第一章 参幕③
「クソ、あちぃ」
隣で自身に話かけている仲間をぼぅっと眺めつつレオは右腕を最大限に動かし必死になって手にしている団扇を煽る。
「レオ、聞いているのか?」
「ん?ああ、聞いてるよ」
レオは滴り落ちてくる汗を拭いながら側にいるシロウサギへと目を配る。
「要するに、あれだろ?ひとまず八神りなは連邦が差し向けたものじゃねぇってことだろ?」
「かなり掻い摘んで聞いているようだが大まかに言いたいことはそういうことだ」シロウサギは掌に顎を乗せたまま一度頷く。
「ところでレオ、昨日俺が言ったことを覚えているか?」
シロウサギは顔の角度を少し変え、隣にいるレオを見つめる。
「昨日言ったこと?一体どのことだよ」
「しばらく奴らは俺達の元に現れてこないと言ったことだ」
「あぁ。確かそんなこと言ってたな」
「少し風向きが変わるかもしれない」
「風向きが変わる?」
少し解せない様子でレオは眉に八の字を浮かばせる。
「そうだ」
幾許か普段よりも真剣な雰囲気を纏い、シロウサギは頷く。
「りなのような、連邦と末端でしか繋がっていないような人間が俺達がここに居るということを知っているとなると少し少し話が変わってくるということだ。レオ、俺が思っていた以上に奴らは早く動き出す可能性がありそうだ」
「マジかよ。じゃあ今すぐにでもここを動かねぇと」
「待つんだ」立ち上がろうとするレオをシロウサギは手で制する。
「昨日も言ったがひと先ずはレオの完全回復が最優先事項だ。これは変わりない。だが、俺達も奴らに先を越される前に手立てを考えないといけない」
「じゃあどうすんだよ?」
軽いため息をつき、レオは元居た位置に座り込む。
「少し早いがレオ。お前には俺が開花させた力を上手くコントロールできるようになってもらう」
「コントロール……?」
「ああ」
シロウサギは確信めいた瞳で深く頷いた。
「まず、だ」
「お、おお」
シロウサギはレオの右手を掴み、その掌を自身の顔に向ける。
「レオ、この掌からは一体何が出ていると思う?」
「ここから、か……?」
確認するようにレオはシロウサギに掴まれた掌を翻し自身の顔へと向ける。
「青い光弾、みたいなもんが出てたな……」
レオはこれまで二回、自身が発したそのエネルギーの塊のようなものを思い出す。それはレオの親友、翼が好んで観ているヒーロー番組に出てくるヒーローが使っている必殺技のようなものだったことをレオは頭の中でイメージする。
「青い光弾……か。その認識は少し変えた方がいいな」
シロウサギは再度レオの掌を自身の顔に近づけさせ、人差し指でその掌に円を描く。
「この力を使いこなすには自分の中にあるイメージをより鮮明にする必要がある。よって、レオが行使している力、レオの言葉で言うならその『青い光弾』の正体が何かをハッキリとさせておいたほうがいい。いいか。よく聞けレオ。お前が発しているその物質の正体は……」
「正体は……?」
ごくりとレオは唾を呑み込む。
「水だ」
「水……?」
へ?驚いたようにレオは手の甲を見つめる。
「そうだ、水だ」
もう一度シロウサギは人差し指でレオの掌に円を描く挙動をし、答える。
「待て待て待て。シロ、あのビームみたいなのが水だって?そりゃあり得ねぇだろ?だってあれは相手の皮膚を貫通させるくらいの威力を放ってたんだぜ?」
「そうだ」
信じられないと言わんばかりに目を丸くさせるレオに対しシロウサギはいたって真剣に話を続ける。
「お前は大気中に存在する気体から水を生成し、それを超高圧で相手に向け放っている」
「大気中にある気体……」
シロウサギの言葉をなぞるようにレオは反復する。水と言えば化学式でH₂O……水素と酸素か?んで超高圧ってのは消防車に搭載されてるような勢いの凄い水みたいなイメージであってるのか……??数分間悩まし気に自身の掌を握り締めたり広げたりした後、レオはシロウサギに瞳を向ける。
「仕組みはなんとなくはわかったが……俺は手の中で理科の実験みたいなことしてるってことだよな?」
「リカノ実験というのはわからんが要するに水を手で作っているということだ。自身の照らし合わせられる範疇で納得してくれたのならそれでいい」
シロウサギは数度頷く素振りを見せ、人差し指をピンと立てる。
「それで、だ。ここからが本題だ。レオ。お前が超高圧の水を放った後、毎回どうなるか覚えているか?」
「どうなるか……?」
「ああ」
シロウサギに促されレオはまた数日前の記憶を掘り起こす。水を放った直後。全身の力が何処かにいき、地面に倒れこんだ映像が頭の中で浮かび上がる。
「気絶したな」
「そうだ。気絶した」
想像した答えが返ってきたのかシロウサギは先程よりも深く頷く。
