第9話 よろしくって?

 ◇ショコランティーナ目線◇

「そんなわけで、生配信終了の時間が近づいてきましたショコ! 今日はね、いつもと違う環境での配信だったから聞き取りにくいところがあったかもだけど、君たち民草(リスナー名)の応援のおかげでなんとか乗り越えたショコよ、マジ感謝ショコ! あと、お仕事終えてお部屋をまるっと文句も言わずに貸してくれた、兄さんに感謝ショコ~次回の生配信は居城奪還作戦ショコ(笑) まったね~!」


 ふぅ……ホントに「ふぅ」だよ、一息ついた。


 ノリでなんとか乗り越えたけど、まあまあ心臓バクバクでした。

 生配信。話しっぱなしなのもあるけど、いつも感じない程の疲労が……疲れたなぁ、なんて呑気なこと言えない事態になっていた可能性もある。

 そう、お兄さん改め兄さんのおかげだ。


 感謝してもし足りない。危うく事務所に怒られるわ、後輩たちにイジられるわで、てんやわんや状態になってた。それだけは避けたかった!

 私は兄さんからの差し入れのペットボトルのお茶を飲み干し、兄さんがいるだろう居間に向かった。


 勝手に「兄さん」って呼んじゃったけど、怒ってないだろうか。

 いや、こんなことで怒るのはリアル兄貴、そうミジンコ系兄貴くらいか。男性に使うのはどうかと思うけど、兄さんはマジ天使なんだ。

 一刻も早く「ありがと」って伝えたい。私は他所のお宅だけど小走りで兄さんの元へ。

 ガラガラ~っ

 お邪魔します~とばかりに遠慮がちに引き戸を開けると、なんとお兄さん改め兄さんはソファーで寝落ちしていた。

 お仕事帰りに公園で私に怪我させられた上に、きっと経験したことのない生配信の現場に立ち会う羽目に……相当気疲れしたんだろうなぁ……ごめんなさい。


 そう思いながらも私は兄さんの寝落ちしたソファーの前に正座した。

 ん……兄さんったら私の例のマウスパットを握りしめたまま寝てる。どう反応していいのか困る~~結構高価なマウスパット。リアルで買ってくれる人にあったのはこれが初めて。この構図。私のママイラストレーターさんの趣味。


 だけど、構図が構図。ビキニの水着。肩ひもが両方はたけて、ブラが落ちないように押さえてる。これ完全に手ブラだ。

 座ってる絵だけど、ビキニパンツもご丁寧に紐パン。しかも片方ほどけてる。これで立ち上がったら大惨事。

 そんなマウスパットを握りしめて寝てる兄さん。うれしいような、恥ずかしいような。


 なんか兄さんへの色んな感情が溢れる。だから私はただ寝息を聞いていたい。

 そんな気分だったんだけど、私の気配を感じたのか数分で目を覚ましてしまった。悪いことをしちゃった。

「――ごめん、寝落ちしてた」

「ううん、そんなの全然です」

 なんで謝るのって聞きたいけどうまく言葉に出来ない。

 だからって訳じゃないけど無意識に、大胆にも私はそっと兄さんの膝に手を置いた。本能がなんていうか直接接触を欲した。

 こういうのは初めてだ。

 なにせ私は女子校だったから配信ではリスナーさんには偉そうなこと言ったりだけど、異性とお付き合いなんて皆無。

 それどころか、家族以外でボディータッチなんて小学生以来かも。

 小学生の時だって体育とかだけだし……わ、私いま……メス化してない⁉ メス化待ったなしの私に兄さんが言う。

「今日、どうするの。泊ってく?」

 こ、これってまさか……


 私、今から噂の初、初、初体験⁉


 ***

「ありがとうございました~」

 コンビニのドアを開け、私は兄さんの後を追い夜の街に出た。

 これが兄さんの匂いか……私は着ている服の袖をクンクンしながら、そんなことを考えた。いま兄さんから借りたジャージを着ていた。

 兄さんのジャージを着ているからといって「いたした」ワケじゃない。着替えのない私に兄さんが貸してくれたのだ。


 兄さん曰く――「実際に成人してるからって、その格好でこの時間のコンビニはマズいと思う」って。その格好――つまり私の戦闘服のセーラー服。

 私はマジレスすると、この世界線では時間の流れが違ってて、年を取るのが遅い。かなり。だから永遠のセブンティーンみたいな? そんな設定。


 あっ、自分で設定って言っちゃったよ。

 流石に生配信後の深夜の外出にセーラー服は補導されるだろう。その時なんて答える?「設定なんで」って答えながら免許証見せる絵面はなかなかシュール。警察官の人の苦笑いが目に浮かぶ。

