第37話 皇女殿下、生降臨。

 □◇生配信◇□

「そんなわけで始まりました〜『来栖・レッサー・アントニウスのちょこっと配信!』本日もよろしくお願いします〜〜」


 ショコとマネージャーさんの提案で慣れるまで1時間程度の短めの配信をすることになった。

 1時間程度なんて言うが、素人的に1時間はかなり長い。


 リスナー1『兄上さま、お疲れ様!』

「えっと……コメントありがとうございます……語尾がめちゃくちゃ気になりますけど」


 リスナー2『気にしない! 俺達は暴君の所から逃げてきたよ!』

「暴君? えっと、やっぱしあれですよね、その妹――ショコランティーナのリスナーさんですよね?」


 リスナー3『なんで、そんなことわかった⁉ 領主さまはエスパーか?』

 いや、語尾がショコだし。


 俺の公式設定では田舎の小領主ということになっている。このリスナーさんの語尾は明らかにショコことショコランティーナのリスナーさんだ。

 これがよく聞くリスナーの浮気というやつか。そうこうしてるうちに赤スパを頂いた。赤スパとはいわゆる投げ銭というやつで、色によって金額が違う。


 ちなみに赤スパは1万円以上になる。つまり高額な出費をしてくれてることになる。何にしてもお礼を言わないと。


「えっと、ありがとうございます! 今ですね、赤スパいただきました! えっと、赤スパ。身内って言って失礼ないてしょうか。もし失礼があったらごめんなさい。センキャスの大先輩アリスさんから先日限度額の赤スパ頂いたんですけど、その皆さんから貰っておいて恐縮なんですが、少額っていうか、なくて全然いいんですけど、もしどうしてもご支援したいと言われるなら、少額からよろしくお願いします!」


 手汗がびっしょりだ。

 人からお金を貰うことに慣れてないので、どうしていいかわからない。わからないけど、感謝はしたいので言葉にするけど、すればするほど焦る。いつか慣れる日が来るのだろうか。


 リスナー4『御兄様領主は神! どっかの皇女は月1で【赤スパ祭り】なる魔の行事を開催する! 皇女さま自ら赤スパを捧げよう! と狂ったように叫ぶ! 重税よ!』


 ショコってそんなことしてんの? 

 いや、冗談半分だろう。

 ん……? フレンド・コードが来ている。センキャス同士が連絡を取り合うアプリなんだけど……

「えっと、あのですね。フレンド・コードが来てまして、その……ショコランティーナなんですけど。おかしいなぁ、いま配信中なんだけどなぁ、本人。えっ? これが凸っていうヤツ? 教えてくれて、ありがとうございます。えっとどうしよ、ひとまず繋ごうか――ショコ、聞こえてる?」


『兄さん、お久しぶりです〜〜』

「配信前ぶりだよな(笑)まだ何分も経ってない。いいのか、配信」

『いいか悪いかと言えばよくないですけど、が色々教えてくれるもんで、つい』

「うちのコ? リスナーさん? 何を教えてくれるんだ?」

『いえ、なんか我が国を抜けて兄さんの領地に逃げ込もうとするが多発してるとか。心当たりありますか、兄さん?』

 さっきチャットしてくれたリスナーさんたちのことだ。

「いや、そんな話は聞いたことない


『兄さん、語尾がショコになってる』

 しまった。我ながらうそが下手すぎる。

『なんでそんなウソつくんです? 私の民草、兄さんの領地に逃げ込んでますよね? 知ってます? 我が国は告げ口制度を推奨してるんですよ、つまり民草が他の配信者に浮気したら、す〜ぐにわかっちゃうんですぅ〜ねぇ兄さん。民草取らないでくださいよぉ。最近兄さんの領地に逃げ込む民草多くてショコ、困ってるんですぅ〜兄妹なら変に匿わずに返してくださいよぉ〜ショコランティーナはこんなに兄さんをア・イ・シ・テ・ルのに兄さんはショコの愛情につけ込んで民草を騙して奪い取るの? ショコにヤサシクシタノハ、ソレがモクテキ?』


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い! 

 ビジネス・ヤンデレとは聞いてたけど本場のヤンデレは怖い! 

 う、ウケ狙いだよな? いや、うかつなこと言うと完全に持っていかれる。命的なものを。よし……


「ショコ、苛政かせいは虎よりももうなりと言う」

『なんですか、それ。意味分かんないですよぉ、兄さん!』


 リスナー5『孔子だ』

 リスナー6『領地さま博学〜!』

『あなたうちのコでしょ! それで、なんて意味なの?』


 リスナー7『皇女さま怖い……過酷な政治は虎より怖いって意味!』

『そうなんだ〜兄さん物知り! すっごい〜でも何の話かショコランティーナ全然わかんな〜〜い。そろそろ帰らないと。それじゃまたね、ア・イ・シ・テ・ル、チュ!』

 なんなんだ。


 嵐のように現れて嵐のように去っていった。きっと、配信うまくいってるか見に来てくれたんだろう。考えてみたら、ショコのヤンデレって人気あるから、わざわざやってくれたのかも。


 ひとまず、目標の1時間なんとか配信できた。そろそろ締めに入ろう。

「いや〜〜びっくりした。生ヤンデレ」

 リスナー8『でもさすが兄妹。ヤンデレ皇女の追撃、領地さまうまく逃げた〜』


「うまく逃げれてますかね?(笑)まぁ、ご機嫌で帰っていってくれたからよしとします! えっとですね、そろそろリスナー名っていうんですか? ショコのところだと『民草』さんだったりするんですけど、なんかいいなぁって思ってます。そんなわけでリスナー名を決めたいと思いますので、次回配信のテーマはズバリ『リスナー名を決めない?』です! なんか良さげなのを考えてくれるとうれしいです! あと、ありがたいことにチャンネル登録者数増えてます! ありがとうございます! メンバーさんも徐々にですが増えてきてて、ありがたいなぁと思ってますが! メンバーさん限定コンテンツがまだありません! えっとなんかやっていきたいと思いますので、少しお待ち下さい。あっと、それと告知なんですが、えっと事務所に頼まれた感じなんですけど、今月の末ですから、約2週間後にセントラルライブの第6期生がデビューすることになります! えっと、僕もまだデビューしてすぐなんですけど、6期生共々よろしくお願いします! ではまた次の配信で」


 ショコから言われてる通り配信関係のスイッチをオフにした。このあたりをちゃんとオフにしてないと、切り忘れでこちらの音が流れたりする。

 内容によっては炎上騒ぎにもなるらしい。炎上になるほどの内容ってどんな内容だろう。そんなことを思いながらPCをシャットダウンさせた。









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