第32話 実用的なモノ。

 ◇兄さん目線◇

「歩さぁ、泊まるのはいいけど、せめて風呂入ったら。1日働いてきたんだろ、疲れ取れないぞ」

「ん~~じゃあさ優も入ろうよ、昔みたいにさぁ〜〜」

「兄さん、歩さんと――お風呂入る関係なんですか! それ電気つけて入ったりなんですか⁉」

 電気つけたかつけてないか、今関係ある?


「いや、3歳か4歳の話。そんな昔のことでヤンデレ出されても正直困る。歩、お前パンツとかあるのか?」

 日に何度もヤンデレされると体力が持たない。

 来栖・ショコランティーナのプロフや切り抜き動画を見た。どうやら彼女がしてるのはビジネス・ヤンデレのようだ。

 配信用と考えていいんじゃないだろうか。それなら多少の受け流しも有りだと考えられる。


「パンツ? あるよ〜〜はいてる〜〜脱ごうか? 生パンだよ、生パン! 店長の生パン一丁、喜んで‼ なんちゃって(笑)」

 ダメだ。

 完全に酔ってる。

 それにしてもどうしろというのショコさん、その冷ややかな視線やめてもらっていいですか?


「ショコ、悪いけど歩の風呂たのむ」

「えっ、嫌ですよ普通に。って兄さんどこ行くんです?」

「コンビニ! ダッシュで下着とか買ってくる! それともお前が嫌なら俺が風呂入れようか。そんなことしたらお前ヤンデるだろ? だからたのむね。頼れるのはお前だけなんだから。脱衣所の外にいるだけでいいから」

「頼れ……はい!」


 そう言い残すと俺はダッシュでコンビニまで行って、俺は心を無にして女性下着を買い、ついでに歯ブラシとかのトラベルセットを和正くんの分も買った。

 それとなんかわからないけど、化粧水とか洗顔料みたいなのも思い返してカゴに投げ込んだ。

 あとリップみたいなのも。手ぶらで来たんだ、どんなもんでも文句はないだろ。レジの女性店員さんの微妙な視線。俺用だと思ってるのか? 

 言い訳しても始まらない。しばらくはこのコンビニ来れないか。


「優だ〜〜私のおパンツ買ってくれたの? 下着のお世話までしてもらって、もうこれ実質夫婦だよぉ、そこのかわい子ちゃんもそう思うれしょ? あっ、他にもいっぱい〜〜」

「思いません。っていうかパンツМですけど、歩さんはけますか。入りますか? なんなら私いろんな意味でМですけど」

「いろんな意味って(笑)Мかぁ〜多少血が止まるかもだけど、久しぶりの再会で鼓動がずきゅんどきゅんだから大丈ブイ〜〜なによ〜〜つれないなぁ〜〜まぁ、いいや。どれどれ優が私にはいて欲しい感じのおパンツは〜〜黒だ! えろ〜〜優ったらえっろ〜〜(笑)」


「兄さん! 黒はかせたいんですね! 黒のおパンツはいた歩さんみたいんですね」

 なにこの人たち。

 めちゃくちゃめんどくさいんだけど。

 それが棚の一番手前にあったの。どうせピンク買っても白かっても同じでしょ。まったく、そんな三白眼で詰められても困りますって。

 何にしてもひと息つきたい。俺は居間のソファーにドサリと腰掛けた。このまま寝てしまいたいが、世の中そんなに甘くはない。

 含み笑いをした歩がゆらゆらと戻ってきた。

「優〜〜ふたりの再会を祝してぇ、渡したいものがあるのぉ」

「なんですか歩さん、どうせ『わ・た・し』みたいなベタなやつてしょ、兄さん引っかかったらダメですよ」

「ふふっ、それは違うわ、かわい子ちゃん。大人の女はもっとなものをあげるの」

「実用的なものってなんですか、現金ですか?」

「チミ〜〜夢がないね、夢が! 男子の夢といえばそれはね、私のおパンツ! 優、昔みたいに使っていいよ(笑)」

「おい、根も葉もないこと言うな。風評被害が広がるだろ」

「つ、使うですか⁉ に、兄さん! な、な、なにに使おうとしてますか!? 使用済みのおパンツ……まさか(震え声)」

「んなわけないだろ」

「と、とにかくですね、そんな危険物は没収します! って、これハンドタオルじゃないですか!」

 キレるショコと大爆笑の歩。

 お前らこんな時間に元気なのな。

 差し迫った問題がある。もう深夜で明日は仕事。さっさと寝たい。あとは寝床だ。

「当初の予定通りショコは俺の部屋。和正くんと寝てくれ」

「えぇ〜〜異議あり!」

「認めません。普通に考えて、和正くんが歩と寝るルートはないだろ。兄妹なんだから我慢しなさい。この状況だったらきっと芽依ちゃんも我慢して俺と寝てくれるだろうし」

「我慢って本気で言ってるんだ、兄さん」

「だよね! 優さぁ昔から芽依の気持ちに鈍感なんだよ」

 芽依ちゃん気持ちに鈍感……

 えぇ……芽依ちゃんのこの状況でも俺と寝るの嫌なの? 

 思春期だもんなぁ……聞いてみようかなぁ……いや直接聞いて嫌がられたらへこむし、それはよそう。

 それより問題は歩だ。現状寝れる部屋となると俺の部屋か居間しかない。

 しかし、居間にはソファーがひとつ。あとは地べたか。

 地べたよりマシだろ。

「歩はこのソファーを使ってくれ。俺は自分の部屋から椅子持ってきて椅子で寝る」

「えっ、兄さん。歩さんと同じ部屋で?」

「いや、歩は女だし酔ってるし間違って和正くんの隣に潜り込んだらマズイだろ。見張りを兼ねて」

「見張り? 優ったら私のどこを見張るの? あんなとこやこ〜んな――あ、痛い!」

 ナニ両手で持ち上げてんだ! めんどくさいのでゲンコツを落とした。

 痛くないだろ、むしろこっちが痛いわ。相変わらずの石頭が。

「とにかく! 異論は受け付けません! この決定が嫌なら今すぐタクシー呼んで各自自宅に帰るように。わかってると思うけど、俺今日仕事な?」

「「ひぃ〜〜!」」

 最後の部分ドスを効かせた。

 もう日付が変わってる。朝には仕事だ。はっきり言ってどうでもいいことで、これ以上長引かせたくない。

 それに歩は酒を飲んだらすぐ寝てしまう。いや、ホント言うと久しぶりだから少しくらい話をしたいが、ここに住むっていうのが本気なら焦ることはない。

 今は寝よう。

 じゃないとくそパワフルな後輩をあしらう自信がない。






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