イエローベース・ジャーニー
@Sanshine_guy
第1話 プロローグは唐突に訪れるものだ
西暦3055年、世界は崩壊の一途を辿っていた。
時はさかのぼり西暦2980年、西側に位置するベレス山脈の一部が突然白くなり、風が吹くと粉塵になって巻き上げられ飛んでいくという謎の現象が起こった。
世界各地から専門家がその山に集って調査が行われると白い粉塵と化した部分が人間以外の生物に一定量つくと特異な存在へと急激に進化・変容することが分かった。
その調査以降、白い粉塵と化すことを【
それに関連してあらゆる生物に白い粉塵が付着したことでこの世界にいるほとんどの生物は【動物】から【魔物】へと呼称が変わった。
これらのことから急激に自然のあり方が変わってしまったため、人々は住む場所を魔物に破壊され、一気に荒廃した世界へと姿を変えた。
そんな自然の摂理に抗おうと人々は団結し、世界で五か所に都市国家を築き上げた。
北東の激しい天気の乱れに抗わんとする【天候共生都市 エイリーヴェ】。
南東の常夏のような暑さと海辺にすむ魔物に抗わんとする【海峡観測都市 セアシデ】。
北西の鬱蒼とした森に住み、俊敏に戦わんとする【巨木浮遊都市 ウォードラン】。
南西の険しい山岳地帯で竜の力を得た民族が住まわんとする【人竜友好都市 ドラフマ】。
そして、この世界の中央に位置する世界最高で最高水準の生活があることから自然と対等とならんとする【未来習合都市 ヒューリ】。
この五か所がほぼ対等に力を持つ大規模な都市国家として、人々の希望の光としてそびえ立っている。
その他にも小さな町や村などがいくつも点在している。
以上が我々が生活する世界の様相である。
(『世界見聞道中』より一部抜粋)
♢
そんな以前と比べて様変わりした世界の中のとある町の近郊で男性と女性の二人組が戦闘態勢を取っていた。
対峙するは巨大化した「砂漠の馳走蟲」ことオルコイ。
全長約60mのミミズのような生物で、口腔部を覆い隠すように小さく鋭い棘状の突起がびっしりと張り巡らされている。
体色は赤く、見るからになめらかな皮膚でこの砂漠の上や地中を移動している。
「行くぜ姉貴!いつも通り援護射撃よろしくゥ!」
「あんまり前に出すぎないでね!ちゃんと間合いを――」
「わかってらァい!」
男性がオルコイめがけて駆ける。
それを女性が注意するも男性は依然として返事一つしか返さないので、仕方なく女性は何もない空間からスナイパーライフルを出現させて構えた。
男性の見た目は奇抜な髪型、ロイヤルブルーからウルトラマリンブルーへのグラデーションとなった髪色、黒のタンクトップに赤色のオーバーサイズのジャケットを羽織っている。
下は少しくすんだグレーに近い白のロング丈のパンツ、黒のプラスチックで覆われたシューズ型の履物を穿いていた。
一方、女性のほうは、髪型はミディアムウルフで髪色はターコイズブルー。
服装は背部がマントのようになっているヴァーミリオン色のクロップドトップスに、臀部がロングコートのようにたなびく真紅のショートパンツからなるセットアップ。
履物はなだらかな角度のサンダルにも似たブーツを穿いている。
ちなみに胸部は控えめで引き締まった腹部が陽を浴びていた。
男性は走りながら腰差しに納刀していた二本のダガーナイフを抜刀して構え、スピードのギアを上げた。
オルコイが突っ走ってきた男性を捕食せんと上から食らいつくも、それをスライディングしながら回避。
そのまま右に曲がってさらに速度を上げると同時に、砂を蹴り上げてオルコイの身体を疾駆、そのまま標的よりもはるか上空まで飛び上がった。
「姉貴!」
男性が叫ぶと、女性は目をオルコイの頭に注視する。
すると、視覚情報がスコープを覗いているかのような感覚になった。
「
心の中でポツリと呟きながら引鉄を引いた。
しかし、銃口から弾丸らしきものは出ない。
いや、出なくて当然か。
なぜなら既に撃ち抜いたのだから。
そこから知覚が撃ち抜かれたとわかり青い体液を砂漠に流し始める。
「さっすが姉貴。ンじゃ俺も……」
