中編 嵐の下ではしゃぐ者
龍は嵐の中を飛んでいた。雷鳴を轟かせ、雨を降らせ、嵐の加減を監視するのが彼の役目。
その姿は他の神獣たちや、あやかしに見えても人間には普通は見えない。だからその日もいつものように嵐を起こし、雨を降らせた。雷鳴は恵みでもあり、雷が多い年は豊作になる。しかし、多すぎても木に落ちて山火事になることもある。その辺りのさじ加減も難しい。最近は気流や海流の変化もあって制御が難しくなってきた。
(そろそろ、次の時代への変わり目か)
龍であっても万能ではない。この星の動きとともに生きている。人間達は気候変動や異常気象と呼ぶがこれは星の活動であり、変化の時だ。うまく付き合わなくてはならないのに、人間はCO2削減とか地球に悪い物とやらを作り出しては止めようと矛盾した行動を繰り返し、自分たちで解決しようとしている。
傲慢と思うと同時に健気でもあると感じるので人間には特に嫌悪感は無い。この世の森羅万象、全ては等しく行けとし生ける者のため。だから自分も役目を果たし、嵐を各地に起こしているのだ。
そうしていつものように嵐を起こしている中、人間の子どもに見られたような気がした。時折、雷鳴の瞬間に影が見られてしまうことがある。大抵は光った瞬間なんて人は直接見ないし、見たとしても錯覚と勘違いして詮索されることはない。
しかし、その子どもは家に帰ったあとも、空を見上げ続け、さらに自分と目が合った。
しかし、過去にもそうやって人間の子どもに見られることはあった。そして、そういう子どもは時が経つに連れて見えなくなるのか目が合っても無視をされる。だからその時もその類だろうと気にしなかった。
しかし、あの女の子は一年経った今でも自分が嵐を起こすと外に出て自分を眺め、手を振ることもある。時には聞こえはしないが、叫んでいるようなしぐさも見せるから自分に話しかけているようだ。
その姿は人間の言葉を借りると『推し活』しているようにも見える。
(今日もあの子がいるな。ルール違反だがせめてそこには雷は落とさないようにしておこう。今はこれくらいしか応えてやることができないからな。しかし、昔は恐れたり敬ったりされたがまさか『推し』にされるとは。これも時代なのか)
龍はそのまま何かはしゃいでいる様子の梨乃をしばらく見た後に仕事へ戻った。
(いろいろな意味で不思議な人間だ)
しかし、あの子もやがて成長するに連れ、自分の姿も見えなくなるのだろう。そう考えると少しだけ寂しさも覚えた。
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