「では何故気絶したと思う?」
「何故、か」
うーんとレオは考え込む仕草を取る。
「今のシロの言い方からすると、力を使い過ぎたからか?」
「流石だ。当たっているな」
シロウサギは二度深く頷く。
「レオの言う通り、レオが水を放った途端に倒れこむ原因は水を生成していることにある。水を作り出そうとするときにレオがやっている分子と分子を切り離し、結合させる作業には莫大なエネルギー、即ち人間でいうところのアデノシン三リン酸の解離が必要になってくる」
分子を切り離して結合……エネルギーがいる……わかる範囲でシロウサギの言葉を租借しながらレオは化学や生物の時間になんとなく振れたことを思い出す。
「難しい言葉を使ったが、要するにだな」
レオの脳内で単語が複雑に絡み合いゲシュタルト崩壊を招き始めた頃、シロウサギが助け舟を出すように言葉を紡ぐ。
「うまく調整すれば思うように水を放つことができる、というわけだ」
「上手く調整、か……」
「ああ」
「それってどうやればできるんだ?なんか特訓とかすんのか?」
レオは普段読んでいる少年雑誌を思い出す。こういうのは決まって特訓してその過程で技を見出すのが常であるということを。だが、
「否」
レオの期待をシロウサギは速攻で否定する。
「最初に言ったたがこの能力は本人のイメージが重要なんだ。何より今のレオの状態で下手に体を鍛えたりすると、返って怪我をする恐れもある。だから、今レオができることはイメージを固める、ということだな。具体的には水を放つ瞬間に消費するエネルギーの流れを……」
「何をイメージするんだ?」
レオのイメージを鮮明にさせようとシロウサギが何か言いかけたその時。壊れた障子の方から女性の声が二人の耳へと届く。
「おい!!マジかよッッ!シロ!?」
レオとシロウサギは互いの顔を見つめあう。二人が驚く眼前、八神りなは前回現れた時と同様にずかずかと壊れた障子からレオの自宅へと入り込んだ。
「そう驚くなよ。また来るって言っただろ?」
どすっと鈍い音を立てりなはレオとシロウサギの前で胡坐をかいて座る。
「早すぎるんだよ。まだ一日しか経ってねぇだろうが」
「まぁまぁ、ちいせぇことは気にすんなよ」
りなは疑い深い瞳を自身へと向けているレオに向け親指を立てる。
「で、さっき何の話してたんだ?確かイメージがどう、とか言ってたよな?」
りなは目の前にいるレオとシロウサギの元へ前のめりになって顔を近づける。
「……」
示し合わすかのようにレオとシロウサギは互いの顔を見あう。彼女に能力の秘密を話すべきか否か。言葉をマジ合わずとも二人の回答は自ずと一致する。
「あ~っと最近やった物理学の授業について話しをしていてだな。俺の学校の先生が物理で大切なのはと日常の体験と勉強したことをどう結び付けるかだって言っててな。や、やっぱり大切なのはイメージすることだよなって話し合ってたんだよな、な?シロ?」
「そんな話していたか?俺達?」
苦笑いを浮かべるレオに対し、何を言っているんだといった風に悩まし気にシロウサギは首を傾げる。
「ふんっ!」
その様子を見かね、レオは些か勢いをつけてシロウサギの腹めがけて肘内をする。「何するんだ?レオ?」
「耳を貸せ」
レオは心外だと言わんばかりな雰囲気を醸し出しているシロウサギの耳に掌をかざす。
「上手く話を合わせてここを乗り切れ馬鹿野郎。こんな弱点もろわかりの情報、敵か味方かわからねぇ奴に知られたら不利になっちまうだろうが」
「成程。そういうことか。理解した」
シロウサギとレオは互いに頷きあい再び姿勢を正してりなのいる方向へと向き直る。「そういう話をしてたんだよな、シロ?忘れっぽいやつだなお前全く」
「ソウダナ」
あはははとレオは笑いながらシロウサギを一瞥し、りなへと顔を向ける。
「ま、そういう……」
「ふ~んそうやって口車にうまく乗せて騙すのか?私のこと」
「なっ!?」
レオはあたかも驚いた表情を取り繕い、シロウサギを見る。
「そ、そんなことないぜ、なぁシロ?」
しかし、
「アア、ソウダナ」
助けを求めるレオの眼差しを見ることなくシロウサギの棒読みが嘘に拍車をかける。
「ふ~ん?」
りなは訝しげな瞳で上目遣いにレオとシロウサギを交互に見やる。
「んま、いいぜ。そっちがその気ならこっちもただとは言わねぇよ。交換条件といこうか?ウサギとレオが持ってる力を私に教えてくれる代わりに私は今日八神家で行われた世界連邦との密談を教える。これでどうだ?」
「俺とシロが持ってる力を教える……?ちょっと待て、お前いつからここに?」
「ウサギが力についてレオに教えるとこくらいからいたぜ?」
自慢げにりなは腕を組む。
