第33話 閑話。立花芽依の場合
私は――立花
市内の高校に通う1年生。
生まれてこの方ずっと優ちゃんの妹をやってる。
何度か戸籍を確認したけど、マンガであるようなミラクルはそこにはなかった。
戸籍の上ではただの兄妹。正真正銘の兄妹。血液型はおんなじ。
でも血液型ってたった4つしかない。言うなら25パー。それくらいの偶然は世の中いくらでもある。
血液型が同じだからって、近所のおばさんに「目元がお兄さんとそっくりね」なんて言われても気にしない。ことわざにもある。
そう「他人の空似」ってやつ。そうに決まってる。だって、ドラマもマンガもラノベも血の繋がってない兄妹だらけ。
我が家にだってあってもおかしくない。それくらい世界は血の繋がってない兄妹で溢れてる。
私思うんだけど、きっとお役所の記載ミスだと思う。いや待てよ。同じ日に生まれた女の子を病院が取り違えた系かも知れない。そうなると、一概にお役所を責めるのはコクか……
優ちゃんとは、まあまあ年が離れてる。
物心がつく前から理想のタイプは優ちゃんだったし、そのことは未来永劫変わらない。
ココだけの話――誰も少しも気づいてないと思うんだけど、私はどうやら重度のブラコンらしい。
友達にもお兄さんがいる子はいる。しかし彼女たちの口から出る言葉は「兄貴ウザい」「めんどい」「話しかけてくるな」などなどの罵詈雑言。
反論はしない。自分がブラコンだと知られたくない。だけど、同調もしない。せいぜい「そうなんだ」くらいにしておく。
口先だけでも優ちゃんを悪く言うなんて無理。
だって私にとって『優』と書いて好きって読む『
もう少し分かりやすく言うと『本気』と書いて『マジ』つまりは『
それくらい世間に認知して欲しさはある。
それはさて置き、誰にでも目の上のたんこぶは存在する。私にとってはそれは高坂歩以外いない。
そう言わずと知れた優ちゃんの憎き幼馴染。同じ年で近所に生まれただけの女に、生まれた時点から同じ屋根の下で暮らしてる私では、まったく勝負にならない。
ただ先ほども触れたが私と優ちゃんはまあまあ年が離れてる。そうなると同じ年の高坂歩にある程度アドバンテージがある部分も否めない。
しかも幼稚園から大学の学部まで同じってストーカーですか?
私は認めない。
だけど転機が来た。それは私が中学に上がるかどうかの年のことだった。優ちゃんは大学卒業と就職を控えた冬のこと。
高坂歩に好きな人が出来たらしいとの情報。
それはお母さんとお父さんが話してるのを偶然聞いて知ったのだ。ネタ元が優ちゃんだったのと、その話自体が高坂歩から直接されたことと、優ちゃんが相手を確認してないことから、私はすぐにピーンときた。
高坂歩による揺さぶり大作戦だと。
当然ながら私という愛してやまない妹を持つ優ちゃんですから、誰かとお付き合いするなんて暴挙には至りません。
それはもちろん高坂歩を含めてもって話。
そのことに焦りを感じた高坂歩が姑息にも揺さぶりを掛けたものの、優ちゃんは完全スルー(諸説あり)空振りに終わる。
ふむふむ、これはまさに朗報。
私と来たらランドセルを卒業し、セーラー服で大人になった妹の存在感を示すチャンス――だったのですが、ここで残念なお知らせ。
前からおばあちゃんが腰の具合が悪くて一人暮らしが難しくなっていた。そうなんたけど、亡くなったおじいちゃんが残した家が心配で離れられない、みたいな感じの問題を我が家は抱えていた。
それをこころ優しい優ちゃんが自宅を出ておばあちゃんの代わりにおばあちゃんの家に住むことで問題解決。
一緒に住めなくなると知った私は顔面蒼白だったが、閃いた。
