第11話 ママには関係ないです!

 ◇ショコランティーナ目線◇

 兄さんに押し切られる感じで私は兄さんのベットに寝ることになった。

 ソファーでも床でもいいって言ったものの、そんなことさせる人じゃないのはわかってた。

 だからおふざけで「一緒に寝ようよ、兄妹じゃない」と言った。

 後で考えたら、こういうのを誘うっていうんだろうか。なんてこと言ったんだ私は。

 兄さんのベットの中でローリング後悔をするものの、当の兄さんは私のそんな誘いにも動じず、雑に頭を撫でて自分の部屋を後にした。

 まるで大型犬にするような、雑な撫でかた。

 あれ? 

 私って魅力ないの? ってなんだかなぁになったものの、乗り気だったらどうしていたんだろうと思うと、後先考えない自分が恥ずかしい。少しくらい大人にならないと。


 そりゃ、布団の中でローリングするくらい恥ずかしい。

 きっと、好きになってる。チョロいな私。

 たぶん、この気持ちは間違いない。

 思い過ごしとか、勘違いとかじゃない気持ちが確かにある。

 もしかして、兄さんにも私と似たような感情があったとして、ふたりの関係を大事に思っててくれてるから、軽くあしらうみたいにしたんだと、今は思いたい! 思いたい! 思わせて!

 自分を大切にしなきゃダメだぞ? キラン!  

 みたい? 

 きっとそうだ、そう思わせて! そうじゃないと、自分がやったまるで、痴女まがいな誘いが恥ずかしくて、死にそう! 朝までぐっすり死ねそう。死なないけどね!  それ寝てるだけか(笑)

 兄さんの匂いがする枕に顔を埋め、足をジタバタさせながら兄さんにもこんな恥ずかしい思いをさせてやると、リベンジを誓ってあえなく寝落ちした。

 意識を失いながら、いい日だったと思える日になったことを、心のなかで兄さんに感謝した。

 ***

「ショコ、えっと、ショコさん?  起きてますか?」

 まどろみの中、私は誰かの声で目を覚ました。

 見慣れない部屋。嗅ぎなれない匂い。ふかふかのふとん。古民家みたいな天井。

 あっ、夢じゃなかったんだ。きのうのことは全部本当だったんだ。

 生配信も穴をあけずにすんで、兄さんとも出会えたんだ。よかった。これが全部夢だったら、完全に二度寝して、いやふて寝してもう一度兄さんに出会う世界線に旅立っていたところだ。

 ん? 

 ということは、呼んでる声は兄さんじゃないのか? 私はのっそと頭だけ起こしてドアの方を見た。

 すると兄さんが申し訳なさそうに顔だけで覗き込んでいた。

「大胆な覗き?」

 冗談を言う余裕がある。

 きのうのことが夢じゃないだけで、勝ちだから心に余裕はある。

「ごめん、そういうんじゃないんだけど、さっきからスマホ。ショコの。矢のようにメッセージがきてる。仕事関係かもって」

 矢のように? 

 誰だろ。このスマホは家族と仕事関係の人しか知らない。

 家族にはとりあえず、知り合いの所でお世話になってると伝えてるので、たぶん違う。誰だろ……私は兄さんに渡されたスマホを見た。

 メッセージ18件? ストーカーだろ。誰だお前って――


「あっ、ママだ」

「ママ? お母さん?」

 思わず口にした言葉に兄さんが反応した。

 私は軽く首を振った。

「えっと、ママ。えっと『来栖・ショコランティーナ』の生みの親とでもいいましょうか。つまり、イラストレーターさん」

「あっ、ショコランティーナの絵のことか。そういう意味でママ?」

「うん。ママもね、セントラルじゃないけど、Vやってんの個人勢。どうしたんだろ……」

 私はノートPCを取りに戻り、ノートを開いた。

 ノートには既にコードが届いていて、そのコードを利用して作られていたママの部屋に入った。ちなみに例のエロい『夏限定! ショコランティーナのおかげサマー触れるマウスパッド』のイラストもママの作だ。


 このバーチャルな部屋は機密性が高い。

 Vをやってる娘はよく使っていた。それでも顔出しはしない。

 代わりにいつものショコランティーナで話をする。私が入室すると開口一番、秒で質問が飛んできた。


「ショコショコ、ねぇ! 兄さんてどんな人」

 あぁ……この人きのうの生配信見たんだ。

 ママは個人Vなので私が所属するセントラルライブとは関係ない。

 関係ないけど、生みの親ということもあり、意外に関係は深い。

 髪型とか表情の追加とか、全部ママに頼んでいる。こだわりが深い私はママにけっこうな無理をお願いしてる。

 お願いしてるのだけど……


「ダメですよ、兄さんは私んです」

 釘を刺した。

 別に人のものを取るとか悪い評判のある人じゃないけど、絵を描くこと以外には無関心で無頓着。

 こんな前のめりな質問されたのは、たぶん初めて。なので、なんて申しましょうか、女の勘? 予防線を張るに越したことはない。


「なによ、先妻さんとの子なんでしょ? 血繋がってるわよね、まさか設定〜? 連れ子設定だっけ?」

 鋭い。あと設定連呼禁止でお願いします。

 うん、でもこういうのは曖昧にするに限る。


 兄さんと私がなんちゃって兄妹なのか本当の兄妹なのかってのは、この先配信でネタに出来る。

 誰かに本当のことを言ってしまうと、そこから漏れて炎上なんてことはザラだ。

 ママのことを信用してないんじゃないけど、Vをやってる娘に口の硬さを求めるのは無理がある。口硬い娘もいるけどね、普通に。ママは軽い。まるで空気のようだ。


 なにより、兄さんと私の関係は始まったばかり。いや、なんも始まってない説さえある。なので、取られて後悔はしたくない。ママって呼んでるけど独身だし、リアルに美人。

「なんだ、ショコショコのお気になんだね。ここに来てブラコン要素ぶっ込むのもありちゅーたらありよねぇ~~また登録者数跳ねるわねぇ〜娘が跳ねるのはうれしい限りよ」


 この辺りあくまでも、ママはビジネス。

 深く突っ込んだり、深追いはしてこない。

 なので、安心できる相手。そこから雑談を始めた。お願いしていた髪型の件とか、小物なんかの話。だから雑談といってもお仕事絡み。

 そんな中ママが突然思い出したように嘆いた。


「聞いてよ、ショコショコ! 私が今ハマってる『ダンジョン・ブレーク』ってのがあるんだけど、育ててきたパーティが全滅してさぁ、救出したいんだけど、今急いで育ててるパーティ、そこの階層まで行けるレベルじゃないのよ〜どうしよ〜~」

 ダンジョン・ブレーク。通称ダンブレ。知ってるけどやったことはない。

 なので、会話が弾むわけもない。が、意外にも居間に居た兄さんが振り向いて私を見た。

「兄さん?」

 兄さんは恥ずかしそうに小声で「俺やってるけど」と言った。










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