第一章 参幕④
警戒レベルが上がった音と共に警報音が周囲に響き渡る。ここは世界連邦中央制御室。急な状況を把握するため、局員達が即座に画面を操作し近況を報告しあう。
「どうした?」
局員達が地図を広げ話し合う最中、中央制御室の厳重な鉄製でできた扉が開かれ、秘書のオノと共に急ぎ足でミコト・シキシマが現れる。
「未確認軍用機が数基、平坂市上空を滑空しています!」
地図を見つめる局員達の後ろで大型スクリーンが作動し平坂市の映像が映し出される。
「何?どういうことだ?」
戦局を把握しきれず映像を見つめるミコト長官に追い打ちをかけるように分析が完了しました、という声が室内に響き渡る。
「期待名……これは!?世界連邦所持の機体……??世界連邦所持の機体です!!」「何だと!?」
ミコト長官を含めそれまで一切の焦りを見せていなかった重役たちの顔が一気に滲み始める。
「どういうことだ?指示は出していないぞ!!誰の独断だ!?」
ミコト長官の罵声が飛び、ざわめきかけていた辺りは一様に沈みかえる。
「うふふ……焦っているのかしら?ミコト長官??」
「何??」
ミコト長官は声のした方へと振り向く。先程まで平坂氏を映し出していた大型スクリーンでは燃え盛る日本家屋のようなものが映し出されその前には声の主と思わしき人物が佇んでいた。それは蛇のような目つきに、全身が火傷をおったように赤い皮膚。強化個体03 個体名 ワタリア。それが彼女につけられた名前であった。
「ワタリア、どうしてお前がここに居る?」
睨みを利かせ、だが信じられないものを見ているかのような瞳をミコト長官は画面へ向ける。
「私は今したいことをしているの。だからここに居る。それが理由よ」
ふふっとワタリアは笑みを画面越しにいる男へ配る。
「連邦命令だ今すぐ戻れ!」
「嫌よ」
挑発的な眼差しで笑みを浮かべ続けながら、ワタリアは首を横に振る。
「何故だ?」
「言葉を変えて同じことしか言えないの?お猿さん。ふふッ。いいわ。その陳腐な心意気に免じて教えてあげる。貴方達が甘い考えばかりしているから私が自分から動いたの。感謝して欲しいわ」
「お前は今自分が何をやっているのかわかっているのか?」
「何をやっているか?それって、もしかして」
睨みを利かせているだけの人間なぞ怖くないと言わんばかりにワタリアは自身の背後で燃え盛る日本家屋から逃げ出してくる人々を映す。
「『こういうこと』かしら?」
「やめっ」
ミコト長官が何かを言い放つ前にワタリアは自身の片腕に炎を宿し、それを映る人間にぶつける。大げさな足音をたて火で焦げた土を踏みしめて逃げ出そうとするそれは瞬時に黒い炭となりその場に残った。
「なっ……」
画面越しで起こった残酷な事実に呆気にとられる世界連邦の人間達を見下ろした画角になり、ワタリアは笑みを浮かべる。
「結果が伴えば貴方達も変わるわ。そこで指を蓄えてみていなさい」
ワタリアが言い終えるなり強制的に映像が途切れ暗い画面だけがミコト長官の目に現れる。
「なんてことを……」
屈強な男は誰にも見つからぬようそっと目尻を抑えた。
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