第28話 バイタル安定してます。
◇兄さん目線◇
「なにやってんの、あんたたち。また喧嘩? お兄ちゃんなんだからやめてよね、この年になって妹泣かさないでよ」
俺とショコのお父さんは一足先にリビングに戻っていた。そこにしばらくしてふたりが階段から降りてきた。
「もう、お母さん。子供じゃないんだから喧嘩なんてしてないよねぇ〜〜お兄ちゃん」
「ん、まぁそうだな」
「なにモゴモゴ言って照れちゃって〜〜優さん、お兄ちゃんがね、仕事のこと聞きたいんだって〜〜」
「おまっ、そういうことは自分で」
「えぇ〜〜言えるの? 言っとくけどお兄ちゃんコミュ力この家でお父さんの次にないんだからねぇ〜〜」
ホントに仲が悪かったのだろうか。
それって、家出が原因で心配で和正くんが怒ってただけじゃ……そうなると、俺にも落ち度があるような……
「あの、教えるの下手だし、役に立つか疑問だけど」
「いえ、そんな! アネモスシステムで主任エンジニアだなんて、ほんと雲の上の人っていうか」
「いや、そうでもないよ。あのセキュリティに引っかからない専門性の低いことなら、少しくらいは」
「いや、十分です! お兄さん!」
「いや、お兄ちゃん。優さんのお兄さん呼びやめてもらっていいですか? 私だって普段は『兄さん』って呼んでるんだから、ややこしいでしょ」
「じゃあ、優さん!」
「待てやコラー! 下の名前私だって実質今日からなんだからね? お兄ちゃんは『立花さん』でいいでしょ?」
「いや、それじゃあ距離感じるだろ?」
「待って! 待ってください。なに、妹差し置いて距離詰めようとしてるかなぁ、訳わかんない。優兄さんは私んだからね、ねぇ〜〜優兄さん」
優兄さんか。
まさかショコの口から『私んだからね』って言われるとは思わなかった。なんだかくすぐったい。
「はいはい、はしゃがないの。お寿司取ったから、お昼にしましょうね」
知らない間にお母さんがお寿司を取ってくれた。ショコも積極的にお父さんに話し掛け、お父さんもそれに答えた。
「お母さん、ビールでも飲もうかな」
「お父さん珍しいわね、和正も飲む? 立花さんは車だから駄目よね」
「はい」
「いや、オレもやめとく。彩羽、お前荷物どうすんだ? 運ぶんだろ」
「荷物は運ばないとだけど、もしかしてお兄ちゃんも手伝ってくれるの?」
「お前のコスプレ以外ならな」
「うわっ! それ言わないで! まだ言ってないの! 内緒なのに! シーッよ! シーッ!」
ふたりが2階にいる間、俺は娘を持つ親御さんの心配を少しでも和らげようと、部屋の配置とかを説明していた。
和正くんも心配だろうから同じことになるけど、話すことにした。
***
「一軒家なんですか?」
「うん、古いんだけどね。祖母から貰い受けたっていうか」
「水回りとかちゃんとリフォームしてんだよ、すごくない?」
「それってもしかして……」
「そう! 古民家! お好きでしょ、お兄ちゃん」
なぜか得意げ。
和正くんも乗り気なところを見ると好きなんだろう。
「兄妹揃って好きなんだ、へぇ〜そういうのっていいね」
「見たい? 見たいよね、お兄ちゃん?」
「いや、それはえっと……立花さんに迷惑だし」
「僕は別にいいよ。どうせなら見てもらった方がいいかなぁって。ショ……彩羽さんにも見せてないんだけど、離れがあって。いつもは使ってなくて掃除しないとだけど、四畳半がある。カギも付けようとその方が安心かなぁって」
「えっと、俺は立花さんなら大丈夫なんだけど、ふたりはいいの?」
「立花さんからね、彩羽がお母さんのこと気にしてるって聞いてね。ちょっとね、びっくりしちゃった」
「彩羽がお母さんの?」
「えっとね、お母さん不眠症なんだってね。いま聞いたら看護師さんで夜勤もあるんだろ? 彩羽さん気にしてるんだけど、配信はね。防音室とかじゃないとどうしても無理でしょ。音漏れちゃうだろうし。うちの離れ、ちょうどいいかなぁって。近所とは少し距離あるし。太鼓でも叩かない限り苦情は出ないと思う」
「お前それで急にあれなのか?」
「うん。いや。まぁ……お兄ちゃんに言われた時はね腹立ったんだけど、お母さんの仕事って人の命預かるじゃない。寝不足とかダメなんて、考えなくてもわかることなのに。でも、私の配信もやっぱり声出るし、配信夜ばっかじゃなくて、朝配信もしたいし。待っててくれてるリスナーさんもいるし。賃貸も考えたんだけど、先立つものもないし配信者って言った途端断られるし……優さんいいって言ってくれて。甘えだって言われたら甘えだと思う。でも、優さんにだけは甘えたい自分がいて。私たちまだ全然そういうんじゃないんだけど、傍にいていいよって言ってくれてる言葉に甘えたい」
そう言ってショコは小さな声で「いいかなぁ」って聞いてきた。
目の淵には薄っすら涙が浮かんでいた。俺は最初からそのつもりだったから、笑って頷いた。
ショコの家族は納得してくれたようだけど、その信頼に背かないようにしないと。
***
「ところで、彩羽は立花さんのどんなところがよかったの?」
お父さんのビールを少し飲んだお母さんがショコにたずねる。ちょっと酔ってるみたいだ。
「どこって、どこもよ。全部。優しいし、傍にいて安心できるし。確かに助けて貰ったって部分もあるよ。大事な配信すっぽかさないで済んだし、でもそれだけじゃないし、逆に助けてもらったからって、好きになったんじゃない」
「いや、ノロケはいいから肝心なとこだけ言いなさい。あなた配信者でしょ?」
「いや、聞いときながら? 別にいいけど、そうね~~やっぱし、アレかな。兄さん、あっ普段は優さんのこと兄さんって呼んでるんだ。その兄さんだけかな、私の作った料理をバカにしないで食べてくれたの」
カタッ……お父さんとお母さんの手からグラスが滑り落ち、和正くんは箸を落とした。そして突然慌ただしくなった。
「彩羽! それ、いつ⁉ どれくらい誤飲したの⁉」
「誤飲ってなに? いや、普通に食べてくれただけだけど? きのうのお昼くらいかなぁ~~カレー皿に」
「す、スプーンひとすくいくらい?」
「いや、なんでスプーンなの? 普通にカレー皿に一杯だよね、優兄さん〜〜」
「えっと、はい。美味しかったですよ」
「「「美味しかった……⁉」」」
「立花さん、ちょっと脈取りますね……体温……呼吸……脈も正常。おかしいわね、安定してるわ。和正、ライト……瞳孔も伸縮してる……」
「いや、お母さん! なんでそんなの診る必要あるの? おかしいでしょ! いや、私の料理食べただけだから!」
「それが問題なの! 美味しかったって……彩羽、あなたまさか神経系のなにか入れたの? お父さん、私のスマホ取って、えっと……今日病院、先生誰出てたっけ……今からでも胃の洗浄して間に合うかしら……」
残念ながら、ショコはそこからぷっくりと
まぁ、そうなるよな。しかしフォローのためか、わからないがお母さんが放った最後の一言でショコはガン拗ねした。
「つまり、立花さんは彩羽の料理を受け入れてくれるほど、心広いのね。お母さん安心」と。
ぷぅく~~~~~~~~ッ‼
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