第8話 船内生活

出航日、サクロとルルアは再び軍用ドックを訪れていた。

ミロウンガ号の前まで来ると、ナウル・ナウラス大尉に迎えられる。任務に必要なものはすでに積み込んでおり、サクロたちはわずかな手回り品だけバッグに詰めて持っていた。それを案内された自室に置き、すぐに戦闘指揮所に向かう。


そこにはコフラ・ファルハ艦長を始めとして、ナウラス大尉、マーザ・バカラ中尉、スー・ラ・マルジャーニ中尉の四人が揃っていた。マーザ・バカラ中尉は、休暇が短縮されたことが恨めしいのか、サクロを鬼の形相で睨んでいた。


艦長の指示で全員が定位置に着く。サクロとルルアの二人にも座席が用意されていた。ドック内にいるうちは人工重力があるが、ドックを離れた直後は無重力状態になるため、着座してハーネスベルトを締める。


壁面の全面パネルモニタには、直前まで作業をしていた大勢の作業員たちが手を振っているのが映されている。ラッパ隊の行進曲が鳴らされて、ミロウンガ号はトロリーに曳かれてドックを出た。いままで調査船で出航したことは何度かあったけれど、いずれも見送りのない静かな出航だったので、サクロにとってこんな派手な出航は初めてだった。連合軍とはこういうものなのかと感慨深かった。


こうして、五億光年先の惑星マックスcへの旅が始まった。出航後、途中の会合点で工廠衛星とドッキングし、あとはワールドクロノポータルをくぐって、暗いワープトンネルを三ヶ月間、ひたすら進むだけの旅だ。


サクロは軍艦の中の生活は初めてだったけれど、かなりの快適さに驚いた。

今まで乗っていた調査船はほとんど無重力に近かったけれど、ミロウンガ号では常に人工重力が発生していたので、コロニーと同じような感覚で過ごすことができる。


食事については、本物の食材から作られた冷凍食品が豊富にあり、その他に非常時用に風味付きの完全戦闘食を造形できるフードプリンターも備えられていた。

食事は手の空いたときにいつでも好きなものを取ってよかった。とはいえ、一人で食べるのも味気ないので、二、三人で集まって食べるのが常だった。サクロも乗員たちを把握するため、努めて彼らと食事を取ることにした。その結果、マーザを除く全員とそれなりに話すようになったものの、マーザだけはサクロを毛嫌いしているようで、ほとんど関わりはなかった。銀河連合の官僚をよく思っていないのだろう。ただルルアとスーの仲が良いので、一応、マーザもルルアとは世間話をしているようだ。


睡眠も好きなときに取ってよかった。なので、艦内の規律は厳正であるものの、緩いところはかなり緩く感じた。


そんな日々の中で、各乗員がそれぞれの任務を淡々と遂行していく。

ナウル・ナウラス大尉はミロウンガのAIのオペレータとして、AIの調整や兵装と船体の不具合のチェックを行い、不具合があるとスー・ラ・マルジャーニ中尉に指示して修理させていた。操縦士のマーザ・バカラ中尉は、自動操縦に異常がないことを確認して、手の空いたときには、マルジャーニ中尉を手伝っていた。ルルアは、現地での調査方法について念入りに確認して、到着後の先住民の言語解析などの準備をしているようだ。


そしてサクロはマックスc到着後の行動について、ファルハ艦長と入念に話し合った。

その結果、マックスcに到着して工廠衛星を切り離したのち、まず、測位衛星コンステレーションを展開することにした。測位衛星コンステレーションは、ミロウンガ号がマックスcの海面で航海するときに、その位置を常に知るための人工衛星群のことだ。さらに、搭載されたカメラによって惑星表面の光学観測も可能であるため、これを使って表面をすべて撮影したのちAIに解析させ、地形や原住民の街の位置、さらにはガレオン船の位置を特定してから、マックスc大気に突入することにした。その際に、着水場所としてガレオン船の近辺に着水し、場合によってはその船と戦闘を行う予定をたてた。


そうやって各乗員がそれぞれの役割を果たして過ごすうちに三ヶ月が過ぎ、マックスcにたどり着いた。

「ミロウンガAIが例の船を発見したようです。事前の情報通り、このマックスcの世界では最大級の帆船のようです。他の船はもっと小さいですね」

ナウルはファルハ艦長にそう報告する。測位衛星コンステレーションを展開してから、僅か三日後のことだ。地球よりも一回りだけ大きいとはいえ、表面の九割が海なので、舟の発見にはもっと時間がかかるかと思っていたけれど、衛星たちは全表面を撮影したあと、すぐに画像を解析して発見したようだ。

「了解。ガレオン船の現在地は?」

「西経九二度の赤道付近です」

ガレオン船の位置がホログラムで表示されたマックスcに輝点で示される。

マックスcは大きな島が五つあり、その中で最大の島の中にある最も大きな集落を通る子午線を世界の中心として、東経と西経を分けることにした。

「わかりました。引き続き監視を継続させてください。決して見失わないように」

「はい」


「サクロさん、そちらの調査の準備はどれくらいかかりそうですか」

「二日もあれば大丈夫そうです」

すでに全表面の撮影データを基にして、AIによるリモートセンシングが進行していた。光の反射から、集落の位置や規模、農業に適した地や、宇宙港の建設に適した地盤の固い台地のマッピングなどが順調に進んでいた。あとは、どこから調査していくか優先度を決めるだけだった。

「わかりました。ではマックスc大気への突入は予定通り、四日後に行います。着水後、すぐに水上戦闘できるように戦闘用意をお願いします」

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