第18話 諮ったな?

 □◇謝罪会見◇□

「えぇ……音量いいですか? こんなもんですか? ちょっと聞こえない? っと……はい。皆様お忙しいところお集まり頂き、ありがとうございます。わたくし、来栖くるす・ショコランティーナです。ご紹介します。こちらが例の――兄さんです」

 シャッター音が鳴り響く謝罪会見場。


 もちろん取材陣がいるわけではない。すべてバーチャル。わざとらしくカメラのフラッシュ音もバチバチと鳴る。

 そんな中ショコが口火を切った。うつむき、神妙な空気を出す。そして俺が自己紹介する流れ。


「はじめまして、わたくし来栖・レッサー・アントニウスと申します。来栖・ショコランティーナとは義理の兄妹。ショコランティーナは本妻の子。私は先妻の連れ子ということになります。その……現在、居城(実家)を追われたショコを保護しております、お見知りおきを」

 ざっくりとふたりの関係と現状を紹介した。


『えっと、お兄さんとお呼びしたらよろしいでしょうか、その……お聞きしにくいのですが、来栖・ショコランティーナさんとの直接の血縁関係はないようなのですが……』

 この質問も予定通り。

 マネージャーさんと相談した結果『血縁関係がない』という現実を全面的に出した方が面白いのでは? となった。

 同じ屋根の下で暮らすことになると思う。


 それならもしもの時の為に最初から『血繋がってないって言ったじゃない〜~』ってことにした方がいい。

 この場合の『いい』というのは『無難』だという意味だけじゃない。それならいっそ『血縁ないイジリ』をした方がウケるかもと思ったからだ。もちろんこれはエンタメ目線の話だ。Vチューバー的にウケると見た。

 いや、間違いなくウケるというのが3人の意見だ。


 そして、その内容込みで企画書が通った。つまりは会社全体として『このネタはウケる』と踏んでいる。そんなこともあり、マネージャーさんが冒頭でわざわざ触れた。


『えっと、先日の生配信の際にショコランティーナさん、実家を追い出されたと?』

「マネちゃん、居城ね? 忘れてるかもだけど、私こう見えてだからね?」

『これは失礼しました。その皇女さまと、ノートPCひとつ抱えて放おり出されたと? 控えめに言ってもダサっ!」

「言い方! いや、そうなんだけど、危うく生配信穴開けるところだったのを、兄さんに助けられたわけです」


『つまりは、わらをも掴むみたいな?』

「いや、マネちゃん言い方! 兄さん、藁じゃないからね!」

『これは失礼しました、たかが藁ごときじゃショコランティーナさん、沈みますよね、完全に! なんか重そうだし。いや沈んでる絵を見たい気すらありますよ』

 改めて思う。マネージャーさん。トークが想像を超えてキレッキレだ。元々なのかVチューバーさんに囲まれて仕事してたらこうなるのか。少なくとも本職のVチューバーに引けは取らない。

 いや、引けを取らないように努力してるのだろう。なんとなくでは、ここまでなれるもんじゃない。


『話がそれました、申し訳ありません。本日は謝罪会見ということなのですが、わたくし担当マネージャーをやっておりますが、くわしく聞かされておりません。ショコランティーナさん『お兄さんをさざ波小陽こはる先生に寝取られてごめんなさい』会見でよろしかったでしょうか?』

「いや、寝取られて謝るとか! それより兄さん、別に寝取られてないですよね?」


「えっ、俺? いや、なんか『ダンブレ』の救援隊の依頼受けただけで……」

「そうなんです! 皆さん聞いてください! あの――失礼。不本意ながら小陽ママはですね『ダンブレ』だかなんだか知らないけど、兄さんに救援隊を依頼しておきながら、勝手に生配信してたわけです、ひどくないですか? 兄さん、一般人なんですけど!」


『なるほど、なるほど。えっとですね、その件ですが』

「その件?」

『はい。先ほど我が社『セントラルライブ株式会社』代表CEOからこんな辞令が来てまして――』


「えっ⁉ 寝取られた上に私クビなんですか⁉ いや、寝取られてないですけどね、1ミリも!」

『あぁ……なんかめんどくさいですね、お兄さん。申し訳ないですが、妹さん。その……出来がちょっとな妹さん黙らせてください』

「わかりました」

「マネちゃん!『出来が』ってなに⁉ 兄さんもわからないで!」

 二人共白熱してる。誰がプロなのかわからないレベルだ。


『お兄さん、ホントに面倒なんでよろしくお願いします。えっとですね、私が代読します。辞令――来栖・レッサー・アントニウス殿。貴殿を我が社セントラルライブ『第5.5期生』として迎え入れることを決定しました! だそうです! 拍手〜〜パチパチパチ!』


 俺とショコはリアルに見つめ合った。

 いや、謝罪会見は? こんな話聞いてない。小声で(兄さん、聞いてました?)と聞かれる。もちろん(ショコも聞いてないの?)となる。生配信だからこの会話は配信に乗った。


 そしてそれが逆に兄妹のリアルを表現することになる。いや、俺たちは完全にフリーズしてただけなんだけど、それを見越していたマネージャーさんはどんどん情報を発信する。


『ちなみにですね、この『5.5期生』の『0.5』っていうのは、いわゆる中途採用ってことになります。付け加えますとこの中途採用枠は『セントラルキャスト』の中でお兄さんが初となります。後ですね、おふたりには内緒にしてましたが、な、な、なんと! もう既にお兄さんの公式チャンネル、出来てます! それからそれから公式アカウント開設してますので、SNSで情報発信を行ってくださいね! これも何かのご縁なのでよろしくお願いします〜〜ということで、つつがなく謝罪会見を終了させて頂きます! あっ、その前にお兄さんのチャンネル登録の方ですが、な、な、な、なんと! 初動3万人突破してますよ、うん! 大物新人の匂いがプンプンしますね! これからは『保護者系Vチューバー』としてのご活躍期待してます! えんもたけなわですが、またお会いできることを楽しみにしてます! チャオ!』


 マネージャーさんは力技で謝罪会見会見を終了させた。

 消化不良の新情報を胸に俺はよくわからないまま、Vチューバーになっていた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る