第42話 来栖事変勃発。

 26チャンネルネット民の反応。


『皇女の件。自作自演とまでとは行かんが売名の模様――アイチューブ登録者数激増ワロタ! 登録者数300万目前って実力反映しなさすぎ〜〜』


『言われてナンボの世界。顔バレで困るのは困る過去があるのでは??』


『誰か皇女殿下の特定早う!』


『ショコランティーナは歌だけでオケ。後は消えてよし』


『私、歌うまいでしょ感がムリ! 消えて』


『分不相応にメガPからの楽曲提供〜〜枕と見た!』


 26チャンネルネット民の反応は概ねショコランティーナに否定的な書き込みが寄せられ、思わぬ逆風状態だった。


 ◇兄さん目線◇


 後日譚と行きたいところだけど、事はそう簡単には収まらなかった。ネットの反応も賛否両論というより、なぜかショコランティーナに否定的な反応が。ファンも多いがアンチも多いのか。


ショコランティーナチャンネルでは幸いなことに応援メッセージが多数を占めている。俺のところにも同様だが、中には削除したくなるのも散見する。難しい。


一筋縄ではいかないのはわかっていたが、正直ショコは明らかな被害者。しかしネット民の一部には被害者に石を投げる者も確かに存在する。


 そんな世情の中セントラルライブ社長の会見が始まった。


 長くなるので要約すると『我々セントラルライブは犯罪行為に対して徹底的に戦い、セントラルキャストの人権を守る。そのためにはあらゆる選択肢を放棄しない』と高らかに宣言したのだった。


 このことは多くの共感を呼び、ネット民から多くの賛同を得た――のだったが、話はここで終わるはずもない。社長の発言が燃料になって一部では更に燃え上がった。

 そこで声を上げたのがセントラルキャストを代表する武闘派――吉祥寺アリス先輩だった。


 もちろん、これはセントラルキャスト社長の許可を得ての行動で、この際行くところまで行けと背中を押された背景もある。


 ***

「えぇ、聞こえてますか? そしたら始めます。私、ご存知セントラルキャスト第1期生の吉祥寺アリスと申します」

 そんな切り出しで始まったネット配信。吉祥寺アリス先輩の左右にはこの間配信に凸ってきた3人娘も居並んでいた。


「今回の件は、いますっごい世間を賑わせてるうちらの仲間『来栖・ショコランティーナ』のことです。事務所から発表があったと思いますが、今回の件は来栖のお兄やんが事を表に出したことで、明るみに出たって感じです。ネット上でなんかお兄やんやら来栖の呟いてる方がちらほらおるみたいやけど、私はこの場を借りてお兄やんの勇気ある行動に感謝を言いたいと思います。それからまぁ、精神的に追い込まれてるってことで、来栖本人とお兄やんがしばらく活動を停止するって話なんやけど、これにも書き込んでる方、いるみたいやけど、うちからしたらなんでって話やねん。ちょっと考えたらわからん? 普通に配信してるだけで脅されてんねん。お兄やんが声を上げるまで、来栖本人は自分ひとりで悩んでたちゅーねん。傷ついてんねん。わからんかなぁ、お兄やんは来栖のケアしたいんちゃう? 知らんけど。そういう人。彼は」


 そこまで一気に話しアリス先輩は水分を取った。

 俺はショコと和正くんふたりとこの会見を俺の部屋で見ていた。ショコはアリス先輩の言葉にボロボロと涙を流した。


「あの、うちらみんなと同じで生身やねん。こんな状況でも批判のコメントする奴居ることが正直信じられんねんけど。うちらにとって身バレってどんだけ怖いか分からんかなぁ。別に芸能人振ってんのとちゃうねんけどな。身バレしたら家とか特定されるかもって思うし、やっぱ色々怖い。考えてみてください。言葉悪いけど批判コメントする方。そのコメントに個人情報全部乗せて出来ますか。フルネームと住所ケータイ番号入れてそのコメント出来る? 出来へんやろ。その顔出しして出来んレベルの悪質なコメントをうちら毎日チャットでされてんねん。まぁ、それは仕事やし、好きでやってんねんから、嫌やったら辞めたらええねんって言いよるやろうけど。ええ機会やからわかって欲しい。うちらVチューバーも同じ人間やねん。当たり前やけど」


 流れてくるチャットを見ると肯定的な意見が多い。

 まぁ、書き込んているのはアリス先輩のリスナーさんだろうから、彼女の意見に近い人が多いだろう。なので世間一般の意見かと言えばそうとも言えない。


「それで思うねんけど、うちら別に使い捨てちゃうよ、って話をこれ始まる前に来栖のお兄やんとした。活動休止の話もして、きっちり10日間にしよって決めた。それはお兄やんだけでもなくて、来栖にもそう言うつもり。でもなぁ、なんや収まりつかんのよ。あとは確かに警察がええようにしてくれると思うねんけど、納得いかんなぁってなってな、ふと思ってん『自分らうちらおらんでもええねんな』って。それやったら一回経験してみたらってことになった。何が言いたいかというと、来栖兄妹と同じ期間うちら4人のセンキャスも配信停止します。これはそういう悪質な書き込みとか行為を繰り返す奴らに対してのうちらの意思です。その間それぞれのチャンネルのアーカイブも閲覧出来んようにします。でも、ちょっと待ってて話になって。配信はせんけどメン限は別ちゃう? って話。だってなぁ、メン限の子たちって毎月決まったお金を払ってわざわざメンバーになってうちらを支援してくれてて、はっきり言って愛してるねん。働いたお金とかお小遣いとかで支援してくれてるねん。だからメン限だけはしよかってことになりました」


 チャットには驚きのコメントが多数流れる。

 ここに居並ぶ4人は『アリス組』と呼ばれ鉄の結束を誇る。


 アリス先輩が決めたことに逆らうことはないだろう。それにしてもこのメンツの登録者数の合計は数百万人になるだろう。下手したら1千万人を越えるかも。


 ショコとまだそれほどではないけど、俺の登録者数を合わせたらどれくらいの登録者数になるだろう。そのチャンネルが一斉に配信を中止するばかりではなく、アーカイブにもアクセス出来ないようにするとなると、その界隈では大混乱の予感だ。


 しかし、アリス先輩はその先を考えていた。

 そんな甘い鉄槌では済まさないようだ。


「さっきも触れましたが、この件は事務所の了承を得てます。もし、うちらの意見に賛同してくれるセンキャスがいたら、行動してください。つまり、同じ期間配信を停止しアーカイブを閉じるってことで世間に問いたいです『ほんまにうちらなしでええねんな』と。あと、思うんですけど、これってセントラルキャストだけの問題と違うと思うんですね。Vチューバー全体の悩みでもあり、解決していかないといけない問題なんです。それでもし、各事務所さんや、個人Vの方でこの思いに賛同してくれる方がいるなら、連絡ください。目的はひとつです『Vのよりよい未来のために!』よろしくお願いします」


 結論から言うと賛否はあったものの、セントラルキャスト全員このアリス先輩の意見に賛同し期間中メン限だけの配信をし、アーカイブを閉じた。


 付け加えると大手3社もこれに追従する形でメン限だけの配信となった。特筆すべきは切り抜き動画を提供してるチャンネルの多くも同じように動画を視聴出来なくした。


 動画サイトは想像するも容易く閑散とした状況だったが、メン限の積極的な配信もあり、コアなファン層からは「民度が上がった」と概ね歓迎された。


 後にこの出来事を『来栖事変』や『来栖兄妹の乱』と呼ばれるようになるが後の話だ。





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