フェニックスの使い手~神の成り代わりと平凡な中学生のあっさり世界大冒険~

灰狼

第1話 出会い

 突然だが俺は、生きる目標が見つからない。

 雹霜錬人、それが俺の名前だ。ただの新中学三年生で恋愛にも恵まれず、堕落した生活を送っている。

 こんな人生何がいいんだ?

 みんなは希望を見出して進路を決めている。みんなそれぞれ行きたい学校があって羨ましい。

 それにみんな将来がはっきりしていている。

 それなのに俺は餓鬼にも劣るかもしれないが、夢も将来も全くない。

 学校も別に公立のそこら辺のところでいい。

 だが何かが足らない。でもそれを満たせる術は何一つ持ち合わせていない。

 それで俺はいまだに生きる目的が全く見つからない。

 ベッドで横たわった身勝手でどうしようもない自分は、少し考えてから起き上がり、時計を見た。

 針は変わらず右へ進む。ちょうど六時くらいだ。

 ご飯にもまだ早い。宿題でもしよう。

 数学のテキストを中学一年生から使っている黒く、四角いリュックサックから出した。

 もうあの頃のような新しさはない。だからといって古臭いものでもない。

 俺は成績は良くも悪くもない。それに授業も熱心なわけでもないが、寝たりすることは決してない。

 頬杖を突きながら、銀のシャーペンを滑らせる。

 数式の書かれたノートを見ると、良くこれだけやったものだなと思う。

 それにしても何か変わったことも起こらない。

 カリカリとただシャーペンの音がするだけだ。

 時間は刻々と流れる。

 ポコン!

 形態の着信が鳴った。何だろう?

 確認すると友達の亮太からだ。わざわざこんな時間に何だろう?

 内容を確認するとどうやら今からご飯を食いに行こうとのことだ。

 そういえば昨日は亮太の誕生日だ。それでかな。

 お母さんに一言告げて身支度を整えた。

 財布も持って、携帯も持った。

 玄関のかぎを開けて自転車を出した。

 もう外は日が落ちていった。

 通りなれた通りを走っていると俺はふと思った。

 いつもと少し違う道へ行ってみよう。と。

 そこでいつもの通りから一本入って住宅街を抜けることにした。

 見たことない風景が過ぎていくのは楽しい。

 しばらく走っていると何やらおかしな裏道が見えた。

 不思議と光の筋が通りに向かって伸びているのだ。何だろう。

 引かれるようにして俺は自転車を止めてそこに入ってみることにした。

 室外機やパイプなどが相まってかなり狭い空間だ。

 光の筋は続いている。この先ずっと。

 しかし歩いているが、これほど家って長いものなのか。あるいても歩いてもつかない。

 ひたすらに夢中になって歩いているともう五分が過ぎた。その時だった。

 目の前に小さな公園が見えた。

 そして驚きの光景も目の前に見えた。

 怪しい魔法陣とその中央に金髪の男が寝ていた。

 身長は190センチは全然ある。

 どうやら気を失っているようで、顔には傷がある、穏やかな表情だが力強さを感じる顔つきだ。

 服を見るとベージュのロングコートに黒いズボンを着ていた。

 後ろに回ると、彼は大きな太刀を背中に背負っていた。

 彼よりも長い。

 俺は声をかけようとして口を開いた。

 しかし少し考えた。最近言う切りつけ事件にでもあったら大変だし、もし変人だったらどうしよう。

 亮太と合流するにはまだ時間がある。考える猶予はある。

 しばらく考えると、俺は行動に出た。あらかじめ亮太には今どこにいるかは知らせておいた。

 もし俺がやられたら亮太が時間差で来るはずだ。

 万全とは言えないかもしれないが準備を整えた。

 そして今度はのどを震わせた。

「あのぉ、すみません…大丈夫ですか?」

 大きく筋肉質な体を揺らす。

「大丈夫ですか?」

 体を揺らすのをやめてしばらくしゃがんで顔を見ていると、彼は眼を開けた。

 青く、鋭い目だった。誰なんだ?この人は?

