第8話 スパチャってどうしたらいいですか?
◇兄さん目線◇
えっと、よくわからないまま来栖・ショコランティーナさんの生配信を無事スタート出来た。事情を知らなかったとはいえ、俺は彼女のたわわにうつつを抜かし生配信をダメにするとこだった。チラ見のご利用は計画的にしないと。
もし……俺の芽衣ちゃんに――妹の中の妹――どこの馬の骨ともわからない兄が現れたら……発狂するくらいで済むだろか。いやもし誰が芽衣ちゃんの口から「お兄ちゃん」なんて呼ばれてるなんて知ったら……
なのでここは
いかん。芽衣ちゃんの事となる脱線してしまう。ショコランティーナさんのことだ。
免許証を見せてもらったけど、名前までは見てなかったのでまだ彼女の本名も知らない。
Vチューバーという存在は知っていたし、ゲーム配信も何度か見たことはあるけど、誰のチャンネルとかを意識して見たことはなかった。
ネットでひとめぼれで買ったマウスパッド『夏限定! ショコランティーナのおかげサマー触れるマウスパッド』グレーゾーンのポロリ待ったなしの構図。
まさかあの子がモデルなんて……確かにあのマウスパッドのたわわは本家のたわわに繋がるものがある。そういう意味では完成度が高い。さすが公式サイト。
なんかしげしげ見てると悪い気がしてきた。
ネットでひとみ惚れで購入したマウスパッド。実際Vチューバーさんがモデルのマウスパッドとは知らずに買ったんだけど、偶然ってあるんだなぁ。
ショコランティーナさんに開いてもらった『アイチューブ』の
こういうのに
そう思うと、生配信に遅れそうになっていた彼女のプレッシャーはとんでもないことになっていただろう。
たわわに気を取られずに、もっと早く気づいてあげていればよかったのだけど、ひとまず今は遅刻しないで済んだことだけでよしとしよう。たわわに罪はない。
ショコランティーナさん的にはそっと、たわわをなでおろす気分だろう。
ん~~たわわから離れないと。俺は頭を振った。振りながらもしショコランティーナさんが同じ事したら、彼女のたわわはそれはもう……油断するとたわわのことばかり考えてしまう。反省。
生配信だから、別に見てもいいんだよな。
こういうのは一種の創作活動なんだと思う。自分に置き換えると中学時代の夏休みの読書感想文とか。いや、あれは創作活動ではないか。
でも、自分の思ってることや感じてることを見られるのは恥ずかしかった。だから、彼女の生配信を見ていいかちょっと考える。
なんか、のぞきみしてるような気分になるけど、見ないのも変な感じなので見ることにした。軽快なトーク。物怖じなんて縁のない感じ。
俺なんか職場で当番の朝礼の挨拶でもなんか苦手なのに。声の感じ。普段話してる――といっても、今日初めて話したんだけど、雰囲気がかなり違う。
プロって感じがするのは気のせいだけではないだろう。
柔らかい声からときおり、毒の効いた言葉。このギャップで彼女の話に引き込まれてしまう。
彼女がいま配信してる中で『お兄さん』という単語が出てくる。
これってもしかして、俺のことだろうか?
いや、それは自意識過剰か? 今日会ったばかりの俺に対して……でも内容的には俺だよな。俺って先妻の子って、そのそういう設定なんだ。
こういうのって今日出会ったばかりだから、当たり前だけど、瞬時に話しながら思いついたんだろうな。それひとつとっても彼女の才能というか、頭のキレには驚いてしまう。
よくわからないまま、俺は彼女の『兄さん』になったらしい。
悪い気はしないどころか、なんかくすぐったい。庇護欲をくすぐられる感じだ。Vチューバーの生配信見るのは初めてだ。
アーカイブとかは見たことがあるけど、地上波より面白く感じてしまうのは、彼女のことを少しでも知ってるからだけではない。
彼女には人を楽しませる魅力がある。登録者数200万人越えは伊達じゃない。人を
今更ながらこんな有名人とお近づきになったことに軽く緊張しはじめた。
そんな時、来栖・ショコランティーナさんの生配信を見ていてある異変に気付いた。ほんの少し前から気のせいか、彼女の声が出にくそうに思えた。
気持ちかすれてるようにも聞こえる……すると軽く咳払い。これは完全に喉がイガイガしてる感じだ。
どうしよう、彼女はいま俺の部屋で水分らしきものはない。いや、仮にあったとして人んちにあるペットボトルの水とか勝手に飲むタイプじゃないだろ。
とはいえ、生配信中にドアをノックとかありえない。ノックの音が入るってのも問題だけど、集中力を途切れさせるなんてことになったら大変だ。
面白い話とか相当集中してないと出来ないはず。でも、喉が気になって集中出来ないなんてこともある。
リスナーさんのチャットでも声が枯れてないか指摘する声が……
チャット? そうだ、俺も来栖・ショコランティーナさんにチャットで知らせたらいいんだ。あれ、出来ない。チャンネル登録しないと出来ないのか。よし、完了。
『よかったらお茶とのど飴置いたから』
俺のこと――たぶん『兄さん』と呼んでるのは俺のことで、彼女のリスナーさんには血の繋がってない兄妹ってことになってて、そんな俺のところに来てることになってるから、同じ家にいても問題はない。
ん……反応がない。それもそうか。チャットの流れがまるで川のようだ。しかも激流。
よくこんな早い流れのチャットを拾って話題に出来るなぁ。
しかし、それくらい多くの人が書き込みをしているってことは相当な人気チャンネル。新参者の俺のコメントが目に留まる訳もないか。
あれ?
見てたらさっきからチャットでも上の方に長く留まるコメントがある。色がついてて、緑とか青。中でも長く留まるのは赤色の――あっ、これが噂に聞く『赤スパ』ってヤツか。
配信者の方に応援を兼ねてお金を送る仕組みのはず。これなら俺のコメントも目にとまる。赤スパは1万円以上だったか。
あっ、でもどうせなら俺だとわかるようにしないと。でも、名前名乗ってないし、ネットに本名とかさすがにマズい。
ここは『兄』ってことにしよう。でも『兄』じゃわからんか。実際『兄』じゃねぇし。
考えても仕方ない。
ここは『レッサー兄』にしよう。レッサー・パンダから拝借した。まぁ、なんていうか兄っぽいものみたいな感じでどうだろ。
現実は全然、兄っぽくもないただの他人だけど、伝わればいいか。
俺は祈りを込めて人生初となる『赤スパ』なるものを送った。
チャットのコメントの感じだとどうやら伝わったらしい。安心した俺は来栖・ショコランティーナさんが生配信中だというのに、うかつにもソファーで寝落ちしてしまった。きのう『ダンブレ』を遅くまでプレーしていたことが
残念な俺の手にはショコランティーナさんのマウスパットが握りしめられていた。
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