第一章 参幕⑨

夜明け前。八神邸跡地。炎の痕跡がまだ残り続けるこの大地へ一人の少女が手を合わせる。

「これで良かったのか?」

「ああ。」

背後で氷でできた彫刻のようなものに担がれている男へと振り向き、少女、八神りなは頷いた。

「お父様もお母様も皆も私が後ろ向きで歩いてなよなよ泣き続けてるより、前を向いて笑ってる方が喜ぶだろ?」

ニッと口角を上げりなは笑う。

「そうかもな」

担がれている男、丹羽レオは純真な瞳をりなに向け、頷く。

「それで、りな。これからお前はどうするんだ?」

「これから……?」

「ああ。これからだ」

「これから、か……そういや私、何も考えてないな」

う~んと両の手で頭を抱えりなは悩む。

「行く当てもなく力を授かってしまった以上、りなはこれから世界連邦に目を付けられるのは確実だ」

レオを背負っている氷でできた彫刻のようなもの、シロウサギが呟く。

「そっか……それもそうだよな。私も一瞬だったとは言え、『力』を得て使ってしまったし……うーん。うーん?うーん………………よっし。決めた!!」

高らかに何かを宣言したりなは東から登ってくる朝日に背を向けレオ達の方へと体を向ける。

「一人でいてもこの力の使い道が分からないし、あんたらといれば面白そうだから私、あんた達二人についてくよ。そんでこの目でいろんな世界を見てみたい」

腰に手を当てりなは胸高らかに微笑む。

「いいぜ」

「勿論だ。その言葉を待っていた」

レオとシロウサギは顔を見合わせた後、りなへ向かって手を差し伸べる。

「これからよろしくな。りな」

「おうよ」

パチンと軽快な音を鳴らし、りなは二人から差し伸べられた手に自身の手を合わせる。

「でも、勘違いするなよ。そうならざるを得なかったから選んだんじゃないぜ。これは私がこれじゃないと嫌だって思って選んだ、自由を勝ち取って選んだ選択だ」

りなは二人の顔を見てニカっと笑う。


お父様、お母様。私はこれから何にも縛られることなく自由に生きてみようと思います。我儘な娘でごめんなさい。でも、この二人と手を取り合って頑張って生きやすい世界のために生きていくから、どうか見守っていてください。


「ところで、シロ?」

「なんだ?」

シロウサギは首を傾かせ背負っているレオを見る。

「これから三人で過ごすことになるが、拠点はどうするんだ?ほら、俺んちはもうボロボロだろ。りなだって女子なわけだし、どっかもうちょいマシなとこに……」

「いや、しばらくはレオの家で留まろうと思う」

「なんでだ?」

「なんででも、だ」

「嘘だろ……おい」

「ま、いいんじゃねぇか?私も通い慣れたところの方が落ち着くし、いいぜ?」

「りなもいいのかよ……」

「勿論」

苦笑いを浮かべため息を付くレオにあっはっはっはっはっはっは、とりなは笑う。太陽は飛び立つ羽を得た少女の新たな門出を祝うかのように空へとその朱色を爛爛とたなびかせていた。

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