第3話 変わった日

遠く険しい道を抜けるとまだ新しい屋敷があった。

中に入ると、旧世紀の城のような構造で、分かりやすく中央の椅子にボスが座っていた。

体つきはアルミアさんよりも何倍もいい。それに、いかにも余裕という表情を浮かべて頬杖をつきながら足を組んでいた。

「よく来たな。お前のようなのは初めてだよ。いともたやすくあの二人を同時に殺めるとは。だがそれだからといって私に勝てるわけでは…」

「そういうのはいいです。早く始めましょう。」

余裕そうな表情は不服そうに眉にしわを寄せて少し怒り気味の表情に変わった。

「人の話は最後まで聞けと習わなかったみたいだな。だったら俺が…」

「だから始めましょうよ。でないと首飛ばしますよ?今すぐに。」

アルミアは真顔で後ろで手を組んで戦う気ゼロだ。何なら今にもくるっと背を向けてなんもなかったかのように変えるような雰囲気だ。

どんなに強かろうと、どんなにすごかろうと人は人だろうという話なのだろう。神から言わせてみれば。だからきっと余裕なのだろう。

「そうか。なら言うまでもない。この俺様に歯向かったのだ。排除する。」

彼はさっそくアルミアを狙った…

「その前に、邪魔者は消えろ!!」

はずだった。だが相手は俺を狙った。間違いなく死んでしまう…!どうすれば…!

ああ、調子に乗りすぎたかもなぁ…人生もっと楽しんでいれば…

ボゴン!!!

「その子には構わないでもらいたいね。」

私のつま先にあのボスは倒れた。それもあっけなく転んだように。

そして彼の後ろにはすでにアルミアさんがいて、彼の服の裾を引っ張り上げた。

アルミアさんはそのままやり投げの槍のように彼を投げて天井の壁に垂直になるように刺した。

ただ、相手もそんなのでは死ななかった。

例のボスはは時空を歪めて、何もない世界を形成した。ただの白一色の世界。

「なかなかやるじゃねえか。だが今度はそうならな…」

アルミアはそれに動じず、指パッチンをした。

パリン…

白一色の世界の天井に一筋の亀裂が入った。

その亀裂は稲妻のように粉々に白い世界を引き裂き、砕いた。

バリバリバリ…

一色の世界はすでに消え失せた。

焦り顔になったボスは負けじと立ち上がり地面をたたきあの岩の槍を出そうとした。俺は一瞬自分も巻き込まれて死ぬのではないかと思った。

だがここの世界には見覚えがある。元の世界ではない。もしかして…

「私の屋敷の床を叩かないでほしい。ここは誰の屋敷かわかるよね?」

そう、アルミアさんはあの金炎の我城にボスを連れてきた。

地面からハープーンのように伸びてきた鎖はボスの四肢と首をつなぎとめた。決して動かぬように。

「斬響・真改ノ櫻花・陽炎ノ翼…」

気付くとアルミアさんは遥か上空にいた。

彼の手が燃え上がりながらだんだんと金に輝く透明な大剣が出来上がっていった。

「終止!!」

アルミアさんは長さ百メートルを優に超す大剣をあのボスにめがけて片手で勢いをつけて投げた。

眩い光の渦が剣を取り巻く。

さらに上空からは大小さまざまだが同じ形の剣がひたすらに落ちてくる。

「やめろぉぉぉぉ!!」

極音速に近い剣は空を裂きながらボスの胴体を突き破った。

ザシン!!!!

ザシュザシュザシュッ…

さらに小さい剣もすべて刺さったところに向かって刺さった。

刺さったところからはわずかな隙間を通って血が流れてきた。

しかし、いずれも燃え上がり、ぱちぱちと火花のようになって消えていった。

しばらく呆然と立ち尽くしていると肩にはあの手が乗っていた。

やれやれと言わんばかりの表情が手を通じて伝わってきた。

「す、すごいですね…これだけ強いボスをこんな殺し方するなんて…」

アルミアはその青い目を私に向けた。動揺している私を少し笑うようににこやかな表情だった。

「錬人君、実はこれまだ力のわずか一パーセントも使ってない。あんな剣を千本飛ばすのも余裕さ。」

一割どころか一厘も出さずに終わるとは。とんでもない。

「さあ、今日の冒険はおしまいだ。現世に変えるとしようか。」

そうだった。ここは現世ではない。

俺らは我城にいき、またあの輪に手を触れてポータルを作った。

くぐるとそこには落ち着く我が家の部屋があった。時間も行った時と同じだ。

…ってちょっと待て、いつの間に俺はこの服に着替えたんだ?

