第19話 お兄チャンネル。

 ◇ショコランティーナ目線◇

「兄さん聞いてましたか?」

「聞いてません……」

 私達は兄妹で――血の繋がらない系兄妹という設定だけど。あまりのことに、敬語で話をしていた。

「あっ、おめでとうございます。チャンネル登録者数3万人突破。その……これってもの凄く、すごいことですから。私3万人突破に半年掛かりました。あと『セントラルライブ』のキャスト、おめでとうございます。自分で言うのもなんですけど『セントラルライブ』って大手ですよ、キャストになるのって相当狭き門ですよ?」

 言っておきながら、ズレてるなぁと思う。

 でも今はこの言葉しか思い浮かばない。


「ショコ。聞きたいんだけど『キャスト』ってなに?」

「『キャスト』ですか? えっと私みたいなセントラルライブ所属のVチューバーのことです。縮めてセンキャスとか言います」

 いや、この返しもおかしいのは理解してる。

 兄さんは『キャスト』の意味が知りたいんじゃなくって、なんで自分がセントラルライブのキャストになってるのかを、問いかけているのだ。

 ちなみに私にも全然わからない。知らされてない。だからといって、黙り込んでいい場面じゃないことはわかる。


「その……兄さん。嫌、ですか? ごめんなさい。嫌とか以前の話ですよね、私空気読めなくて」

 駄目だ。

 話しているうちに、励まそうとしてる自分がしょんぼりしてる。

 兄さんの立場になったらしょんぼりしてる場合じゃないのに。なのに、兄さんは不意に私の頭をポンポンとして、逆に慰めようとしてくれる。

「ショコが悪いんじゃないから」

 そう言って。

「だって」

 だってなんだっていうのだろう。

 私が巻き込んでしまったんだ。私が兄さんに石をぶつけたりしなければ、こんなことになってない。

 ひとりなら盛大にため息をついていただろうけど、それさえ心配を掛けてしまいそうだ。


「ほら、企画書出したのは俺だし」

「でも、企画書の意図が全然違うじゃないですか」

 兄さんが悪いわけじゃないのに、私の手は向かい合って座る兄さんの膝をポコポコ殴る。一応言うけど、軽くだよ、軽く。

 甘噛あまがみみたいなもんだからね、愛情表現よ愛情表現。

 あ……愛情⁉

 

 私は自分の思考暴走に固まる。それを知ってか知らずか兄さんは追い討ちを掛ける。

「でも。まぁ、あれだ。えっと……何ていうか、なし崩し的にいてくれる? なんて(笑)」

 びっくりした。

 兄さんがこんなこと言ってくれるとは思ってなかった。あぁ〜〜これが妄想世界なら抱きついてるんだけど。


「いて、いいの?」

 あっ、ダメって言われたらどうしよ、ここは「いますよ、当たり前じゃないですか、兄妹なんですよ! 兄さんひとりじゃ何にも出来ないじゃないですか!」とか妹的には少しばかり恩着せがましく振る舞うのも、妹道を極める者のたしなみのはず。

 言い直そうか、考えてると兄さんは恥ずかしそうに「うん」と頷いた。


 ぷぅ〜〜惚れてまうやろ、これ! 萌えだ、萌えポイントを贈呈しよう! 

 萌えポイント10ポイント貯まりますと、熱烈な私のハグ!

 ちなみに兄さんの現在の獲得ポイントは100万ポイント! 

 出会って2日目で殿堂入り! ハグし放題です! 略して『ハグ放』恥ずかしくていえませんが!


 まぁ、それはさて置き。

 そうなると――つまり、Vチューバーとしてセントラルライブでやっていくなら、それなりの手順を踏まないと。

 いや、やっていくかどうか。最終聞いてみよう。

「兄さん。そのセントラルキャストとして活動されるおつもりですか?」

「えっと、そのなんていうのかなぁ、目指してたわけじゃないから色々至らないと思うけど、これも何かの縁なので」


 どうしよ。かわいい。

 照れながら答えてくれる兄さんが、とてつもなくかわいい。

 妹の枠では収まらないこの感情。あえていうなら。兄さんを産みたい。兄さんの妹ではなくってお母さんになりたい。

 近づく女子共をこの世界から駆逐したい。そうだ、心のお母さんを目指すなら兄さんを立派なセントラルキャスト――通称『センキャス』に導かないと。


 よし、センチメンタルは封印して、やることやるぞ。

「兄さん。そうなると、マネちゃんが言ってたお兄さんのチャンネルに行きましょう。初動3万人の登録者さんにご挨拶しないとです」

 謝罪会見後なので、細々とした設定は別に大丈夫だ。

 サムネも簡単なモノでいいだろう。急いで作った感が出ていい。実際いきなり決まったことだし。準備してた感が出ないほうが断然いい。


 でも、アレだなぁ。せめてチャンネル名くらい決めておきたい。そういう愛称みたいなのは、すっごく重要。リスナー間の団結力が増す感じがする。

 そうなるとリスナー名も欲しいところだけど、これは追々でいいか。


「兄さん、初配信を前にチャンネル名どうしましょう。いま付けておいたほうが親しみがくと思うんです、リスナーさんに」

「なるほど。でも、いきなりは思いつかないよ。なんかない?」

「ふふふっ、そこで賢い私はひらめきました! こういうのはどうでしょう『保護者Vチューバー来栖くるす・レッサー・アントニウスのおにいチャンネル!』みたいなのは、ベタですけど、こういうのベタな方が愛されますよ」


 私はドヤ顔で提案した。

 そして嬉しいことに「ショコがそう言ってくれるなら」と提案を快諾かいだくしてくれた。よし、最低限だけど、整った。

 いざ、出陣じゃ〜〜と思いきや、私のスマホにコール。出鼻をくじかれた。しかもこの着信音……


「もしもし、どちらのですか?」

 言わずと知れたさざ波ママだ。おいおい、どの面さげて電話して来てんだ? カタにはめたろか?

『あらあら、まあまあ、そんな怖い声出さないの』

「はぁ? えらいことやらかしてくれて、ただで済むと思ってます?」

 地獄の淵から響くような声でドスを効かせた。だけど、ママはどこ吹く風で『とりあえず、スピーカーにしてよ』と要求。

 渋々スピーカーにすると、開口一番エライことを抜かした。


『お兄ちゃん〜〜ママでちゅよ〜〜』

「シネ!」

『あら、ショコショコ怖い! ほらあなたたちって同じママから生まれたんだから、ママ込みで仲よくしましょうね〜』

「あっと、さざ波先生。その勝手にアバター使っちゃって」

 いや、兄さん。そこ謝る必要ないです。そもそも、腐れママが勝手に生配信に巻き込んできたんだから。

『いいのよ~~お兄ちゃんは素直でちゅねぇ〜〜』

「あの、ママ。悪いんだけど赤ちゃん言葉やめてもらっていいですか」

『あら、怖い。お兄ちゃん大丈夫? 檄怖な妹ちゃんと暮らしたりして。まぁ、それは置いといて、お兄ちゃんにプレゼントがあるの』

「プレゼントですか?」

『そう! 配信用のサムネ数点。作ったから使ってね。あと小物の数々』

 うぅ、敵ながら準備いいなぁ。ここはありがたく受け取っておくか。さてさて、気を取り直して今度こそ兄さんの初陣だ。


 ***作者よりお願い***

 レビューが不足してます。

『楽しみ』みたいな簡単なレビューして頂けらばありがたいです。









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