 ちなみに兄さんの「今日、どうするの。泊ってく?」はまったく他意はない。


 生配信見ててくれたのと、わずかな前情報から、今日は帰れないと判断しての提案。あくまでも優しさで下心ではない。マウスパッドは握りしめてたけど(笑)私的には少しくらい下心があっても――なんて考えてしまう。内緒だけど。


 コンビニの前にファミレスで「生配信お疲れ会」をしてくれた。

 んでもって、部屋着は借りれても下着まではもちろんないので、コンビニで買うことになった。

 最近のコンビニは手ぶらでお泊りできるくらい色々売ってる。下着とキャミ、それからトラベルセット――歯ブラシとかの。

 あと化粧品なんかをカゴに放り込んだ。いざ会計になると横から兄さんがクレカで決済してくれた。

 私が「そんなの悪いから」と固辞しようとすると「兄妹なんだろ、一応設定的には」って照れ臭そうに。


 どうすんの、こんなん惚れるやろ? 待ったなしやろ~~

 そんでもっていまだ。

 コンビニから兄さんの家はすぐ。5分と掛からない距離。えっと、あれだ。ここはその……兄妹なんだし、設定……いいだろ手つないだって。

 バチは当たらないとばかりに後を追い、手を伸ばしたもののチキンな私は兄さんのそでをちょんと掴むのが精一杯。


 兄さんは「ん? 怖いの?」と呑気な顔するから「はい」と顔を染めて答えたけど、こんな暗闇じゃわかんないよねぇ~でもなになついてんだ、私ったら。

 だけど、そんな自分、嫌いじゃない(笑)

 兄さんの家に戻り、お風呂をいただき居間に。

 さっきも言ったけど、女子校だったので異性とお付き合いなんてしたことない。

 彼氏がいない歴イコール年齢。


 配信ならあおる側なんだけど、自分もじゃないかと苦笑い。しかし、湯上りに異性と二人っきりなんて、なんてドキドキするんだ。

 兄さんにはそんな感じは全然なさそうだ。考えてみたらあたりまえか。だってそもそもが被害者と加害者。私が公園で小石を蹴っ飛ばさないと、いまこうしてない。

 あの時の私、グッジョブ。言えないけど。いや、でも言わないといけないことは山のようにある。まずはアレだ。


「兄さん……って呼んでますけど、嫌じゃないですか?」

「えっと、嫌とかはないよ、うん。なんかくすぐったさはあるけど。実の妹からは名前呼びだから、なんか新鮮。それで、その俺はなんて呼んだらいい? 来栖さん? ショコランティーナさんはマズいでしょ」

 ふたりだけの部屋で兄さんはきょろきょろしながら小声で。

 ここだけ切り取っても兄さんの人の良さがわかる。

 これって身バレを心配してくれてるんだ。アカン、マジでハグしたい! したことないけど! なに、私ったらハグすら未経験なわけ? まぁいいや。

 兄さんと接してたらそんなことどうでもいいように思えるから不思議。知り合ってまだ数時間。これがよく言う「時間は関係ない」ってやつなの? 

 わかる! 

 あっ、でもこういうの聞いてくれるってことは、今だけの関係じゃないってことと、私は受け取りますが? よろしくって? 流し目をしてみるがきょとんとされた(笑)


 ***作者より***

 読み進めていただき、ありがとうございます。

 個人的な基準なのですが、10話公開時に☆評価30個が及第点と考えております。10話公開時にこの基準を下回ると打切りみたいな感じになります。

 今作は早々にその基準をクリアできましたことを、この場をお借りしお礼申し上げます。

 さて、

 続編のプロットがあるのですが、続編執筆となると更に基準を高く設定してます。

 もしご興味があり☆評価がまだの方がおられましたら早めの評価お願いします。

 第一章完結後に基準を満たしても別の次回作執筆を始めてますので、☆評価はお早めに!














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