第5話 ルルア・ト・ハイドン
シュア専門官からのレクチャーのあと、ルルアと二人で軍用ドックに向かった。軍用ドックエリアに来るのは初めてだ。受付のポータルは無人だったけれど、そのまま通っていいと言われていたので、そのまま通る。誰か案内してくれるかと思っていたが、無人のカートがやって来て、二人の前で止まった。カートに乗れと音声で指示され、ルルアと二人でそれに乗り込むと、自動で発進する。
「さっきの質問ですけど、ラウスフルさんはどう思いますか?」
「サクロでいいよ。さっきの質問って適性の話か?」
「はい。なぜ私なんだろうって。私よりも成績のいい人ってたくさんいるのに、その人たちは、まだ研修を受けていたり、誰にでもできるような簡単な作業をさせられたりして、暇を持て余しているんです。それなのに、まず私に赴任地が与えられて、研究に出かけられるなんて」
「多分、君は三半規管が強いんだろう」
「はい?」
「今回の任務は、無重力の宇宙船からいきなり重力のある星に降りるからな。三半規管が強くないと、首を動かしただけでも強いめまいを覚える」
「それだけで、ですか?」
冗談で言ったつもりだったけれど、ルルアは困ったような顔をして真っ直ぐにこちらを見ている。
「冗談だよ。オレにも分からない。ただ単に運が良かったんじゃないか?」
「それなら、納得です。私、運だけは人より強い自信があります」
「へえ、そうなのか」
「はい。登用試験でも合格最低点のギリギリセーフでした」とルルアはあっけらかんと答えた。
「ギリギリセーフって、そういうのは恥ずかしくて隠すんじゃないのか?」
「そうですか? むしろ、私はなんて幸運なんだろうって思いましたけど」
「……なるほど」
もし自分が合格最低点を取ったらどうするだろうかとサクロは考える。それは恥ずかしいこととして死ぬまで隠し続けるだろう。同僚に知られれば、あからさまに馬鹿にされないまでも、心の中では軽く見られるに違いない。
しかし、ルルアはそんなことには頓着しない。むしろ、ギリギリセーフだったことに幸運を見出してすらいる。
ルルアは、ただ正直で、飾らない性格なのだ。他人の評価が気にならない彼女が少しうらやましかった。
「もう一つ訊いても良いですか?」
「うん」
「コルセアの人たちってどんな感じなんですかね? 面白い人たちだといいですけど」
「オレもわからないな。関わったことないから。でも、元海賊だろ? 面白くはないんじゃないかな」
「えー、そうかな。魔法使いって呼んでいる人もいるし、なんとなくすごい人たちのような気がしますけど」
銀河連合経済協力機構では、『彼ら』の魔法技術の使用を厳しく規制していて、好き勝手には使用できないようになっている。便利な反面、使い方を誤ると悲惨な結果を引き起こすからだ。しかし、銀河連合の権力の及ばない辺境で活動する海賊たちは、そんな規制の外で好き勝手に魔法技術を使用している。だから皮肉をこめて海賊を魔法使いと呼ぶ人もいる。
魔法使いたちの多くは、自分たちで使った魔法に振り回されて自滅したり、連合の圧倒的な魔法の前に消滅したけれど、賢明な海賊はそうならないようにうまく立ち回っている。銀河連合とは別の観点から独自のルールを作り、上手くやっているようだ。
連合に従わない海賊に対しては、連合は手加減しないが、連合に従う海賊つまりコルセアに転籍した人たちに対しては、連合は鷹揚な態度を取り、かなりの自由を与え、ある程度の魔法の使用も認める代わりに、彼らを便利に使っていた。
コルセアは、連合の汚れ仕事や、リスクとリターンが釣り合わない仕事を引き受けさせられることも多く、今回の件もそういうことだろうと思った。
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