第43話 集結。
◇ショコランティーナ目線◇
「ちゃんとみんなには伝えたいんだけど」
一連の騒動が一段落して数時間後、私はつんつんと優さんの背中をつついて言った。
「みんなって?」
みんなという部分がわからないみたい。
「みんなはみんなよ、ここに住んでるみんな」
何となく伝わったみたいだけど、身バレ未遂騒動の直後。
慎重にしなくていいのかって心配をしてくれてるみたい。
私と優兄さんのことをお兄ちゃんは知ってるのに、歩さんと芽衣たんは知らない。このまま黙ってるのがいいことなのかわからない。
出来たら一緒に暮らしていくのだから、知ってて欲しい。ふたりとも信用できる。芽衣たんはさっきから勉強部屋にこもってる。
歩さんは仕事が早番で帰宅済み。
「いいのか?」
優兄さんは慎重に確認する。私は出来るだけいい笑顔で頷く。優兄さんはまずお兄ちゃんを呼び、説明してくれた。お兄ちゃんは少し難しい顔をしたが同意を得られた
***
「優ちゃん、なに? 私ちょっと忙しいんだけど」
珍しく芽衣たんが優兄さんに眉をひそめる。勉強の邪魔をしてしまったのかも知れない。
「私は平気よ〜〜年上の余裕ってやつ(笑)」
歩さんは芽衣たんの頭を撫でるが、芽衣たんはあからさまに嫌がる。
「時間は取らせないよ、このニュース知ってる?」
優兄さんは自分のPCで事務所の記者会見が載ってあるネットニュースのページを開いた。
「知ってるけど……優ちゃんVチューバーとか興味あるの? なんか意外〜〜てへっ」
「なによ今の『てへっ』てのは。そういう優にしか見せない顔いきなり見せないの。で、ネットニュースのトップに出てる記事よね、なんとなく読んだけど、そんな時事ネタトークするの?」
「えっと、そのまったくの他人事じゃないんだ。ここから先はここだけの話。わかった?」
「まぁ、うん」
***
「つまり、彩羽ちゃんがこの渦中のVチューバー来栖なんちゃらって娘の中の人ってこと⁉」
「はい、その黙っててスミマセン」
「そ、そうなんですか!」
「芽衣たんもごめんね。あっ『芽衣たん』呼び嫌だったよね……」
「いえ、そんな! む、むしろ光栄です!」
「――光栄? えっと、じゃあ……なんか、うん。そう呼ぶね?」
「是非お願いします!」
あれ、なんか変。
もしかしたら優兄さんに叱られたのかなぁ。
あんまり私のことで叱ってほしくない。そんなこと思ってたら芽衣たんが元気に手を挙げて質問した。なんか私の中の芽衣たんとは違う。
「あの! じゃあレッサー・アントニウス兄さんはその彩羽さんのお兄さんの?」
「あっ、いやそれはオレじゃないです!」
お兄ちゃん敬語なんだ。
まぁ、ふたりの距離を考えるとそれもそうか。どうする、私のことはオープンにしたかったけど、肝心の優兄さんのことは考えてなかった。
「その事なんだけど、黙ってて悪い。芽衣ちゃん、あれ俺なんだ」
「えっ?」
「優ってそんな冗談言うようになったんだぁ~時の流れはなんかスゴイね(笑)」
芽衣たんは固まり、歩さんはまったく受け付けないで笑い飛ばす感じ。普通の反応と言えば普通の反応だ。
「あの優ちゃん……冗談なの? いや、待って、待って――聞き覚えある声だって思って……」
「いや、なんというか成り行きで……」
「芽衣たん、そのごめんね、優兄さん巻き込んだの私なの。えっと、経緯は――」
「知ってます! 観てましたから! えっ、うそ、いや優ちゃんの声だって、似てるって思ったんだ……ホントのホント?」
私と優兄さんは顔を見合わせる。ここまで来て誤魔化しても仕方ない。
「えっと、セントラルライブ第5.5期生来栖・レッサー・アントニウスです」
「ほ、ホンモノだ……」
芽衣たんは真っ青な顔して駆け出した。
ショックのあまり出ていったのかと思いきや、学校のカバンを持って戻ってきた。そして一枚の茶封筒を差し出し大きく頭を下げた。
「あの! 私この度セントラルライブ6期生としてデビューが決まりました立花芽衣です! 来栖先輩とは知らず、数々の失礼な行ない申し訳ありませんでした!」
「「え? え⁉ えええええええ~~~~⁉」」
そこにはセントラルライブ第6期生合格と書かれた証書があった。
紛れもなくホンモノだ。唖然とする私にペコリと頭を下げた芽衣たんは優兄さんに体を向け、頭を下げた。
「レッサー先輩、よろしくご指導御願いします!」
「えっと、あの……はい」
優兄さんはしどろもどろに返事をするのがやっとだった。こうしてひとつ屋根の下にセンキャスが3名も集結することになった。
***
「ごめんね、芽衣ちゃんがVチューバー目指してるなんて、俺全然知らなくて」
「いえいえ、先輩。その私も何ひとつ相談もせず、申し訳ありませんでした」
「芽衣ちゃん。その……先輩ってのはちょっとアレなんだけど。ほらショコもびっくりしてるし」
「す、すみません! 私驚かせちゃいましたか⁉」
芽衣たんは意外と体育会系な感じでハキハキと返事した。
そのノリについて行けなかったのか、歩さんとお兄ちゃんは自室に帰った。
優さんは困ったような顔をしながらも優しく芽衣ちゃんの頭を撫でて「俺にはいつもどおりでいいよ」と諭すように話し掛けた。
優兄さん、当たり前だけどお兄さんしてる。
□□作者より□□
読み進めていただき、ありがとうございます。
あす、44話をもちまして、本作完結となります。最後までお付き合い、いただければ幸いです。
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