「俺いつ着替えたっけ?行く前は寝間着だったのに?」

「ポータルを開くと同時に着替えさせたんだ。気づかなかった?」

全く何の違和感もないもんだから気づかなかった。いったいどうやったというんだ?

まあアルミアさんは神様だ。俺らにはわからないこともやれるのだろう。きっと物理法則をゆがめる的な何かがあるはずだ。

それにしても疲れた。しかし興奮し過ぎで寝れそうにない。

全くすごい一日?になった。

「君の家に一度ポータルを開いたおかげでいつでも来れるようになった。また何かあったらこう空に思ってくれ。来てくれってね。そしたらいつでも行くよ。」

「ありがとうございます。わざわざそんなことを教えてくれるなんて。」

本当にいいのだろうか。こんなに神様と仲良くなって。

まあいいや。そういえばあの太刀を抜いたところを見たことないな。ついでに今見せてもらおうかな…

って待てよ?太刀は宿の出発前に置いてきた。つまりあの次元の宿に今もあるということだ。また戻らなければならないのではないか?

俺は別に最高だが、アルミアさんからしたら迷惑極まりないだろう。ああ、俺がもっとしっかり言っとけばよかった。

「あの…アルミアさん…太刀はどうしましたか?」

彼は寝自宅を整えてる最中だった。今布団の準備をしていて布団を見ていた顔をこちらに向けた。

「これのこと?」

彼は自分の手のひらからあの太刀を生成、いや移動させてきた。

いったいどうなっているんだ?物理法則は?

まあ神様なんだ。これくらい当たり前といっては失礼だが当たり前なのだろう。

すごいものだ。あれだけの長さのものがさっきのような短い時間で移動できるとは。

どうやらアルミアさんいわく、この件を常に持ち歩くのはあんまりしたくないから、暇があれば我城に空間を通じておいておくそうだ。

だから最初に会った時に気づいた時には太刀が消えていたのか。

色々と分かってきたようで分からない。

不思議なことの山済みだ。

「まあいいさ。理解しようと思っても簡単にはできまい。まずは寝ようか。」

そうだった。もう寝る時間だった。すっかり興奮に飲まれて忘れていた。

俺もアルミアさんの部屋から出て寝支度を整えた。

すっかり今日のことが夢に出てきそうだった。

さて、明日は学校か。ゆっくり目を閉じて寝るとしよう。

そして迎えた翌日。まったく深く眠れず、四時ごろに起きてしまった。

俺はまた数学の宿題にかじりついた。

数式だらけのノートがだんだんと書く場所が埋まっていく。

「しっかり解いてるね。でもケアレスミスが多いね。気を付けたら?」

椅子から転げ落ちそうになるほど驚いた。

カタンと金属のグリップの音がよく響いた。

その後、アルミアさんは手にめちゃくちゃかっこ良く、メカメカしいシャープペンシルを片手に私の宿題に手を入れた。

俺もあんなシャープペンシルが欲しいなと思いながらボケっとしてると、彼はすでに手を入れ終えていた。

ケアレスミスの治し方や、どんな間違いが多いか、その問題の傾向の問題を出題したりをしてきた。

それにしても日本語なのに英語の筆記体のようにも見えるが、すさまじくきれいな文字だ。わずかなズレすらもない。

何ならパソコンを凌ぐほどだ。人間業ではない。アルミアさんはもちろん人間ではないが。

俺はまた机にかじりついて問題を解く。

なかなかにちょうどいい問題だ。自分でも間違えるかあってるかがわかりずらい。そこら辺の家庭教師や教師よりもずっと分かりやすい。

そしてびっしりと埋まった数式で解き終えた時、右にいたはずのアルミアさんは左の方にいた。いつの間に移動したのだろう。

解き終わったことを言う前にすでにアルミアさんは俺の席の隣にいて答えを見ていた。すべてを読んでいるかのように。

「うん、合格!全部あってるね。これで数学は完璧だね。」

彼の分厚い手が頭を撫でた。親でもないのに落ち着く。

そしてアルミアさんは部屋を出て、彼自身の部屋に戻ったようだった。

もうすでに時間は六時になっていた。日もすっかり昇っていた。

机の上に目を移すとあのシャープペンシルとともに付箋が貼ってあった。

“お近づきの証に…アルミア”

