第21話 大丈夫、すべる時はすべる!

 ◇ショコランティーナ目線◇

「ショコさん? あの配信しませんか? こういうの早い方がいいって言ったのお前だろ?」

だって〜〜もう自分の女扱いですか? まぁ、心の広い私的には全然やぶさかでないんですけど〜〜」

 どうしましょ、私ったらって言われました! 

 考えてみたら女子校一筋のわたくし、これ初告白なんですが。

 うかれポンチになっちゃいそうで怖い。いきなりイジりをしたりで、なんか楽しい。やぶさかの使い方が正しいか微妙だけど、そんなの関係ない!


「あとね、うれしいんだけど、あんまり慣れてないんだ。こういうの。そのに座られるのとか」

「兄さん。今なんて言いました? って言いましたよね、兄さん。あんまりってどういう意味かご存知ですか? って意味なんです。全然じゃないです。全然ならゼロ。でも、あんまりって言葉は少しはあるって意味なんですよ、わかります? この言葉が意味するところ」


「ショコさん?」

「怖いですか? 焦ってますよね? 焦る理由あるんですか? あっ、言ってませんでしたっけ? 私のもうひとつの通り名『ヤンデレ皇女』なんです。酷くないですか? うちのリスナーさん、リスナー名『民草』って言うんですけど、他の女の配信者のメンバーになったりするんですよ、それって浮気ですよね? 浮気確定。他の女のメンバーになってて、それを問い詰めたらヤンデレ皇女だなんて、酷いですよホントに。でも、いいの。民草は。でも、兄さんはさっき面と向かって『好き』っていいましたよね? だから、兄さんはダメ。それで誰なんですか、その兄さんの膝に乗せた女って」


 ヤバいヤバい。

 配信ではキャラ付けのためにヤンデレしてるのに、いつの間にかしっかり板についてる。

 でも、兄さんを好きな気持ちは本物だし、別にいいよね。相思相愛ってやつでしょ? それならぜ〜~んぶ知ってもらわないと。たとえそれが痛みを伴うヤンデレだったとしても。


「いや、昔の話なんだけど」

「昔ですか? どれくらい昔ですか?」

「5年くらい」

「5年って昔ですか? 刑事事件の時効ってそんなに短いですか? 因みに私としてはになります」

「いとこだよ、しかも小学生の」

「小学生? 当時6年生ならもう今は高校生じゃないですか。あの、兄さん。根本的な誤解してませんか? いとこってよ。私にとって膝に乗って浮気じゃないのって、2親等までなんですよ〜~あと、猫ちゃん」


 あぁ、止まらない。

 キャラ付けで始めたヤンデレなのに。なんだろ、気持ちいい。

 なに、この爽快感。どうしよう、兄さんのその首に噛みつきたい。耳元で「血吸ちーすー

たろか?」って言いたい。でも、あんまり怖がらせたら可哀想。ここは落とし所を作らないと嫌われちゃいますね。うん。

「もうしない?」

「しないよ、親戚だから会わないってのは無理あるけど」

「いいですよ。膝にさえ座らせなければ、会っても。因みにそのいとこさんは今おいくつです?」


「えっと、中2かな?」

中2チューニガールですか。変に期待させて誤解させないでくださいよ」

「わかった」

 かわいい〜リアルで初めてヤンデレスイッチ入ったわぁ~なんか楽しい。

 これからちょいちょい入れようかなぁ~まあ、そんなことは置いといて。兄さんのチャンネルの記念すべき初配信。

 本来ならスタッフさん含めて入念に計画を組むんだけど、鉄は熱いうちに打てって言うし。せっかく登録してくれたリスナーさんが離れないうちに挨拶がてらの初配信はアリだと思う。


「あの、相談なんだけど」

「なんでもど〜~ぞ! こう見えて大先輩なんですから」

「それは頼もしいんだけど、なに話したらいいの? けっこう頭真っ白なんだけど」

 それもそうか。

 どうだったかなぁ、私の時。昔すぎて覚えてない。

 確かお題みたいなのを用意したと思う。思うんだけど、お題どおりやろうとしてテンパった記憶がある。お題はあると助かるけど、そればっかに頼ったらお題をこなすことに気がいくしなぁ~よし。


「ひとまず挨拶しましょう。なんでもいいですよ、はじめましてとか、こんにちはとか、よろしくお願いしますとか。たぶんこれだけ注目されてるとチャットがけっこう入りますから、それに答える感じでいいと思います。チャット初めてだと流れるの速く感じるから読めないのは読めないでいいと思います。けど、スパチャのコメは拾うようにしてください。特に赤スパは。私の時はお題を考えてもらいましたけど、チャットとお題こなすので、初配信ボロボロになりましたから、お題は挨拶だけ。あとはリスナーさんの求めるものに応じる感じでオッケーです、大丈夫そばにいますから! この先ずーとずーと(笑)」

 顔が青い。なんの慰めにもならないか。

 そりゃそうだよな。目指してなかったVチューバーにいきなりなって、しかも変な方向に話題性盛られて、登録者数5万人スタートなんて、私でも手が震える。

 なのに兄さんは気丈にこんな事を言ってくれた。

「ショコがそばにいてくれるだけで安心だ、ありがとう」

「兄さん……難しく考えないで大きな声でひとりごと言ってると思ってください! 絶対のぜった〜~いに大丈夫ですから!」

 ノリで兄さんの膝の上に乗っていた私の頭を優しく撫でる兄さんの表情が変わった。


 真剣な眼差しで呼吸を整える。

 あっ……凄い。プロの眼差しだ。この一瞬で切り替えたんだ。もしかして、兄さんって素質あるんじゃないだろうか。

 私は兄さんに聞こえないようにそっと生つばを飲んだ。ここまでの決心があるなら、逆に大々的に告知すべきでは? 

 そう思った私はマネちゃんに連絡をし、初配信をする相談をした。マネちゃん権限でセントラルライブのSNS公式アカウントから初配信の告知をしてくれた。


 私の公式アカウントからも同じく告知をし、少し考えたがこの際だから巻き込んでやろうと、さざ波ママに連絡をし、告知の協力を取り付けた。

 もちろん、出来たばかりの兄さんのアカウントからも告知した。

 決戦は17時。


 幸いにも今日その時間帯にセントラルキャストの配信は被ってない。

 言葉には出せないけど、これでスベったら中々のトラウマものになるかも。だ、大丈夫! 私が付いてる! いや、私がスベったらどうする⁉









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