第24話 答えははっきりしてる。
◇兄さん目線◇
朝の7時。
ショコの家族との約束が10時。
移動時間を考えるとそろそろ準備に取り掛からないと。
なのに、物音ひとつしない。俺は居間のソファーで。ショコは俺の部屋のベットを使っていた。女の子は準備に時間が掛かるって聞く。
10分待ってドアをノックしたがまるで反応はない。
考えられることは、ひとつしかない。寝てる。
もしかしたら約束を忘れてるまである。仕方ないドアを開いて中を見てみる。自分の部屋とは思えないいい匂いがする。
朝日が差し込み部屋の中は明るい。自分の部屋だからもちろんベットの場所はわかる。わかるが……そこには生足。
そしてショコの部屋着はなんていうのかロングトレーナーとでも言おうか、膝近くまである。見たわけじゃないから確証はもてないが、ショートパンツみたいなのは履いてないだろう。
つまりロングトレーナーの下はたぶん下着――から見上げるとたわわ……こほん。
いや、考えてみたらワンピースだって、下にショートパンツを履くわけじゃないからそう変わらないと言えなくもないが……
上はたわわだし、下は生足。しかもけしからんことに、めくれてる感じなのだ。朝日が差し込んで部屋は明るいが、めくれ上がったロングトレーナーがどこまでめくれてるかを確認するには、暗い。
あの……もう少し朝日さん、がんばってもらっていいですか? 紳士ぶってますがえっちな事故はウエルカムなんで。
男子たるもの、ここは目を凝らすだろう。例えそれがドアの外からとはいえ、手の届かないところからとはいえ、室内がそこまで明るくないとしてもだ!
そして今まさにそのロングトレーナーがめくれ上がってる状態は目視確認出来ている。現状――幸か不幸か見えるようで見えない場所でロングトレーナーはギリギリ頑張っていた。願うことはひとつ。
ショコランティーナさん。寝返りお願いします!
――とはいえ、この先ひとつ屋根の下で一緒に生活することになる。ニヤミスはある! 今はそう、
なぜなら――約束がある。ショコの家族との約束。なんで明日じゃないんだ……しかし仕方ない。今日の約束は挨拶を兼ねている。
遅刻とかマジであり得ない。なので起こすしかない。
ワンチャン――起こす時に、ショコ先輩が寝返りしてロングトレーナーがめくれて、ショコ先輩のショコ先輩な部分が
かの名作も言っている『諦めたら――そこでゲームセット』だと……だから俺はギリギリまで最善を尽くす。それが例えパンツチラリのためだったとしてもだ‼ いや、違うぞ、パンツチラリだからこそだ!
ふふ、笑いたければ笑えばいい。
だが誰が俺を罪に問うことが出来るだろう。男子たるもの、いついかなる時も最善を尽くすものじゃないのか? それが例えパンツチラリだとしても‼
本当に大事なので2回言いました。俺の思いが君たちに届くことを切に祈る。
よし、ミッション開始だ――
最初はドアの外から呼び掛けたが、まったくの無反応。
しかもすぅすぅと寝息を立てている。つまり寝てる。声を大きくしたり、わざと物音を立てたりするがまったく効果はない。
ないどころか寝返りをうって、さらにロングトレーナーが際どくなった。どーしよー起きて欲しいだけなのに、寝返りうっちゃった……これは不可抗力だ~~(棒読み)
シーン……
寝返りもそこそこ。しかも約束の時間が迫る。このケースが一番困る。退くに退けない。決断の時なのか。一歩、踏み出す時が来たのか……俺は出来る限り小声で「お邪魔します」と言って室内に足を踏み入れた。
ただでさえショコ先輩とご家族は今険悪な状態。先輩を思うと室内に入って至近距離から
