第一章 参幕⑧

「なんて…ことだ……」

仕掛けていたカメラの映像が爆風により乱れたことで中央制御室内のスクリーンの動きが止まる。必ず命を守ると約束した相手を無下に殺してしまったやるせなさと新たに対処しなければいけない人間が増えてしまったという煩わしさでミコト長官は何とも言いきれない表情を顔に滲ませていた。

「オノ」

ミコト長官が静かに虚空を見つめること十分。腕時計の長針がゆったりとした動きで次の時間へと移り変わったタイミングでミコト長官は自身の背後にいるオノへと顔を向ける。

「今回の件、我々の不手際が招いたことである以上八神家への約束を反故するわけにはいかん。即刻、平坂市への助成金の振り込み、並びに遺族への援助を開始しろ。それと彼をここに」

「分かりました。長官」

オノは長官へと敬礼をしすぐさま踵を返して制御室を出ていく。

「さて」

オノの姿が中央制御室からいなくなるのを見届けるなり、ミコト長官は大型スクリーンへと目を配る。数分と待たずして画面から次々に見知った顔が映り始めたのを確認してミコト長官はでは、一呼吸置いてから事の顛末の説明を試みる。

強化個体03 ワタリアが独断で行動し、交渉中であった八神家を襲撃したこと。

ワタリアの能力は火炎を意のままに操れるということ。

そして新たな能力を持つものが現れ、恐らくはワタリアが敗北したであろうことを。「……以上になります」

全てを包み隠さず話し終えミコト長官は画面を見やる。緊急事態で急に呼び出されたがために最初は不機嫌そうに話を聞いていた諸々も段々と話を聞くにつれ、皆一様にその顔はみるみる驚愕の表情へと変わっていった。

「大失態ではないか!!どうするのだ?今回で奴らを下手に刺激させてしまったせいで大規模作戦前までに平坂から逃げられてしまったら!!!それに新たな仲間まで増えた!??どうなっているのだね!!??」

顔をカメラに近づけ大声でアメリカ国防長、ルドナルが叫ぶ。

「申し訳ございません。ルドナル長官」

ミコト長官は最低限の誠意を見せるように深々と頭を下げる。

我が国に奴らが現れたらどう対応するのだ?

しっかりと飼い犬の手綱を握るのがお前達世界連邦の業務ではないのか?

ミコト長官の謝意を皮切りに世界連邦の存在意義について叱責非難する声が次々に発され室内を取り囲む。

「皆様のお言葉痛み入ります。世界連邦としてはこれ以上のことが起こらぬよう最善の手を尽くして参る所存でございます」

ミコト長官は深々と下げた頭を更に床へと向かわせる。

「ですが、実はもう一つ」

ミコト長官は腰を折り曲げたまま頭だけを画面へと向ける。

「今回の件で当初の我々の予想を大幅に修正しなければいけない事態が発生しました」

「まだあるというのかね??」

「はい」

ミコト長官はほうれい線を浮かばせ小さく頷く。

「本来の大規模作戦では平坂市一帯を包囲して北極へと誘導させる予定だったのですが、ワタリアが再起不能に陥ったことにより作戦の内容が大幅に変更せざるを得なる可能性がでてきました」

作戦が白紙に戻る……

また一から考え直さなければいけないというのかね??

考え直している間にも奴らが動き出したらどうする?

猶予は許されない。即刻に準備せよ!!

ミコト長官のその一声に動揺が隠し切れず、焦りを伴った男達の声がこだまする。

「我々としても当初の予定通り、事を進めるつもりですが、新たな能力者も現れた以上、そこには必ずイレギュラーが生じます。そこで大規模作戦前にもう一度、奴らに奇襲を仕掛けて戦力の把握をしたいと考えております」

ミコト長官が言い終えるや否や制御室の扉が開き、オノと共にミコト長官よりもっ屈強な、髪をオールバックにした金髪の男が現れる。

「皆様にご紹介します。次の作戦において指揮を執る強化個体00 ソークです」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る