第2話 時空の旅人

別の世界は静かに私たちを乗せた。

さっきと変わらず深い穴が下に続いている。

アルミアさんはしばらくすると、手を出した。

するとその手は火かって、私たちを包み込んだ。このままでは大やけどかもしれないが、アルミアさんがやっているならきっと大丈夫だ。

しかしその金色にも見える炎は全く熱くなく、温かかった。

「この炎はいったい何のために出したんですか?」

聞いてみるが答えはなく、アルミアさんは遠いところを見るようにして振り向いた。

するとだんだんと金色の炎はアルミアさんの背中に収まっていき、だんだんと何かが見えてきた。

そして数百メートル先にはあの金色の炎に包まれた、巨大な摩天楼が延々と上空を指していた。

レンガのような、コンクリートのような、鉄のような、なんとも言えない材質でできたその摩天楼の壁は不思議なものだった。

しばらくすると炎は完全に収まり、大地ができた。赤く炎のように照っている不思議な草原のような台地だ。

アルミアさんは急に指パッチンをして、摩天楼のふさがった入り口を開いた。そこに向かってあの時の筋が伸びていた。

「ついてきて。」

「ここはどこなんですか?」

「ああそうだったね。説明がまだだったね。ここは金炎の我城、櫻炎城だ。ここからすべての次元、すべての世界、そしてすべての時間を操ることができる。

もしここにある炎の勢いが弱ければ私が危ない。この炎は神である私の命の終焉を迎えるときに消える。」

俺はとんでもない場所に来てしまったことを悟った。ここに来ることでどこにでも行けるのだ。何なら自分の世界の過去へ行きテストの答えを教えるなど容易いだろう。

それにここにきてから力がみなぎるように感じつつも平常心を失わない。何だろう。

アルミアさんはあの摩天楼に歩き出した。俺も少し遅れながらも彼に続いて歩いた。

真っ赤な空の果てまで伸びる摩天楼は俺を迎い入れるようにも見えた。

いざ近づくとただならぬ雰囲気が漂う。凄まじい。言葉で表現しきるのも難しいほどに覇気に近いものを感じる。

しばらくすると、何重にも重なったジャイロスコープのような回転し続ける輪を見つけた。アルミアさんはそこに行くと止まった。

俺も彼の隣まで行って止まった。

彼はそのまま一息つくと何十メートルも飛び上がり金色に光った。そしてだんだんと姿を変えた。

手は鋭く力強い燃える足となり、頭や体はだんだんあの不死鳥のように姿を変えた。

これが、神?