肩を揺り動かすが、ちょっと揺すったくらいじゃ起きる感じも、寝返りうつ感じもない。揺らし方が甘いか? こんな甘い揺らしでは寝返りからのパンツチラリは見込めないのか? 再度肩を揺らしてわかった。揺らす度にショコ先輩のたわわも揺れることに――俺は気付いた。
そして俺の中に迷いが生じた。そう……寝返りを狙いパンツチラリなのか、肩を揺らす度に揺れる彼女のたわわ。どちらを望むのか、迷いが生じた。そして頭を抱える俺に一筋の光が讃美歌と共に舞い降りた。それは――そう……
「あっ、兄さんだ。
この感触――まさか、ショコ先輩、お前ってヤツは……ブラしてないのか⁉
我が人生に悔いなし‼
****
寝ぼけてる。完全に寝ぼけてる。俺はいきなりショコに抱きつかれ、布団に巻き込まれた。巻き込まれた俺をショコはローリングしながら抱きつく。いや、ごめん、ここまで直接的なのは、ちょっとなんです俺。男子たるものチラリズムからお近づきになりたいわけで、聞いてます? 聞いてないか。
「兄さん〜もう我慢
「ショコ先輩! 大丈夫じゃないれす! 夢じゃないれす〜~ドンタッチミーでお願いします‼」
「ん? 夢じゃ……ない? はぁ〜〜⁉」
ようやく、目を覚ましたショコは布団を抱えて後ろに跳ねた。
そして顔を真っ赤に染めて言った。
「兄さんのえっち」
バレた。
***
「だから、謝っただろ。起こさないと約束遅れるし」
「電話してくれたらいいじゃないですか!」
「いや、知らないから」
「電話番号聞いてくれないじゃないですか!」
「いや、そこもいま怒られるの?」
「寝起き見られるの嫌なんです! 変な顔してたでしょ? ちなみにここで『うん』って答えたら命の保証は
致しかねるのか。
その時不意に
「かわいいと思う、そのお世辞とかじゃなくって、健康的で」
「えっ、ホントに? 兄貴は寝起きブスって」
「照れてんだろ?」
「妹相手に? ないない! あっ、でも兄さんのは」
「これ以上は朝からツラい。居間にいるから起きておいで」
ショコはクシャっと笑い、いい返事。
見たか、俺の必殺『褒め殺し!』まんまと悪だくみがバレずに居間に逃走できた。
後ろ手に手を振る視界の隅にセーラー服が掛けられてあった。
これを着て帰るのか。朝から服屋はたぶん開いてない。セーラー服姿の女子と挨拶に行くわけか。なかなか斬新な絵だ。
***
「基本情報いりますか?」
朝食を終えてコーヒーに手を伸ばしたショコがそんなことを聞いてきた。
「基本情報って?」
「えっ、待って! このコーヒー美味しい……兄さんが
そう言いながらコーヒーカップ越しに俺を見た。
俺は少し自慢げに種明かしをする。
「実は近所のカフェで休日に講習会みたいなのがあるんだ」
「講習会? コーヒー淹れ方講座みたいな?」
「まぁ、そういうこと。それに参加して教えてもらった。カフェの定休日だから平日で、有給休暇取って参加したはいいけど、主婦の方が多くて」
まぁ、考えたらわかりそうなもんだ。
「兄さんってコーヒー好きなんだ」
好きなんだと聞かれると少し小首を傾げたくなる。それを見てショコも首を傾げるから答えた。
「いや、実は苦いのは苦手なんだ。じゃあなんでわざわざ有給取っまでってなるよなぁ〜」
「美人の店主さんとか?」
「初老のご夫婦で経営してる。店員さんは若いけど、その日は休日だからね、いないよ」
「じゃあ、まさかの講習会に来た人妻狙い⁉ やめといたら? 刺されるわよ(笑)」
笑いながらなので、本気で言ってるわけではないが、苦いのが苦手な上に誰かと会うのが目的じゃないとすると、我ながらなんなんだろう。
自問する必要もない。答えはアイツ絡みなんだ。
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