第22話 初配信で初降臨⁉

 □◇初配信◇□

「はじめまして、えっと来栖・レッサー・アントニウスと申します。この度Vチューバー事務所『セントラルライブ』5.5期生としてデビューすることになりました。デビューにあたり、たいへん多くの方からチャンネル登録を頂き、ありがとうございます。その……すごく心強いです。いたらないところが多いとは思いますが、よろしくお願いします。えっと、ちなみに保護者系Vチューバーという立ち位置になります。妹のショコランティーナ共々よろしくお願いします!」


 ひとまず、ショコから貰ったお題の挨拶はなんとかクリア出来た。

 いや、実のところこれ以外まったく何も準備してない。モニターに映るデジタル時計。まだ3分と過ぎてない。ショコはよく3時間も話せる。

 何かコツはあるのかと聞いてみたが、少し考えてその週のテーマを決めるとのこと。

 今週のテーマ『夏について』とかだけ。

 つまり夏についてその週はひたすら話してるのだろう。夏ってそんなに話題豊富なのだろうか。

 おっと、あんまり黙ってると放送事故とかになんないだろうか。

 ならなくても装置トラブルとか心配されそうだ。こんな時は……そう、チャットのコメントを拾い上げるって言ってた。

(リスナー1)『こんばんは、兄上。さっそくですが皇女さまとのご関係を教えてください』

「コメントありがとうございます。えっと、ショコランティーナとの関係は兄妹です。正確にはショコは正妻の子で自分は先妻の連れ子ということになります。まぁ、お察しの通り血の繋がりはありません。あと、年が離れているので一緒に暮らしたことがないです。こんな感じです」


(リスナー2)『一緒に住むことになったと聞きましたが、それはどうしてですか?』

「えっとですね、その……ショコがその……配信してるじゃないですか。その……ショコの実のって言い方は変なんですけど、同じお母さんから生まれた兄がいるんですけど、ショコの配信がうるさくて、ちょっとふたりの関係がギクシャクでして、この度追い出されたと、こんな感じです。一緒に住むことになったのはショコの行き場がなくって、消去法的に僕の所に来たわけです」


(リスナー3)『兄上は僕呼びなんですか?』

「いや、実は普段は俺です。えっと今は配信なんです外面ですね、仕事中は私だったりします。その辺は大人なんで(笑)」


 思ったより順調だ。それもリスナーさんのチャットのおかげだ。なんかすごくありがたい。そんな中、リスナーという表示以外でチャットが何件か届いた。


たまき)『新人、焼きそばパン買ってこいや〜〜』

乃愛ノア)『こっちはアンパンと牛乳〜〜』

(ユウワ)『あと私ぃ肩こったんだけど、今から揉みに来て〜(笑)』

 明らかに他とは違う。

 しかも名前だし、文字色も違う。

 一見して一般のリスナーさんとは違うように思えたので、そばにいるショコの顔を見る。


 さっきまではにこやかな顔をしていたが、表情が固まる。

 んん、普通の反応じゃない。嫌、明らかに怒っている。

 そして一般のリスナーさんからのチャットも慌ただしくなってきた。

(リスナー4)『荒らしだ〜〜』

(リスナー5)『荒らし3人組だ! 兄上逃げて〜〜』

(リスナー6)『ほんと、マジで運営、コイツらどうにかしろよ〜〜』

 などなど。


 なるほど、なんとなくこの3人がどういう存在かわかった。

 どうしようか、考えているうちにショコがすかさず、口を開いた。

「どうもどうも、皆さん〜来栖・ショコランティーナです! いや、兄さんの初配信に来て頂き、ありがとうございます! な、な、なんと皆さんのお陰で、初配信ながら同接五千人! 感謝、感謝〜〜この数字はじゃ無理な数字です! やっぱ、アレかな? 溢れ出る人柄ってヤツではないでしょうか?」

