第4話 計画性があるだけです。

 ◇ショコランティーナ目線◇

 なんていうか、めっちゃテンション上がる! お兄さんってめっちゃ優しい! 

 初対面の私に、しかもお仕事で疲れてるだろうし、あっ、忘れてた。ケガの治療しなきゃだ! 

 私は慌ててノートPCを居間のソファーに置いてお兄さんに向き合った。キョトンとした顔してる。

 なに、めっちゃかわいい! 年上だけど、小動物みたい! あっ、これいい意味でね。

 まったく、どっかのリアルミジンコ兄貴とは大違いだよ、ホントに。同じようにVチューバーしてる娘で、ブラコン自称してる娘いるけど、ないない! あり得ない! 

 いや、もしこのお兄さんがリアル兄貴だったら私もブラコン始めますけど(笑)

「その、ごめんなさい。つい、古民家にテンション上がっちゃって……ケガ見せてください。そのために来たんでした」

 テレっとしてごまかしお兄さんの前にぺたりと座る。ここは若さで押し切れ!

 それにしても忘れ過ぎだろ、私。反省反省。テレっ~~(大事だから2回照れました)

「いや、いいよ汗かいてるし」

「別に、そんなこと構いません。お兄さんは気にするでしょうけど。ケガの方が重要です! ほら、ここに座る! ほら! は・や・く~~!」

 私は強引にソファーをトントンとした。そう言われるとついお兄さんの汗の匂いをこっそりクンクン嗅いでしまう。ん……なんかいい! 落ち着く匂いがする! 意外と私ったら匂いフェチなの⁉

 いやいや、待て待て私。お兄さんの匂いクンクンしてる場合じゃない。手当しなきゃ。なんか調子狂う。なんだろ、なんか油断すると懐いちゃう。

 油断で思い出したけど、無警戒過ぎて私スカートはたけて太もも全開だ! 慌てて直したりしたら自意識過剰。おしとやかに、気づかれないようにそっと……よし。大丈夫。危うく痴女だ(笑)幸い見えちゃダメなのまでは見えてないはず。

 お兄さん私の痴女要素に気づかず、渋々私の前に座ると、私はすかさずスウェットのすそを上げる……ちなみにこれセクハラじゃないから! 役得だから!

「めちゃめちゃれてますよ! ど、どうしよ、私……あっ、この辺りにドラッグストアあります? シップとか買ってきます!」

「いいよ、そんなに痛くないし」

 いや、そんなはずない。

 だって、目に見えて腫れてるし、うっ血してる。骨とか大丈夫かな、病院行かないと、じゃない? 浮かれてる場合じゃなかった。 

 うぅ、どうしよ。私が悪いのに、私が怪我させたのに泣きそう。怪我させるのって罪悪感半端ない。しかも、優しいお兄さんに怪我させるなんて。

 ここで泣いてお情け貰うなんて絶対の絶対に違う!

 私は歯を食いしばり、泣きそうな気持ちを我慢した。すると――


「えっ?」

 不意に、まったく予想もしてなかった感覚が私の頭に。

 顔を上げるとお兄さんが優しい笑顔で私の頭をポンポンしてる。

 アカン、絶対に泣くやつです! 絶対に涙腺崩壊なやつです! するとお兄さんは突然立ち上がって、脱兎のごとく居間の外に駆け出した。

 引き戸の外から恐る恐る私を見る。ん? なに、何で? 私の頭にトゲトゲでもあった? いや、設定では冠かぶってるけど……頭にハテナマークを乗っけてる私にお兄さんは声を裏返して言う。

「ごめん! その……その俺にはあの、妹と従妹がいて。その年の離れた……それで、何かそのつい、頭をですね、ごめんなさい!」

 えっ、なに? 頭に触れたことを言ってるの? 

 今のポンポンのこと言ってるの? なに、めっちゃかわいい……

 なにこの新鮮なリアクション! ん……これが頭ポンポンなのか。何気にお初だ。うん、悪くない! いや、むしろいい! 良すぎ! うぅ……女は度胸だ!

「あの、怒ってません。全然。それよりこっちに来てください。逃げないでくださいよ(笑)」

「えっと、でも」

「でもって(笑)忘れてません? お兄さんのお家なんですよ? 間違っても通報とかしませんから、ご安心してください。あっ!」

「えっと、どうしたの?」

「いえ、悪いこと思いつきました。あのですね、もう一度ですね、頭ポンポンしてくれたら通報しませんよ? いやしてくれなくても通報なんてしませんけど……出来得るなら――」

 ほぼ泣き落とし。悪い女だ。我ながら。いや、聞いてはいたが、頭ポンポンは思ってたよりいい。癒しだ。

「えっと……」

「えっとじゃないですよ、お兄さん。私頭ポンポンお初なんですから、ちゃんと責任取ってくださいね?」

 我ながら悪い笑顔だろう、きっと。

 それでも人がいいお兄さんは恐る恐る頭ポンポンしてくれた。

 さっきまで泣きそうだったのが嘘みたいだ。私は気を取り直して、もう一度お兄さんのスネを見る。

 うん、痛そう。お兄さんには悪いけど、小さい子じゃなくてよかった。いや、怖い人だったらそれはもう大変だったろう。

 ケガさせられて頭ポンポンとか、どんだけ人がいいの?

「えっと、家にシップはあるからわざわざ買わなくてもいいよ」

 しかも、この配慮! これが大人の余裕というやつなのか? 

 感動した! 私はお兄さんのスネにシップを貼る。冷たいのか、ピクンとする。なに、どうしましょ、何もかもめっちゃかわいいんだけど……私は照れ隠しにお家探索を再開した。一緒にいたら変な顔で笑いそうだ~~

 ん……なんか忘れてるような気がするけど、今はいいか。

「えっと、それじゃどこから見たい?」

「じゃあキッチン見てもいいですか?」

「いいよ、そこだから」

 キッチンは居間に面していた。間取り的には意外に今風な感じ。

 居間からキッチンはすぐそこ。近いからキッチンと言ったわけではない。私はまぁ、まぁ、あざといと言いましょうか。

 いや、あざといまでは行かない。計算高い。いや、響きが悪いなぁ……計算……計画性があるだ! 

 そう、私は計画性があるVチューバーなのだ。

 出会ってすぐだけど、どうやら恋心に近いものを抱いてる。誰にかって? もちろんお兄さんにだ。あっでも女子校出身だから恋愛慣れしてないとかじゃない、断じて。いや、慣れてないですけど! 初恋ですが?

 でも、計算高い――もとい。私は考えました。

 お兄さんもいい年齢だし、お相手がいてもおかしくない。こんなに気配り出来て優しくて、まさにパーフェクトガイ。

 だからきっとライバルは多いだろう。いや、ちゃんと結婚を前提としたお付き合いしてる女性がいるかも。

 そうなると実らない恋。悲しいけど現時点なら引き返せる。

 でも、恋心。アクセルを踏み込む前に彼女の有無くらいは知りたい。そのためには――

 食器チェックだ! 

 うん。出会ってすぐに「彼女いますか?」はハードル高い。聞いたらみそう。どもりそう。でもこれならさりげなく探れる。ペアのカップがあればビンゴだろ。

 ビンゴとか楽しそうな響きだけどそれは初恋の終わりを意味した(が~~ん!)







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