「うっ、ううっ…ここは?どこだ?」

 彼は大きな体を起こした。全然190センチは裕に越していた。

「ここは日本ですよ。」

 そのままベンチに大きな体を預けた。

「そうか。ならここは2024年の地球だね?そうだろう?」

 和やかな表情俺を見てきた。何か大変なことを乗り越えてきたような顔だ。

 だが何かがおかしい。普通はそんなことは聞かないはずだ。

「そうですよ。あたりまえじゃないですか。あと生きていてよかったです。」

 俺はそのまま背中を向けて帰ろうとしたが、少しばかり後ろめたかった。

 きっとこんなところにいるなんてよっぽどひどいことに合ったに違いない。

 向けようとした背中はまた通路に向けた。

「良かったら一緒に飯食いに行きますか?おなか減っているでしょう?」

 少し困るような焦るような表情を見せたのち、口を開いた。

「いいならお言葉に甘えるよ。」

「そうでしたか。なら一緒に行きましょうか。」

 彼は再び大きな体をベンチから掬い上げた。

「あなたの太刀はしまっておいた方が…」

 俺は銃刀法違反に当たるかもしれないから太刀を隠すように呼びかけようとしたら、すでに太刀は姿を消していた。

 なぜだろうか?さっき会ったはずなのに?

「どうしました?」

 気にかけるような優しい口調だ。それにしても気の良い人だ。心配することもないか。

 きっと何かを知ってる。

「…いえ、何でもないです。」

「そうでしたか。では早速行きましょう。」

 小さな公園を背にして私は歩いた。

 パイプ感が行きかうグレーがかった道をまた歩いていると、五分もかからずに外に出た。

 すごい違和感だ。

 あっ、今の時間は?

 携帯電話を確認すると約束まであと十分だった。間に合うだろうか。彼と一緒に歩くとなると。

 おそらく間に合わないだろう。一応遅れるかもしれないことを告げたのち、私は自転車のスタンドを蹴り、ハンドルを持った。

 自転車も持ってないし、走らせるのも難だからだ。そもそも自分だけ自転車で行くというのもおかしい。

 歩くしかないだろう。

 振り返るとそこには巨人が立っていた。多分建物と比べてみると二メートルはあるかもしれない。

「時間がかかりますけど、歩きましょう。」

「大丈夫ですよ。すぐに追いつきますから。自転車で行っててください。」

 余裕そうな表情だった。なぜだろう?自転車並みの速度で走るとでもいうのか?

