第3話少女と少女の出会い

 あの変人国王陛下から推薦状を貰ったから、少なくとも入口でお帰りくださいの可能性は無くなったな。

 けど、使用人になれるかどうかはまだわからない。

 無理だったらその時考えよう。

 今ビビっていてもしょうがない。


 エルシェは覚悟を決めて目の前にある扉を叩き、声を上げた。


「すみません!クランゼート公爵殿はいらっしゃるでしょうか!」


 少ししてから扉が開いた。


「なんでしょうか。」


 フードのおかげなのか、普通に対応してくれた。


「急ぎではないのですが、国王陛下から手紙を預かっております。」


「では、お渡ししておきますね。」


「すみません。これは一応国家機密になるので直接渡さなければならないのです。お疑いになるのは重々承知です。でも、こちらも仕事なので。」


「では、手紙にある王家の刻印だけでも見せてください。」


 すごいな。子供相手でも敬語は無くさず、疑わず、相手をするなんて。


「それくらいなら問題ないでしょう。ご確認お願いします。」


「確かに王家の刻印です。旦那様を呼んできますので客間でお待ちください。」


「ありがとうございます。」


















「遅れてしまい申し訳ない。ご存知かも知れませんが、私はサイリス・グア・クランゼートと申します。ご用件を伺っても?」


 使用人が子供でもあの態度だったのは、主人の影響か。


「私はエルです。まず、これを。」


 何も言わずにエルシェは手紙を差し出した。


「わかりました。」


 サイリスは無言で読み始めた。


「なるほど。貴方がヤマガラスの。」


「はい。証明はこれでいいですね?」


 そう言ってフードを取った。


「…はい。本当に存在したんですね。」


「あまり驚かないんですね。」


「昔、陛下に教えていただいたことがありまして。」


 あの変人、国家機密を言うとか。やばいな。


「そうですか。公爵殿から見て、どう思いますか?」


「本を読み始めて、常識が身についてはいました。ですが、倒れた日からは妙に大人びていると言うか。」


「どの辺りが、でしょうか?」


「言葉遣いが大人のそれのようになりましたね。他にも、自ら使用人を真似てお手伝いを始めました。」


「我が村では一般的ですが、やはり貴族では異常だと?」


「はい。」


「ふむ。質問なのだが、一般教養として勉強はしているのですか?」


「はい。まだ、7歳なので少しずつですが。」


「では、黒髪についても?」


「物語は呼んだでしょうが、疎まれていることについては知らないでしょう。」


「読んだなら、私が使用人になるのは難しいと思いますか?」


「…分かりません。」


「最終的には、男装を許可させると言えば。」


「そうですね。」


「うーむ。」


「悩んでても仕方ないですし、とりあえず会ってみませんか?」


「お願いできますか?」


「もちろんです。」



















 コンコンと音が聞こえてから、お父様の声が聞こえた。


「セシリア、お前に合わせたい人がいる。用意ができたら客間に来てくれ。」


「わかりました。」


『合わせたい人って誰だろーね。』


『わからないけど、国王陛下なら交渉とかできそう。』


『王様が何も言わずに来ないでしょ。』


『そうだけど。あ、急がないと』















「とりあえず呼んできました。」


「一応フードを被っていた方がいいでしょうか?」


「そうですね。名乗りと共に外していただければ。」


「分かりました。」


「ところで、エル殿。」


「何でしょう。」


「エル殿はメイド志望ですか?執事志望ですか?」


 なるほど、性別が知りたいと。


「我が村の掟で、教えることはできません。望まれた方をやろうと考えておりました。」


「分かりました。」


 そんな雑談をしていると扉がノックされ、可愛らしい声が聞こえてきた。


「お父様、セシリアです。」


「入れ。」


「失礼します。」


「この方がお前に合わせたい人だ。」


 ペコリと一礼して紅茶を啜った。紅茶あんまり好きじゃないんだけどな…


「セシリア・グア・クランゼートです。」


「よろしく。」


 そう言ってチラッと公爵殿の方を見た。


「では、私はここで失礼します。セシリア、失礼のないように。」


「承知しております。」


 扉が閉じるのを確認してからセシリアの方に目を向けた。


「…初めまして。」


「初めまして。あの、お名前を伺っても?」


「…質問して良い?」


 無礼を承知で、素の自分の様に無愛想に言葉を続ける。


「え?えっと…私に答えられる内容なら。」


「では、自分専用のメイドと執事、どっちが欲しい?」


「…同じ性別の方が良いと思いましたのでメイドです。」


「男装…したい?」


「はい!」


「僕が、国王に言って男装の許可を出すと言ったら…」


 一度言葉を止め、フードの隙間から彼女の目を見る。


「僕を使用人にしてくれる?君専用の。」


「貴方にメリットは?」


「あるよ。諸事情で話せないけど。」


「貴方が国王陛下に許可を求めれる証拠は?」


「そこに置いてある手紙。」


「王家の刻印…」


 不安そうな目をしている。…当たり前か、怪しすぎる。


「私に使用人にする権限は無いのですけど。」


「公爵殿からは許可を取ってる。」


「では、なぜ私に…」


「僕の自己紹介をしようか。」


「…?」


 フードを取り、自己紹介を始めようとする。…驚いているだけだな。嫌悪などは無い。大丈夫そうだな。


「僕はエル。見ての通り黒髪黒目だ。珍しいだろ。」


 エルシェは皮肉をたっぷりと含んだ笑みで彼女を見つめた。


「え、無気力系美幼女とか萌え〜。」


「は?」


 セシリアは焦ったように口元を押さえた。


「し、失礼しました。」


「無視できる内容じゃ無いんだけど?」


「いや、可愛らしいと思いましてー。」


「は?」


 エルシェは立ち上がりセシリアに詰め寄った。


「な、何ですか?」


 そう言いながら後ろへ下がっていき、ついには壁に背をつけた。


「………」


 壁ドンの形でエルシェはセシリアを睨みつけた。


「あ、あの?」


「あぁ、すまない。」


 そう言ってエルシェは離れ、考えた。


 嘘をついているようには見えない。公爵殿の手回しかと思ったが、おそらく違うな。倒れた時に物語の記憶がなくなった。これが一番あり得そうだな。どちらにせよ、契約すればこちらの勝ちだ。我が村の為に、ここは確実にしなければ。


「あの、エル…さん?」


「すまない。考え事をしていて。…つまり、僕を雇ってくれるんだね?」


「あ、はい!…あの、」


「男装の件についても、契約書に書いてある。ここに互いにサインして、互いに紙を持っておく。ちゃんと読んでおけよ?知らなかったは通じない。」



 契約書


・エルをグランゼート家の使用人にする

・契約を破棄する場合は互いに了承してから

・セシリアを国王陛下の許可の元、男装を許す

・国王陛下の許可はエルが取る

・使用人の間は、セシリアの世話をする

・この契約は、国王陛下の命があれば必ず破棄する

・互いに危害を加えてはならない

・互いに前提で過ごす



 エル   セシリア・グア・グランゼート



「これで契約成立だ。よろしく。」


 エルシェは右手を差し出した


「よろしくお願いします。」


 セシリアはその右手を握り返し、笑った

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