さっきも言っていた。彼自身は神であると。しかし現実にこのような形で見れるとは。考えもしなかった。

不死鳥の姿をしたアルミアさんは一言言った。

「錬人君、フェニックスの権限を用いて君に私の能力の一部を授けよう。」

凄まじい圧力のある言葉と同時に俺は空中に浮いた。

だんだんと浮かんでいくがバランスを崩すようなことはなかった。

そしてすっかり変わったアルミアさんに近づくと、俺の背中、手首、足首、頭上に金色の魔法陣が出てきた。

あの時公園で見たものと似ている、いや同じだ。

そしてまた地上に降りた。するとそこには元のアルミアさんが俺の隣に立っていた。

「これで今日から君はいつどこでもここにきて世界を移動できる。だが一つ言っていこう。灰色の月が見えたら逃げろ。急いでこの我城に来い。

そしてこの十六に重なる輪に向かってこう祈れ。炎の錦が埋め尽くすようにと。」

「はい。」

灰色の月?見ればわかるだろう。だが何かがありそうだ。彼がここまで言うとなると。

「分かったならいい。それで、どこの世界へ行きたい?」

確かに考えたこともなかった。だが何でもいいなら俺は自分の好きなアニメの世界に行きたい。

「俺は、好きなアニメがあるんだけど、そのアニメの世界に行きたい!」

「分かった。君の思っていることを少し読む。そのアニメの主人公を思い描いてくれ。」

その通りに俺は主人公を思い描いた。確か白い帽子に白いロングコート、金色の装飾がいっぱいある。そして背中には太刀をしょっている。

強くその姿だけを思い描いた。すると彼はうなずき、あの輪に近づいた。

彼の分厚い手がかざされた。その時だった。すべての輪が寸分たがわずにすべてが縦に並んだ。中央には金色の球体があった。

さっきまでは見えなかったのに。もとからあったのだろうか。

そしてその球体は光を放ち、一つのポータルを作り出した。真っ白で外枠は金色に光る。

「さあ、行こうか。君の思うあのアニメの世界へ。」

アルミアさんは私の手を取り、そのままポータルに入っていった。

外はまぶしかった。だんだん目が慣れてくると、そこはいつも画面越しに眺めるあの世界だった。

この立ち並ぶビルに明るい日差し。快晴で曇りのない空。完璧にあの世界だ。

「待て!!ヴォイド・アレクサンダー!!」

「護衛隊さんよぉ、ご苦労!!俺はまだ捕まるには早いぜ。」

あの主人公、イグニッションじゃないか!?こうして本物に合えるなんて、すごい。だとすると裏世界で統率を取る秘密結社、テリトリーもここに!?

マジか!?すごいな!?

自分のかっこいいと思うキャラクターをこうして現実で見ると興奮する。かっこいい。

彼の高速移動は目にも止まらない。

すると急に俺とアルミアさんの陰から手が出てきた。

え?さっきのヴォイド!?こんなに近くで見れるとは!すごいや!

この物語で彼は失敗したことのないイグニッションの永遠のライバル。だとするとその相棒、フォーデンものちに?

ヴォイドは闇に手をやって、もう一人の手を引っ張った。そこにはあのフォーデンがいた。

「巻き切ったようだな。よくやったよ。」

「任せとけって兄貴。」

俺は思わず声をかけてしまった

「あなたはアレクサンダー兄弟ですよね!?失敗したことのない最恐の暗殺手!いつもかっこいいと思ってるんですよ!」

「ん?そうか、ありがとな。いつも応援してくれてるのか?というかそれどこで知った?」

「テレビですよ!良かったらサインもらえます?」

俺は衝動に駆られていつも持ち歩いている彼らのアニメの元作漫画にサインをしてもらおうとした。今日はちょうど第一巻をもってきていた。

「そうか。分かった坊主。サインしてやるからそれを貸してくれ。」

そういってフォーデンに渡してみると、彼は炎でサインをした。黒く焦げた跡は完全にきれいなサインとなっていた。

「ありがとうございます!!」

「勉強頑張れよ坊主。じゃあ、俺らはいかなきゃな。」

「ああ。じゃあな、話せてよかったぜ。」

そういって彼らは歩いていった。すっかり興奮した私はアルミアの方に目をやった。彼はにっこりと嬉しそうにしていた。

「良かったですね。サインがもらえて。君が喜んでくれたなら私は嬉しいよ。」

「連れてきてくれて本当にありがとうございます!!アルミアさん!!」

彼はそのにっこりとした表情のまま歩き出した。

彼は何かを知っているようだった。アルミアさんも何かを買うのかな。

彼についていくと、そこにはアイスクリーム屋があった。ここは確かあのイグニッションがお気に入りのところでは?!