男性がダガーナイフを持ち、腕をクロスさせる。
あとは落下スピードに身を任せるだけ。
黒のトップスが風で膨らむように舞うと、そこにはこちらも引き締まった筋肉質の体が顔を覗かせていた。
「【
重力に逆らうどころか重力ごとエネルギーにして、オルコイの脳天目掛けて二つのダガーナイフを突き刺すと同時に着地した。
撃ち抜かれたと知覚し始めたオルコイの頭に脳天から衝撃が走り、重力エネルギーと落下エネルギー、鋭く重い二撃という三つのエネルギーが同時にのしかかる。
その後のオルコイの頭が砂漠に打ち響くスピードは速く、その衝撃は凄まじかった。
「これでいっちょ上がりだ」
「はあ、メレク。やりすぎ」
「へへ」
「へへ、じゃない。まったくもう」
女性に男性—もとい、メレクが駆け寄ると、女性は頭を小突いた。
♢
その帰路、メレクと女性は肉だけすべて【
ちなみにこの魔術を他に扱える人は周りに誰もいなかった。
容量の限度は知らない。
おそらく「ほぼ無限」であろう。
「にしてもさあ、こんだけオルコイの肉があれば、今日はオルコイ肉パーティーだな!オルコイのハンバーグにオルコイのソーセージだろ?それから~……」
「それもいいけど、今日はお隣さんからもらった野菜もあるんだからちゃんと食べるのよ?」
「わかってらい。あー、待ち遠しいなあ……」
そんな狩猟後の献立の談笑をしていると、目の前には信じられない光景が映っていた。
巨大な砂地獄が町を飲み込んでいたのだ。
目を凝らしてみれば、人々や家畜、家々が為すすべなく砂地獄に飲み込まれていた。
「え……?」
「う、嘘だろ…?こんなことって……」
二人はその場で呆然としていた。
女性に関しては、ショックのあまり膝をつき、メレクはメレクで突っ立ったまま動かなくなってしまった。
それでも時間は無慈悲に過ぎ去り、その光景は二人の眼に否応なく惨状を叩きつけた。
でも、二人は動かなかった。
そして全てが飲み込まれ、眼前にだだっ広い砂漠が現れると、メレクは一人踵を返して俯き、目を前に見据えて歩き出した。
「どこ行くのよ……」
「どこって…隣町だよ」
「なんで…?」
「なんでってそりゃあ……もう帰るところがないんだ。あてのない旅に出るしかないじゃないか」
「だからなんでって聞いてるのよ!メレクは悲しくないの!?私たちの故郷が無くなっちゃったんだよ!?」
「……」
「聞いてるの!?ねえ!!」
女性は振り返りながら思いの丈を、激情をメレクに向ける。
メレクは振り返りながら口角を上げて笑っていた。
しかし、彼の眼は据わり、涙をこぼしていた。
その嘆きや絶望に打ちひしがれても尚前を向き、震えながら己の肉体と精神に鞭打つ彼の姿を見て、女性は顔を引きつらせて黙ってしまった。
「姉貴、これが悲しい顔に見えるかよ……?」
「俺が絶望の渦中にいないように、見えるかよ……?」
「なあ、姉貴。俺たちは悲しみに打ち付けられてる暇はないんだ。そんなことしてたらオルコイみてーな他の魔物たちに食われちまう。だからさ、行かなきゃ。どこでもいい。この悲劇の原因を見つけなきゃ。じゃねえと俺、なにもできなかった自分が悔しくてさあ…死んでも死にきれねェよ……」
メレクは泣きながらそう言うと、また歩き出した。
それを追いかけるように女性もまた走った。
「じゃあ、その思い、姉ちゃんにも半分わけて」
「姉貴……」
「メレク、アンタの姉ちゃんの名前は?」
「ラドア……」
「そう。私はラドア。アンタの姉ちゃん。てことはさ、アンタが抱えてるモンの半分くらい持ってあげるのが姉の役目ってもんよ」
「姉貴……、うん、ありがとう…!」
「いい男が泣くなって。私はアンタについていく。弟の尻拭いくらい私がしてあげなきゃね!」
そう言ってラドアがメレクの背中に喝を入れるように叩く。
そこをさわりながらメレクは姉のラドアと握手し、二人は次の隣町まで砂漠を歩き始めた。
次の更新予定
毎週 水曜日 07:00 予定は変更される可能性があります
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