第7話 おれたちの兄貴。
□◇□ショコランティーナ生配信□◇□
「来栖・ショコランティーナ第一皇女の生配信はっじまるショコ〜〜民草。我の言葉に耳を傾けよ!」
ギリギリセーフな感じで生配信が始まった。
ホント、首の皮一枚ってこういう事をいうんだ~〜いつもは特に緊張もせずに始める生配信。
慣れたもので最近はおかげさまで緊張とは無縁だったのだけど、流石に今日は緊張した。別の意味で。危うく生配信に大穴あけるとこだった。
事務所の担当ちゃんに怒られるとこだった。
やべぇやべぇ。これも全部お兄さんのおかげだ。
えっと、設定と申しましょうか。わたくしはショコラ国第一皇女来栖・ショコランティーナ。
この世界とは時の流れが異なり、果てしなく年を取らない、ぶっちゃけるとそういう設定だ。
お兄さんの絡み上成人してるとだけは言っておきますが、間違ってもBBAとか言わないこと。我が国ではわたくしにBBAなんて言ったらデコピンの刑なので、そこんとこヨロシク。正確な年齢はギリ成人とだけ言っておこうか。背伸びしたい年頃なので(笑)
ちなみに我が国ではリスナーさんを民草と呼び、スパチャを納税と呼んだ。スパチャとは配信者を支援する目的で送る投げ銭のこと。
ちなみに赤スパとは一万円以上の投げ銭のことだけど重税と呼ぶ民草もいる。
(民草1)『こんばんわ、公女さま。重税の先陣を切ります〜』
いきなりの赤スパ。
嬉しいのだけど、ここはいつものように注意しないとだ。
開始早々の赤スパは控えるように申し付けてる。偉そうな言葉遣いだけど、ここでは私皇女なの。そういう世界観?
「こんばんわ〜(民草1)駄目でショコ、開始早々の赤スパはご法度でショコ。ちゃんと私のお話を聞いね、よかったらお願いしますショコ。あと、重税ちゃうからなショコ? 納税なショコ? デコピンするぞ?(笑)」
いつものように始まった。ちなみに私の語尾は「ショコ」一種のキャラ付けだ。うう……キャラ付けとか世界観とか設定とか。色々台無しなこと言ってるのは
同接3千からのスタート。これってここ最近では最多。
バレンタインでも、エープリルフールでもクリスマスでもないのに。
この大人数の生配信に穴をあけていたかと思うとホントにゾッとする。
(民草2)『こんばんわ皇女さま。気のせいかもですけど、なんか音違わないですか? もしかして貧乏に(震え)あ、赤スパ……』
うっ……鋭いな。常連組は。
ちょっとの音質の変化もわかるんだ。でも貧乏とか言わないで。
せっかくお兄さんが部屋まで貸してくれてんだから! まぁ、そんな事情は知らないよね。あと、なんか可哀そうだから赤スパって……あざぁーす!(笑)
「あのですねショコ、実は私ちょっと今朝とんでもないことが起きましたショコよ、昨日の配信の後、皆さんご存知のミジンコ系兄貴に居城(実家)を追い出されたのショコよ。配信がうっせえ、黙れって。酷くないショコか?」
(民草3)『それでわいの家に来たのか(納得)』
「いや行ってないでショコ(笑)妄想ひどくない?」
(民草3)『それじゃ今どこから配信してるの? 男のところか?(震え声)』
「あのショコね、民草。男のところとか言わないショコよ。わたくし嫁入り前の皇女ですのショコ。居城を追われた私は内緒にしてましたが、もう一人のお兄さんの所に身を寄せてるのですショコ」
――という設定。
ノートPCと持ち運べるマイクだけしか持ち出せてないので、音質はどうしても落ちる。その言い訳にこの設定は必要。あと枕はマスト。寝れないもん。
何か物音がしても大丈夫なように、予防線を張ることにした。これでお兄さんの声が仮に入っても大丈夫だ、たぶん。
(民草4)『そのお兄さんもミジンコ系では?(笑)』
「いやいやホントに笑えないショコ、でもさぁ~〜それはないわ~~実は訳ありで皇位継承権がこの一番上のお兄さんにはないのショコ。その先妻さんの連れ子さんと申しまショコか……なので、今は
(民草5)『――という設定』