優ちゃんが自宅から出るイコール近所に住む高坂歩とのニアミスが防げるんじゃないかと。それに離れてわかることもある。
そう、再会するたびに成長した私を見ることになる。私はまさに成長期なのです。
それが証拠に帰ってくるたびに私の写真を撮るわけです。彼ったら。
私もやぶさかではないので、自撮りツーショットを撮ったり。今日もしっかり撮ったわけだけど、自撮りツーショットって案外難しくて、そんなに近くに寄るつもりはないんだけど、ちゃんと撮れないからつい、ついその……
なんていうの? 密着しちゃうわけ。わざとじゃないけど、うん。
それでもなんと申しましょうか、わたくし今を生きる諸葛孔明、今孔明と申しましょうか。
なので
今日の日というのは、アレですね。
優ちゃんも年頃ですし、目聡いメス共が近寄ってこないワケがないと踏んでました。そしてその日がやって来ちゃいました。
しかし、今孔明な私はちゃんと対策済。
ここで面と向かって優ちゃんに『いやいや、そんなのいや! 絶対いや!』なんて駄々こねるなんて、妹としての
クールな私はクールに対策。
そう、ここで未練タラタラの元カノさん高坂歩に再登板して貰うわけです。
そのためにわざわざ高坂歩の勤めるツヴァイスターコーヒーでバイトをしてるし、彼女の近況も把握してる。
独身。彼氏はいない。もちろん婚約者もいない。そしてバイトで会う度にこんな事を聞いてくる。
「最近、優元気にしてる?」とか。
「その……彼女とか出来たのかなぁ」とか。
私が言うのもなんだけど、中学生か。
しかし、しかし、問題発生。今日優ちゃんが連れてきた女は、もう見るからに頭温かな感じ。
いや、これはないだろ。
優ちゃん、なにとち狂ってるの? 妹好きすぎて気が動転しちゃった?
なんて心配したけど、どうやら単なるシェアハウスの住民レベル。とはいえ、なんて言ったっけ……いろ…いろり? いやイロハだったかなぁ。
その頭温かが優ちゃんラブみたいなことを言うわけ。しかも、こころなしか姉さん風を吹かせてイラッとくる。
しかしクールな私は歯牙にもかけない。
高坂歩を元カノ風にアレンジし、私が高坂歩を慕ってる的な空気を出したら俄然イロハとやらは焦りだす始末。しかし安心してはいられない。
なにせイロハはシェアハウスとはいえ優ちゃんと同じ屋根の下。焦ったイロハが優ちゃんを押し倒すなんてことになってからでは遅い。
だけど私には策がある。
ここでなんちゃって元カノ高坂歩を攻撃表示で召喚。
『優ちゃんがシェアハウスの住人を探してますよ』って吹き込む。
結果今頃バチバチになってること間違いなし。しかし、策はここで終わらない。満を持して私の登場。
そう、私が目指してるのは『天下三分の計』ならず『優ちゃん三分の計』なのだ。
つまりこうだ。
突如現れた単なるシェアハウスの住民イロハに、なんちゃって元カノ高坂歩をぶつけ、戦力の拮抗をはかる。
その戦いに私も参戦しシェアハウス三国志時代の幕開けとなる。おふたりは勝ちを目指すでしょうが、私はその必要はない。
私の目的はあくまで時間を稼ぐこと。
そう、時を稼いで大人になって戸籍の不実記載の証拠を暴き、優ちゃんとの日々を手に入れる。
それには持久戦に耐えうるだけの経済力と、不実記載を暴く裁判費用が必要。
だけど、たぶんそれはツヴァイスターコーヒーでバイトしてるだけでは難しいと思う。
そこで、これだ。
私は未来へのプラチナチケットを手に入れた!
そうこの『セントラルライブ』6期生合格通知!
私は現役高校生Vチューバーとしてがっぽり稼いで優ちゃんとのスイートな未来をこの手に!
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