読み終えると筆記体の映る付箋は火の異なって散っていった。それにしても本当にもらっていいのだろうか。

俺はそのシャープペンシル片手にアルミアさんの部屋をノックした。

ドアからはあの巨体が現れた。電車に乗るときにはきっと一苦労だろうに。

俺はこのシャーペンを本当にもらっていいのかを確認すると彼は頷いた。

「このシャープペンシルは私が本当の姿の時に抜けてしまった羽を集めて作った。別に汚いものではない。もしも君が危ないときがあればこれが助けてくれるよ。

後、このシャープペンシルは君と君の友達、家族以外が使うと灰になって落ちちゃうんだ。でも安心して。戻って来いって願えば元に戻るから。」

とんでもなく不思議なものをもらってしまった。俺はありがたくお辞儀しながらアルミアさんの部屋を後にして自分の部屋に戻り、試し書きをしてみた。

するすると滑るようにアルミアさんのような字が書ける。無論、彼ほどきれいには書けないが、それでもずいぶんきれいに書ける。

時計を見ると、六時半だ。俺は支度と時間割を整えたリュックを肩にかけて下に降りた。今日は特に特別な教科はなかったはず。

それと、あのシャーペンは持っていこう。あれで文字を書くのが楽しいからね。

親も少し後に降りてくると母は早速朝食を作り始めた。親父は会社に出勤する準備をした。

すると大きな荷物も特にないアルミアは下りてきて、そのままリビングに入って一言御礼をした。

「この度は止めていただきありがとうございました。錬人君と話したのですが、とてもいい子ですね。話していて楽しかったです。

また何か機会があればお会いしたい限りです。それでは。」

親父は頭を下げてそのまま準備をした。母はそれどころではなかった。

俺はもちろん挨拶をして玄関まで送り届けた。

アルミアさんは玄関から出ていき、どこかへポータルを作っていってしまった。

俺はまたリビングに戻ろうとした。

あっ、やべ…

今日の授業の時間割に書道があったなぁ。

俺はすっかりプリントを入れるのを忘れてた。

忘れ物でもしたら大変だ。急いで自分の部屋に駆け上がり、プリントを取った。その時だ。

アルミアさんの部屋に目が移ると段ボールがあった。忘れものだろうか。

俺はそれごと下に持っていき、プリントをリュックに入れた。

「錬人、その段ボールは何だ?」

「アルミアさんの部屋に置いてあったよ。」

「忘れものか…今更届けるのも難しそうだな。中身は何だ?」

俺は段ボールの中を開けた。そこにはとんでもないものが大量に目に移った。

そう、福沢諭吉の描かれたアレだ。

「万札だ…」

俺は口から洩れてしまった。あまりにもすごすぎる。

おそらく二万枚はある。いったい何だこれは…

呆然と真っ白に立ち尽くしていると親父が寄ってきた。

「それで中身は何だったんだい…ってこれ夢か?」

親父も立ち尽くした。ありえないであろう出来事が目の前で起こっているから仕方ないが。

「朝ごはんができたよ。机の上に置いておくから冷めないうちに食べなさい。」

そんな余裕はない。俺は声も出なかった。

「何そんなに立ち尽くしているのよ。まさかお金でも…って何これ?」

母までも呆然とかかしのようになった。

一家全員かかし立ちだ。

…いや落ち着け、アルミアさんにはお金を作る能力がある。それを何と説明すれば…

「これ、帰したほうが絶対にいいよな。」

「そうね。でもどうしようもないね。家に置いておいてまた会った時に渡しましょう。」

そういうことで説明をすることはなく、二億円近くの福沢諭吉を封印することにした。

もっともびっくりした朝になった。まさかこれほど用意するなんて誰が思う?