「設定って言わないでショコ! 君たちいつからそんなひん曲がったショコ、お兄さんを見習ってよ、ほんとマジ天使なんだからショコ! ん……待てよ、待って。お兄さんと呼称してるものの、どうだろ。君たち、お兄さんってお兄さんの域に収まってると思うショコか?」
(民草6)『そんなん知らんて』
「知らんって、君冷たくないショコか? 皇女自ら民草の君たちに相談を持ちかけてるショコよ? 光栄に思いなさいショコ!」
(民草7)『お兄さま、もしくはニイニイでは?』
「そう! そういうの欲しいショコ! 君たちさぁ、彼みたいな民草見習いなさいショコ~でも、お兄さまって響きいいけどさぁ、よそよそしくないショコ? ニイニイもいいんだけど、ちょっと離れて暮らしてたからショコ、なんか距離詰め過ぎてる感もあるショコ。なんか張り切って無理してないか、妹よって逆に? 逆に心配されそうショコ……」
(民草8)『シンプルに兄さんは?』
「兄さん? いいショコ! なんかいいところのお嬢さまみたいショコ! それ採用! 今後兄さんと呼ぶことにするショコ!」
(民草9)『いいところのお嬢さまって、皇女でしょwww〜時にショコラさま、声枯れてねぇ? そろそろ給水タイムでは?』
いい感じに生配信が進んでいた。
私は喉がそんなに強くない。強くないのでしゃべりっ放しだと喉に負担がかかって、声がかすれる。
いつもは給水してそれでなんとかなるのだけど、バタバタで生配信をスタート。飲み物の準備はしてない。
実家ならミュートにして、冷蔵庫にダッシュなんだけど、ここはお兄さん改め、兄さんの家。そんな勝手なことは出来ない。
このまま乗り切るしかない。そんな覚悟を決めた矢先。突然の赤スパ。
(民草10:ユーザ名:レッサー兄)『お茶とのど飴置いたから、よかったらどうぞ』
「ん……えっと初めての方ですかね。赤スパありがとうございまショコ〜いや、流石にお茶とのど飴までは無理ショコょ!(笑)でもお心に感謝ショコ!」
(民草11)『ユーザ名:レッサー兄って……これってまさか……』
(民草12)『オレもワンチャンあると思う』
(民草13)『もしわいらの予想が当たってたら、マジ天使じゃね?』
「こらこら、君たち。わたくしを置き去りになに盛り上がってんのショコ? もしかして裏で他所の女(他の配信)に浮気してないショコか? 皇女ゆるさないから浮気は」
(民草14)『いや、皇女さま。おいらたちの予想なんだが、さっきの赤スパ、兄さんなんじゃね? 知らんけど』
「知らんけどって(笑)いやいや、いくら兄さんとはいえ……えっと、君たち。ちょっと待ってて。見てくるショコ。てってって……」
(民草15)『皇女、足音〜〜ミュートしなさ過ぎwww〜』
私はリスナーに押されるようにして、扉を開けてみるとそこにはトレーにお茶のペットボトルとのど飴があった。
ドクン。不意に胸がドクンドクンとした。こういうのは始めて。こういうそれとない好意。胸が高まる。女子校一筋。だから恋愛慣れしてない自覚はある。免疫がない。だからこうなる。頭ではわかってるけど。突然湧き出す庇護欲。お兄さん――兄さんを守りたいという願望。
守って欲しいのではない。守りたい。助けた。役に立ちたい。もし兄さんがいいなら傍に居たい。初めての感情。どう向き合っていいかわからない。
「君たち。どうしょショコ、兄さんマジでお茶のペットボトルとのど飴置いてくれてたショコ。ごめん。ちょっと泣きそうショコ〜〜」
(民草多数)『兄貴〜〜! さすが俺達の兄貴〜〜!』
「いや、君たちのじゃないから? 兄さんは(笑)」
さすが私の
しかし、今日の生配信。
よくわからない方向に盛り上がりを見せるのだった。
***作者より***
もう恒例になる公開前に加筆。ここまでお付き合いいただきありがとうございます。少しでも面白いが届けられていたら幸いです。
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