それをまさか分かっていてここに食べに来たというのか?アルミアさんはセンスがいい。流石だ。

彼はそのまま二つアイスクリームを注文し、できたものを私に渡してくれた。あのイグニッションが大好物のフレーバ、サワーレモンではないか。

「わざわざアイスまで買ってくれてありがとうございます!まさかここがあのイグニッションのお気に入りということを知っているのですか?」

「え?それは初耳だね。私はここがいろいろな次元、時間を旅してきた中で最もおいしいアイスクリーム屋だったから来たんだよ。

ついでに君ときた記念にね。」

アルミアさんが言うなら違いない。だとするとすごいな。イグニッションがお気に入りなわけもよくわかる。

その後も日が暮れるまで買い物をしたり、飲み食いをした。それにしてもこの大金はどこから?気になって聞いてみると、思ったよりもとんでもなかった。

「ここだけの話。自分で作ってる。人間の作るものなんて知れてるからね。大体完全にコピーできる。」

しっかり犯罪行為だった。アルミアさんのここの面だけは反面教師として受け取っておこう。まあでも次元ごとにお金を持っていたら確かにきりがない。

そうなるのも仕方ないだろう。

あのとんでもない話を聞きながらも俺らは楽しみ続けた。餓鬼のように。そして完全に夜になり、近くの宿に飛び込みで止まった。

そしてアルミアさんとおんなじ部屋で寝ることになった。そこで面白い話をしながら俺らは寝っ転がった。

元居た次元に戻りさえしなければ年を取らないことや、ポータルの作成の仕方など、面白いことを学んだ。

そして何を思ったか俺は馬鹿なことを口にした。

「あの秘密結社テリトリーってボスがめちゃくちゃ強い能力持ちなんだよなぁ。アルミアさんとどっちが強いんだろう。」

答えは思ったよりも早く、単純だった。

「気になるかい?なら今からそのボスをボコしに行こう。」

正気じゃない。さすがにふざけて言ったのだ。仮にあの能力に次元を操るだけで勝てる気がしない。

時空を歪め、すべてを気体にする炎。さらには地面もたたくだけで巨大な岩の槍を出せるような相手だぞ?時間を操って死をも超越しているのに…

「さすがにまずいですよ。アルミアさんが弱いわけではありませんが死んでしまいますよ。」

「大丈夫さ。着いておいで。夜のドライブと行こう。」

彼は太刀を置いて行き、外に出た。戦う道具もないのにどうするんだ?

腕の魔方陣を展開してかっこいいハイパーカーを出した。いったいどこの次元、時空から持ってきたんだろうか。

ガルウィングのドアを開けて乗り込み、夜も誰もいない道を走り、アウトバーンに出た。どうやらあのボスの場所を知っているようだった。

エンジンの低く、安定した唸りが運転席と助手席を席巻した。時速を助手席から見るとすでに二百キロを優に超えていた。

その中を進むこと数時間、目的地に近い出口に到着し、降りて森林の深いところまで行った。

するとあのボスのいる屋敷があるではないか!

いざ来ると命の危険すらも感じる。すごい雰囲気だ。

「じゃあ、行こうか。」

車から降りて暗い森林を歩いていった。あのイグニッションも通ることになる道だ。

その道は険しく俺みたいなやつには厳しい。だがアルミアのおかげでゆっくり進める。

そして深く黒い森を進んでいると、前に黒いユニフォームを着た二人が私たちの道をふさいだ。おそらくボスの護衛主、スピアーノ兄弟だろう。

「これ以上先にはいかせないよ。」

「さすがにな。このスピアーノの名においてな。」

やっぱりだ。この二人は強い。これを倒せなければお先真っ暗だ。

アルミアさんは私の前に左他を出して止めた。どうやら彼がやるようだ。

彼らはそれぞれ未来と過去の時間軸を変更できる。それでアルミアさんの存在が消されたら…

いったいどうなるのだろうか。

そしてスピアーノ兄弟の完全に会った攻撃がアルミアさんの脳天を貫こうとしたその時…

ザシュッ…

その刃は確かにアルミアさんの脳天を貫いた。しかしその貫いた切っ先は見えない。

スピアーノ兄弟に目を移すと、彼らの頭に切っ先が刺さっていた。なぜだ?刺されたはずなのに?

「そんな驚かなくともいいよ。私は次元も操るって言ったよね。それで刺されたときに頭をポータルにして別の次元から彼らの頭に刃を移した。

もちろん、今頭から抜けばこの二人の脳天に刺さったものも抜けるよ。」

彼はそのまま自分の頭に刺さったレイピア二本を素手で抜いた。刃を握ったはずなのに血の一滴も出ない。恐ろしい。

そして脳天から血を流すスピアーノ兄弟をその場に置いておいて俺たちは先に進んだ。

真っ暗闇な中をまた歩み始め、屋敷を目指した。近いようで遠い道のりだ。

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