助け、仲間を集めた

2年の歳月を得て、ついに四天王を倒し魔王城へと辿り着いた

そこで巡り会った魔王は人間だった

彼は見たことの無い髪色と目をしていた

黒目黒髪、そんな魔王を見て勇者は絶望した

何故守るべき人間を殺さなければならないのか

何故魔王は同じ人間を殺すのか

勇者の頬には一筋の涙が伝っていた

これまで死んでいった人々の為に勇者は剣を握りしめ、魔王を討ち取った

魔物の活発化は収まり、勇者は崇められた

勇者は自国の国王に爵位を貰い、幼なじみを嫁に貰った

勇者は最後に言葉を残した

もし、魔王へと至らんとする者は殺さねばならない、多くの人を失う前に

それを聞き届けた子供達は、子孫へと繋ぎ続けた








「めでたしめでたし。」


「とても上手く読めていたわ。」


「ありがとうこざいます!」


「けど、もう夕食の時間よ。一緒に行きましょうか。」


「はい!あ、お母様!支えてあげるので無理にたとうとしないでください!」














『ルナ!ちゃんと聞いてた?』


『すやぁ。』


『⋯⋯⋯⋯起きた時覚悟してなさい。』

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