第16話 反撃の狼煙。

 ◇兄さん目線◇

 マネージャーさんに『燃えてますけど』と言われ、一瞬ぽかんとしたショコだったが、慌ててスマホのSNSアプリ『マックス:旧チクッター』のアイコンをタップした。

 すると、マネージャーさんが言うように物の見事に燃えていた。

 つまりは炎上騒ぎだ。


 なんとなく想像していた俺とショコ。嫌な汗が流れる。

『人気Vチューバー来栖くるす・ショコランティーナさん、同棲発覚‼』

 そんな言葉を想像していたのだけど、なんか違う。


「兄さん……なんなのかしら。この『伝説の負け皇女ショコランティーナ、兄さんを秒速で寝取られる‼』って。いや、寝取られるって誰に? って話なんだけど、私いつから『伝説級』の負け皇女になったのでしょう……」


 そう、お互いマネージャーさんの深刻そうな表情からどこかで『同棲生活発覚』を覚悟したのだけど。

 いや実際は同棲生活じゃなく、現段階では泊めてあげたに過ぎない。

 この先どうするか、居てほしい気持ちはやまやまなんだけど、そこまではぼんやりとしか話せてない。


 いや、今はその事はいい。違和感を感じる。さっきのショコの言葉。マックスの投稿を棒読みした中に『兄さん』とある。

 それって、まさか、俺が世間に認知されたってことか? 

 いや、でもおかしい。昨日のショコの生配信。俺が声を枯らしたショコにお茶とのど飴の差し入れをするため『赤スパ』を送った。

 ただそれだけ。そのことや、俺のことにショコ自身言及したが、事実かどうかなんて確認のしようがない。

 それこそ盛っていると見れなくもないのに……


 いや、待てよ。なんか違う。そうじゃない、兄さんつまり俺が寝取られたってことだ。身に覚えがなさ過ぎる。

「兄さん、やられました。おかしいと思ったんです、機密性のある部屋だし、兄さんは一般人なのにアバターなんて。しかも用意周到に準備して。使ってないアバターなんて完全に嘘」


「ショコ、それってまさか」

「はい、最初は私も兄さんの顔が外に出ると私の身バレに繋がるって、気にしてくれたのかと思いましたが、……」

 あのお絵かき女って、やっぱこの場合どう考えてもさざ波先生だよな。


「でもどういうことなんだ?」

「兄さん、落ち着いて聞いてください。あのお絵かき女『ダンブレ』の協力プレイを頼んでおきながら、その実――」

「その実……?」

『ここから先は私が。さざ波先生は兄さんとその、ゲームをされてましたよね?』

 アバターのマネージャーさんは遠慮しながらたずねる。

 確かにさっきまで『ダンブレ』で救援隊を編成し、無事全滅したさざ波先生のパーティを助け出すことに成功した。

 でも、なんでそんなことショコのマネージャーさんが知ってるんだ? 

 その事と炎上と寝取られたとか、なんかの事やら。


『いいにくいのですが、その時の様子を先生、生配信してまして……』

「生配信……?」

「はい」

 えっと、なに言ってるかわからない。

 完全に頭がフリーズしてしまった。それってなに、どういうこと? 

 混乱する思考能力をなんとか落ち着かせ、言葉をしぼり出した。

「それって、もしかして俺、じゃなくて僕の声が配信に乗ったってことですか?」


『はい、残念ながら』

 それって、ショコじゃなくってさざ波先生のチャンネルのってことだよな、先生ゲーム配信もしてるんだ。多才だなぁ、って呑気に感心してる場合じゃない! 

 いや、土曜の午前中だし、本職はイラストレーターだろ。そんなに見てる人いるはずないよ、うん。

「兄さん、ちなみに先生のチャンネル登録者数は私とそんなに変わんないよ」

「マジ⁉」

 ショコと変わらないってことは200万人級⁉ なんの冗談だ。いや、こういうのって同接が問題だ。登録者が多くても観てる人が少なかったら――


「どれくらいの人が観てました?」

『えっと、同接約3千人くらいですか、この数字でいくとアーカイブ数日で10万くらい、あと切り抜きを入れると――もうたくさんとしか言えません』

 マネージャーさんは本当に申し訳なさそうな声で教えてくれたが、そもそもさざ波先生はセントラルライブ所属じゃないはず。

 マネージャーさんが謝るのはお門違いだ。


「マネージャーさんが悪いわけじゃないです、気にしないでください」

『そうですが、そう言っていただけると助かります』

「兄さん、ごめんなさい。変な人引き合わせちゃって」

 隣でショコも深々と頭を下げるが、こっちも謝ってもらうのとはなんか違う。

 ん~~なんだろ、いま重要なのは俺じゃない気がする。そしてひとつ気になったので聞いてみた。


「ショコ。あの聞きたいんだけど、その配信で使われたアバターなんだけど、俺のって言っていいのかわからないけど、それって使えるの?」

 ショコは小首を傾げて、PCを確認した。

「一応データとして受け取ってるから、細かい動きとか出来ないけど、最低限は使えます。なんで?」

 俺はショコが開いてくれたファイルを見る。ん……疲れた感じのサラリーマン。

 他人とは思えない。現段階ではショコが兄を寝取られたくらいで済んでるが、おふざけとはいえ炎上騒ぎだ。

 どう飛び火するかわからない。コントロール出来るうちにコントロールしたい。


「謝罪会見開こう」

 俺の提案にふたりは否定的な反応をする。

 笑いで済む感じの炎上騒ぎ。わざわざ真面目に対応したら、返って勘ぐられるからやめたほうがいい、そんな意見を口々にされたが、俺はある提案をした。

 するとマネージャーさんがうなりながらも、納得してくれた。

 そして――


『兄さん、それ面白いと思います! 確実にウケます‼ うん、これは逆手に取れますよ! 私、事務所に話を通しますね。ショコランティーナさん、謝罪会見場の作れますか?』

「作れるけど、サムネは? 両方は無理だよ、こういうのは時間との勝負じゃない? マネちゃんサムネ出来ない?」

『ん〜せっかくなんで、利用できるだけしたいので、まで話通したいんです。それにどれくらいの時間が掛かるか……』

「あの、素材――ショコと俺の素材使っていいなら俺作るよ、サムネ」

『えっ、兄さん出来るの? 凄い、よし! 気合い入ってキタ~~~~ッ‼謝罪会見喜んで‼ 掛かって来いや~~!』

 マネージャーさんが両手を上げて居酒屋みたいな檄を飛ばした。


***作者よりお願い***

 レビューが不足してます。

『楽しみ』みたいな簡単なレビューして頂けらばありがたいです。










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