第34話 真実はまあまあ辛い。
◇ショコランティーナ目線◇
うわ〜〜っ。
ちょっとは関係改善したとはいえ、酔った兄貴とこの歳で同じベットとかマジでないわぁ。
酔ったはずみで勘違いして抱きついてきたりしたら、コロスこと請け合い。
しかしちょっと違っていた。
部屋に入った私を兄貴はベッドの上で座って待っていた。少し気まずいので、声をかけた。
「お兄ちゃん、起きたの」
「ん……ちょっとな。お前は」
「私はえっと、訳ありで寝るトコここしかなくって」
兄さんの元カノ歩さんの話をしても少しややこしいので、今は言わない。
お兄ちゃんも今日仕事だし。
しかし『兄さん』と『お兄ちゃん』ちょっと呼び方ややこしいなぁ~~なんか考えよう。
「配信したよ、そのPCとかありがと。助かった。ノートじゃちょっと厳しかったんだ、正直」
そんな感じで当たり障りのない話をした。
ハズだったのだが……
「お前さぁ、前から言おうと思ってたんだけど――」
うぅ……嫌な予感。
この切り出し、声のトーン。
完全に説教ムーブじゃない。なんで?
私謝ったり感謝もちゃんとしたりでお説教されるようなことないと思うんだけど。
自分史上ここまで素直になったことないのに、これで言われたらキレるより泣くかも。これでダメ出しされたら相当キツい。
「ちょっと座れ」
「えっと、なに?」
完全お説教だ。
兄さんのことも引っ越しのことも賛成してくれたし、これでもお兄ちゃんには少しは感謝してる。甘んじてお説教されるけど、これちょっとダメージ残るだろうなぁ、自分的には頑張ったと思ってる時にされるダメ出しって。
仕方ない。私は兄貴が座る優兄さんのベッドの上に正座した。
「お前さぁ、言いにくいんだけど」
「うん」
「いや、頑張ってるのはわかるんだ」
「うん、その……私なりに頑張ってるつもりなんだけど」
「なにその『頑張ってるつもり』って、そんなんじゃダメだろ」
えぇ~〜ちゃんと謝ったよね。
お父さんとも頑張って話したし、全然キレなかった。
優兄さん見習って穏やかに接したつもりなのに、これでダメなら……土下座しかない。思いつかないよ。確かにそれくらいのこと家族にしてきたのかも知れないけどさぁ……妹に土下座までさせたいの?
もしそうならするよ、土下座。でも、何がそんなにダメなのか聞かないで表面だけ土下座しても意味ない。私は変わりたい。家族にちゃんと感謝できるヤツになりたい。だから何がダメなのか教えてほしい。
「あの、お兄ちゃん。その私の何がそんなにダメなの? ごめん。わかんないや」
「いや、ダメってわけじゃなくって、なんて言うんだろ詰めが甘いって言うか」
「詰め?」
土下座でも地べたに額擦りつけるレベルの最上級の土下座をしろってことね。
わかった、背に腹は代えられない。
きっとそれくらい私が嫌な思いさせてきたって訳だもんね、わかった。土下座してる私の頭でもなんでも気の済むまで踏みつけて……
ん? 土下座する私の頭を踏みつける……いい。それいい。それ優兄さんにやって貰いたいかも……
踏みつけながら「だからお前はダメなんだよ〜〜」とか言われたい!
うおぉ〜〜私の中のМの血が騒ぐ!
じゃない、今はお兄ちゃんのダメ出しだった。はい、聞きますよ。どうぞ。
「おまえ、言いにくいんだけど甘くないか。お前のエロ」
「えろ……えろって……エロ?」
えっと……
これはなに系の話なんでしょうか。
わたくし、なぜ深夜に優兄さんのベッドの上で正座したまま、お兄ちゃんとエロについて話してるのでしょう?
これはもしかして……
「あの。まさか配信のお話をされてたり?」
「当たり前だろ、配信以外にこんな真剣な話しないだろ」
いや、配信の話に触れられたの今初めてだと思うんだけど……
ん? 待って、待ってください! それって……
「お兄ちゃん、まさか私の配信」
「見てるよ、なに言ってんだ!」
いや、なに言ってんだはお前だ!
えっ、マジでこの人わたしの配信見てるの?
いや、待て待て待て待て、待て!
配信には大きく分けて2通りある。
ひとつは誰でも観れる普通の配信。
あと1つはメンバー登録して月々一定の金額を支払う人しか見れないメンバーシップ限定特典、通称『メン限』
メン限は毎月お金を支払い、いろんな特典を得ることが出来る。
その特典のひとつがメンバーシップ限定配信の『皇女さまのえろトーク』だ。
エロと言ってもかなりソフトなエロなんだけど、その事でお兄ちゃんにダメ出し食らって……
ん?
んんんんん⁉
「お、お兄ちゃん! まさかメン限なの⁉ それ知ってるってことはメン限だよね! な、なんで⁉」
「なんでって、そりゃ家族だから。オヤジ達はこういうの疎いだろ? そりゃ普通の配信は見てるけど」
見てるの?
お父さんもお母さんも?
えっ、私が皇女だってバレてるの?
落ち着け私。いや、そういうのは普通にある。
うん、冷静になれ。他のVチューバーの子も家族が見てるって言ってたし、Vチューバーあるあるだ。お兄ちゃんがメン限なのは正直ビビるけど、なくはないか。
そう思ったら少し落ち着いてきた。
「ありがと、そのお兄ちゃんさぁ……ところでメン限なら『民草ナンバー』あるよね?」
民草とはうちのリスナー名で、メン限になると特典で壁紙に出来る民草会員証が発行される。それに民草ナンバーが記載されている。
「民草ナンバー? 49だけど」
『49』だと⁉
めっちゃ初期じゃん!
めちゃくちゃ前からメンバーになってくれてるじゃない。
しかもしかも民草ナンバー『49』って、いつも優しいコメントくれたり、フォローしてくれたりのお助け系フォローさんだ。
あっ、ヤバい泣きそう。
あんなに嫌なことしか言わない兄貴が、めちゃくちゃ応援してくれてたんだ。いや、それだけじゃない。めっちゃ赤スパ送ってくれてた。それでか。それでだ。
「それでお兄ちゃん、いつも金欠って言ってたんだ。私に赤スパ送ってくれるから」
情けない。
もっと女子らしい泣き方ってあるだろ。
なんなのこのギャン泣き。歩さんみたいにすっと涙流せないの?
なにボロボロ泣いてんの? でも、家族が応援してくれてるってこんなに嬉しいんだ。
「なに泣いてんだ。家族だろ」
ポンと肩に置かれた手になんでか、また涙が溢れる。
「でも、お兄ちゃんが働いて稼いだお金だよ、それを私に」
「いいって。それよりもっともっといいチャンネルにしないとだな!」
「うん、頑張る!」
なんだろ、なんか力がみなぎってきた。これが兄妹パワーというやつか。
しかし――
「当面の問題はお前のエロ話だな、ソフトエロはそれでいいと思うんだけど、見せ方っていうか伝え方? もっ、ちょっとさぁ、こう……」
私の感動も束の間。
兄貴はソフトエロについて明け方まで熱く語るのであった。
私の感動を返せ。
なにより兄妹でエロの話はとてつもなく辛い。早く仕事行かないかなぁ……お兄ちゃん。どっかで小鳥さんがチュンチョン鳴いてるよ? 寝ろ。
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