俺らはまた机に戻り、少し冷えた朝飯を食べた。冷えていてもおいしいものはおいしい。

それにしても今日のこの朝は本当に雹霜一家にとってすさまじく記憶に残るであろう朝になった。

そしていつものように自転車をこいで学校に向かった。

いい挨拶が響く校門を抜けて、自転車を駐輪して、教室に入った。

相変わらずのにぎやかな教室だ。亮太はもう来て他の友達と喋っていた。

俺はみんなに混ざった。みんな今度の休みに何するかとか、中間が思ったよりもやばいってこととか。

とりとめのない会話をいつものように続けているとガラガラッと音がして担任の先生が入ってきた。

慌てて席に着き、今日の時間割を後ろ黒板を見て確認した。書道をもってきて正解だった。あさっぱちから書道だ。

今日はどうやら硬質でやるみたいだ。俺はあのシャープペンシルを出した。美しくかっこいい。

俺は純白のシャープペンシルを使って文字を書いた。

やはり驚くほど文字が美しく丁寧に書ける。おっそろしいや。

「おい、お前そんな字がきれいだったっけ?ってかシャーペンカッコいいな。どこで売ってた?」

隣にいた西村は驚いたように俺のプリントを眺めていた。俺も驚いているよ。こんだけ字がきれいになるなんて。

その後、書道の授業を終えると西村は友人を引き連れてあのシャーペン見せろよとねだってきた。

俺はそのシャーペンを見せると、いつもはシャーペンの一本も気にしないような友達もみんな釘付けになった。

「こりゃあかっこいいなぁ…どこで買えるんだよぉ、雹霜。」

「これうちの友人からもらったんだ。だからどこで売ってるかわからないんだ。」

その後、書道室から教室に戻って次の時間の準備を進めた。

なんだか自分が何にも目標がないことがばかばかしくなってきた気がする。

アルミアさんのおかげで何かが動いたような気がする。

その後もそのシャープペンシルを使ってすらすらと授業を進め、給食も終わり、学校も終わった。

なんだか少し彩られた日だった。明日が休みなのは嬉しいが少し寂しい気もする。

また自転車にまたがってペダルをこいだ。

「やあ錬人君。私の車に乗って行くかい?」

俺は驚いて自転車を止めて振り返った。そこには見覚えのあるハイパーカーとあの金髪の姿があった。

俺はいったんスタンドを立ててアルミアさんと話した。

どうやら自転車は家に次元を介して送るから乗ってドライブしようとのことだ。

途中家にもよるみたいだから朝の二億円を返す絶好の機会だ。

俺はそのことを言って彼のハイパーカーのガルウィングのドアを開いた。なんだか急に特別に金持ちになった気分だ。

乗った時にアルミアさんは光の輪を手に取り巻きながら自転車を消した。

もうこれくらいのことには驚かないな。

「そういえばだけどあの二億円、実は君たちにあげるために置いておいたんだけどね…まあ容易くは使えないよね。今日親がいるならそのことを話しておくよ。

ここの世界では私は一応とある企業のてっぺんだからね。」

「というと?」

まさか何億ともあるであろう世界のうちの一つであるこんなところではそんなことをしていたなんて。何の思い入れがあるのだろう。

別の世界でもよかったはずなのになぁ。

「峯刃鉄鋼って知ってるかい?」

全く知らない。何なら聞いたこともない。

その後詳しく話を聞いていると実は包丁とか、刃物をメインに作ってる会社なのだと。

そいえばお母さんが峯刃の包丁はよく切れるもんだなんて言ってたな。

「今日はそこに行くんだ。」

驚きの事実を知りながら俺はハイパーカーに乗ったままポカーンとしていた。

「じゃあ行こうか。」

彼はニュートラルに入っていたギアを一速にしてハザードを切った。

ミッション車とは本当に趣味がいいな。

その後素晴らしいエンジンの方向とともに家まで送ってもらった。眺める景色が完全に別世界で、流れる世界を見ていると一瞬で家についた。

俺は急いで荷物と制服を片付けてお母さんを呼んだ。そしてお母さんと一緒に玄関に出た。

アルミアさんは自分が峯刃鉄鋼の社長であること、二億円はささやかな贈り物であること、そして今から工場見学に一緒に行くということを伝えた。

もちろんいきなり言われてお母さんは困惑してるけど、アルミアさんは説得上手だ。すんなりと彼の思う方向に物事が進んでいる。

気づけば安心したお母さんは顔になって、俺を送り出してくれた。俺も少し楽しみだ。

「それじゃあ息子さんを少しお借りいたしますね。行こう。錬人君。」

「分かった!!」

結局あの二億円は家の財産となったところで俺はガルウィングのドアを開けてシートに座った。

さて、工場見学の幕開けと行こうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フェニックスの使い手~神の成り代わりと平凡な中学生のあっさり世界大冒険~ 灰狼 @Hairow-001

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