 いやさすがに相手は人間だ。そんなわけはない。

「で、でもそれだと…」

「大丈夫。君が思うよりも私は大丈夫さ。だから先に行っててくれ。」

「は、はあ…」

 俺は自転車にまたがり、その場を去った。

 彼はまたあの通りに入っていった。

 後ろめたい気持ちがある。だがあれだけ言うならきっと大丈夫さ。

 自分を自負して俺は約束の店まで走った。

 何か後ろに気配を感じるが、気にせずに走った。

 明るい看板が見えてきた。店の駐輪場に急いで止めて、鍵をかけていると私の肩に大きく温かい手が乗った。

 後ろを見るとあの巨人の姿が見えた。金髪が夜のネオンに照らされて輝いている。

「だから言ったでしょう。大丈夫って。さあ行きましょうよ。」

 いったいどうやって追いついたというんだ?だがそれよりも亮太のことが頭にあって考える暇なんぞなかった。

 受付を済まし、亮太のもとに向かう。亮太は驚いた顔をしていた。

「それが言ってた金髪の気を失ってた人?思ったよりもすごいや。」

「初見だとそう思うのもわかるわ。この身長は羨ましいもんだよ。」

 雑談をしながら彼と話す。

 ドリンクバーに飲み物を継いで戻ると、おいしそうなご飯が運ばれてきた。

 しかし、巨人はなにも料理を頼んでいないようだった。食欲がないのだろうか。

「大丈夫ですか?食欲がないんですか?」

「いえ。ただ君たちの話を聞くのが面白いんだ。それにおなかは特にすいてないから大丈夫さ。」

 また彼はあの時と同じような穏やか表情を見せた。

 亮太と誕生日に何もらっただとか、何があっただとか、そんなことばかりを話した。

 幸せな時間だ。亮太といると楽しい。

「ところですみませんが、名前を聞いてませんでしたね?お名前は?」

 確かにそうだった。あんなに焦っていては名前を聞く余裕などないだろう。

「ああ、私かい?私はアルミア・タニティード・エースというんだ。アルミアって呼んでくれればいいさ。」

 外国の方にしては日本語が堪能だ。なのにあの容姿とは。世界は広いものだなぁ。

「ところで君たちは?」

「俺は雹霜錬人。向こうの友達は神崎亮太だ。俺らは小学校のころからの友達なんだ。」

「そうだったんですね。通りで仲が良い。」

 料理を食べながら過ごした幸せな時間はもう終わりを迎えた。

 みんなで席を立ち、それぞれでお金を出し合った。アルミアさんもお金を持っていた。

 しっかりと全員でそれぞれお金を払い、店を出た。

 そして亮太と別れ、アルミアさんと一緒に歩いてさっきの場所に変えるとした。

 もうすでに八時を回っていた。アルミアさんは何か言いたげだった。

「どうしましたか?」

「もしよければなんだけど、私を君の家に泊まらせてくれないか?」

 困惑した。急に知らない人を止めるなんて下手したら大事件になりかねない。それが得体のしれない巨人となると…

「いやぁ、それは厳しいですね。」

「そうですか。じゃあ一つ約束しましょう。」

 何だろうか。金目のことは一切断るようにしているが、そうではなさそうだ。

「君を別の世界に連れて行ってあげよう。」

 バカじゃないのかこの人。やっぱり変人かもしれない。俺はうっかり笑ってしまった。

「あっははははっ!!そんな馬鹿なことはやめてくださいよ。別の世界ってここの世界以外あります?」

 しかし彼は大真面目のようだった。その表情に圧倒された。

「もちろんだ。少し君の手を貸してみてくれ。」

 アルミアは自分の手を出した。ごつごつとしてるが温かい手だった。

 俺はその手の上に手を乗せてみた。

 その時だった。周りの建物がバラバラになり、通りは陥没していった。

 落ちる!!

 そう思ったがなぜか落ちない。どうなっているんだ?

「どうだい?これが別の世界だよ。君は今どの時間、どの次元、どの世界にも存在していない。まさに完全な別の世界だよ。」

 下を見ると延々と続く穴のようになっていた。果てしない。夜空もただの真っ黒な暗幕のようになっていた。

 何なんだこれは?

「ど、どうなっているんですか?!」

「これが私の能力なんだ。これを使えばどんな時間軸にも次元にもほかの世界にもアニメの世界だろうと関係なく入れる。

 もし君が家に泊まらせてくれれば恩返しにこれをやって差し上げるよ。」

 俺はすっかりその気になってしまった。

 こんなものは初めてだ。親にはどう説明すればよいのだろう。

 困惑しながら私はアルミアさんと別の世界にただ立っているのであった。

 しばらくたつと、アルミアがこの世界を閉じた。

「分かりました。着いてきてください。親と掛け合ってみますよ。」

 自転車を押しながら家路につき、そのまま帰宅した。

 アルミアさんはいったん玄関に待たせておいて俺は急いで親と相談した。

 だが、そうも簡単な話ではなかった。

 親からしたら知らぬ人を止めるなんて気がくるってもしたくない。

 ホームステイ受け入れとかならまだしも、ここはホテルじゃないし、料亭でもない。それなのになんだ?ということらしい。

 自分の口でも能力のことや、大丈夫であることは言っているが、変人じゃないのかといわれるだけで進展がない。

 十分にも及ぶ口論の末、たどり着いたのは親父の一言だった。

「分かった。そんなに錬人が本気になるのも珍しい。そこまで言うなら錬人、君の責任で止めなさい。自分の責任をしょってやるならいい。」

「あ、ありがとう!お父さん!」

「しかし!」

 アルミアとまではいかないが長い人差し指をピンっと立てて、一つ何かを言おうとしていた。

「君の何かが盗まれたり、壊されたりしても、責任は君にあることを忘れるな。一応なんとかはしてやれる範囲では何とかするが、それ以外は君が君の責任でやってくれ。

 それだけだ。」

 なかなか強い一言に俺もお母さんも黙った。だがよかった。俺は許可を得た。さっそくアルミアさんを入れるとしよう。

 部屋もこの前片付けたし、ベッドも二つ目がある。これなら大丈夫だ。

 俺は玄関をけてアルミアさんを入れた。

 彼はさっそく深く頭を下げて挨拶をした。

「今日は止めてくださり、ありがとうございます。この恩は決して忘れません。私の名前はアルミア・タニティード・エースと申します。

 どうかよろしくお願いいたします。」

 親父もお母さんもかれの身長や体格、その風格に圧倒されているようだった。ホントに驚く限りだよなぁ。

 俺はさっそく自分の隣の空いてる部屋にアルミアを入れた。

 そして彼が身支度を整えているうちに俺は風呂に入り、寝間着に着替えた。

 幸い明日は金曜日だ。明後日は休みになる。

 こんこんと木の扉をノックし、アルミアの部屋に入った。そこにはすでに探検家のような服を着たアルミアが立っていた。

「じゃあ約束通り、行くとしましょう。」

「はい!」

 彼はまた時空を裂き、あの別の世界へ行った。

 俺はこれから何が始まるかを知らずに。

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