 明るい声だが完全にあおってる。

 ショコって意外に喧嘩上等なのか。

(環)『ショコランティーナ先輩、兄さんってどういうこと? あと、同接五千って盛ってません?(笑)』

(乃愛)『同棲なんて聞いてませんよ! そんなの!』

(ユウワ)『私というものがありながら、そんな血の繋がってない兄貴と暮らすの?(泣)』

 やっぱり、ショコと同じセントラルライブのキャストさんのようだ。

 ショコが出来るだけ穏便(?)に退かせようとするが、そんな簡単にはいかない。

 3人のうざ絡みに次第にチャットが荒れだす。

 俺に対してというより、3人に対してだ。なんとなくセンキャスだとはわかるが、どんな相手か分からない。


 わからないので口出しがしにくい。初配信でこのトラブル。

 対処出来ないうちに刻々と時間が過ぎていく。そんな中、モニターの右端に点滅するアプリが目に入った。

 マネージャーさんから教えてもらっていた『フレンドリー・コード』というものだ。通称『フレコー』はセンキャス同士連絡を取り合うように開発されたアプリなんだけど、名前を見ても全然分からない。勉強不足が露呈ろていした。


 メッセージを開くと『音声だけでいいから、出演させてください』と。

 メッセージには操作方法が書かれていて、その通りにした。ショコはそのことには気付かず、3人の相手をしている。

『あぁ~どうもです。あなたが来栖のですか? いつもお世話になってます。私、吉祥寺きちじょうじアリスいいます。よろしくお願いします』


「あっ、えっと……妹がお世話になってます! 吉祥寺さん、こちらこそよろしくお願いします!」

 吉祥寺アリスさん――誰⁉

 このやり取りを見てショコは耳元で「マジ?」と聞いたから、さっきの点滅したアプリ『フレンドリー・コード』にマウスを合わせ先程のメッセージを読み「あぁ……終わった」とこぼした。


(環)『うそ? いやなりすましでしょ』

(乃愛)『なりすまし、邪魔なんですけど〜』

(ユウワ)『変な関西弁(笑) 全然アリス先輩に似てねぇし〜〜(笑)』

 少しの沈黙。

 そして、地の底から響くような声で、その人物は話した。

『あんたらさぁ、うちの声忘れたんか? え? おもろそうな話してるやん、うちも混ぜてぇや(怒)』

 ここまで来ると、3人組はその人物が特定出来たみたいだ。


(環)『もしかして、マジアリス先輩⁉』

(乃愛)『吉祥寺先輩、ちーす』

(ユウワ)『ははっ、アリス先輩がなんで??』

 3人組だけではなく、一般のリスナーさんもざわついた。

『伝説の1期生降臨!』とか

『アリスたんがまさかのトツ⁉』

『我々は歴史の舞台を見ている!』などなど。


 そうなんだ、吉祥寺さんって1期生なんだ。最古参ということか。

『あっ、来栖のおにいやん。吉祥寺さんとか堅苦しいですわ。アリスでいいです、アリスで。代わりにお兄やん呼びしますけど〜〜』

「それは全然ですけど……せめてアリスさんでいいですか? その、呼び捨て慣れてなくって〜」

『えぇ〜っ、残念。でもゆくゆくは呼び捨てでええからね、っと。それはそれと、お前ら3人組って何期生やったっけ?』

『『『4期生です!!!』』』

「ほぉ、。来栖はよなぁ?』


「はい、アリス先輩」

『4期生が2期生にエライ口の聞き方すんねんなぁ~~なに? センキャスも今そんなんなん? ウチの許可取ったんかなぁ~~まぁ、ええわ。お兄やんの初配信やし、大目に見たる。とはいうものの――環、お前そんな焼きそばパン好きなん? 今度息出来んくらい口にねじ込んだるわ。乃愛、お前もアンパン口に押し込んで鼻から牛乳な? あとユウワ、そんな肩こるんやったら、今からうちにおいで。うち肩もみうまいねん、に治したるから。あっ、長居ながいしてごめんな、お兄やん。今度来栖と3人でコラボ配信しようや、あとこれうちからのご祝儀な、ちゃんとご祝儀せぇや〜〜ええな?」

『『『はい……』』』

 そう言ってアリスさんは赤スパの最高額5万円ものご祝儀としてくれた。圧に負けた3人も同じく……なんか、逆にごめんなさい。


 そしてこの日『アリス先輩降臨』がトレンド入りした。












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