「じゃあお前さっきの会話のくだりも……」
「おうよ。全部聞いてたぜ。だからわざと鎌をかけたんだよ」
ニカっとりなは太陽のような笑顔をレオに向ける。
「嘘だろ……」
思わずレオは頭を抱えそうになるのを目尻を抑えて我慢する。
「わりぃわりぃ。盗み聞きしちまって」
申し訳なさそうにりなは両手をこすり合わせる。
「代わりに連邦との密談の内容を教えてやるよ」
再度りなはレオ達に向けて微笑んだ。
「本当にいいのか?」
「ああ、いいぜ」
訝し気に見つめるレオに対し一点の曇りもないような笑顔でりなは頷く。
「こういうのはお前らも知っとかねぇとフェアじゃねぇしな」
そ言うなりりなは矢継ぎ早に説明を始める。世界連邦が二か月後にシロウサギとレオを相手取り大規模作戦を展開すること。その二か月の間、八神家がレオとシロウサギを監視すること。数分が経ちようやく事の顛末を話し終えたりなはううんという間延びした声と共に背伸びをした。
「思った以上に事が早く進んでいるな……」
シロウサギは普段よりも幾分か深刻な面持ちで地面を見つめる。その姿を見てレオも真剣に先程シロウサギに言われた技のイメージについて連想をし始める。静寂から数分が経ち、何かを思い出したかのようにりなはごそごそと自身のブレザーの裾から何かを取り出し、シロウサギへとそれを向けた。
「あぁ、あとそうだこれも」
「何だこれは?」
シロウサギがりなの手からそれを受け取るとさも不思議そうに天井へと翳す。
「DVDだよ。ウサギとレオがミナミ?ってやつと戦っていた時の。なんか役に立てるかもしれないって思って家から取ってきた」
「お前、いいのか?そんなことして?」
レオは悩まし気にしていた瞳を開きりなを見つめる。
「いいんだよ。私の好きでやってることなんだから」
りなは笑顔でレオに向けて親指を立てる。
「だけど、りな。正直俺はなんでお前がこんなに俺達に良くしてくれるのかがわからねぇ。俺達に協力してメリットがあるなんてとても思えないしな」
レオは訝しげな瞳でりなを見つめる。八神りな。八神家の長女で明朗快活な少女。そしてレオと同じく平坂高校に通う生徒。今のレオの情報では彼女に関する知識はこの程度しかなく、レオはどうしてそこまでして自分たちに加担するのかが点で分からない。
「う~ん。そうだな。何でこうまでするか、か」
りなは天井を見つめ自身の考えを整理する素振りを見せた後、再度口を開けた。
「私はお前らが悪者だとは思わないし、お父様たちがやろうとしていることが間違っているとは思わない。だからお互いの不利がないようにしたいってだけだと思う」ま、私は今反抗期だから若干レオ達に偏ってるってのはあるかもな、と付け足しりなは微笑む。その瞬間。丹羽レオの瞳には八神りなの人となりが少し垣間見えた、気がした。
「さ、観てみようぜ」
りなはいつの間にかシロウサギの手からDVDを取り畳部屋にひっそりと置かれているテレビの電源を付けた。
「もっかい見てもかっけぇぇ!!」
録画された映像が終わり畳部屋に少女の声が響き渡る。
「なぁ、なぁ?これどうやって打つんだよ、ウサギ!」
「レオ……」
また助けてくれと言わんばかりに隣で目を向けてくるシロウサギを無視し、レオは先ほどの映像に映った自身を思い浮かべる。改めて見返すとやはり技を打った直後、エネルギーが切れたかのように自分は倒れこみシロウサギに担がれている。あの時水を出した時のイメージ。レオは思い出せる範囲で自身の頭を駆け巡る感覚の潮流を掴もうとする。引き込んだ「何か」と自身が発生させた「何か」の交わるところ。そうしてそれを叩き割る自信の姿。エネルギーを使うのはこの叩き割る瞬間で間違いない。必然的にレオは全身の力が抜けた瞬間を思い出す。ならば、問題はこの瞬間に消費するエネルギーをどう抑えるか、か……テレビのリモコンを操作しもう一度最初からレオは映像を再開させようとする。
「ウサギはどうして力を使おうとするときに何か叫ぶんだ?」
レオが映像を流し見している横でふとりながシロウサギに疑問を呈する。
「あぁ、それはだな、」
シロウサギの答えが気になったレオは自然と画面の音声を小さくする。
「俺が相手取る大体の敵は初見が多い。だから単に叫ぶだけでは敵に明確な意図は伝わらない方が高い。しかし、叫ぶと味方には自分が今何をしようとしているか伝えることができる。こんな風に利点しかないからだ」
「かっけぇぇぇ!!」
りなはシロウサギの手を両手で握り取り、顔面を近づける。
シロよ。もしその理屈でやってるなら俺には伝わってねぇだろ。技のレパートリー多そうだし。これ以上聞くのは不毛だと感じたレオはテレビの音声を先程よりも大きくする。シロウサギとミナミが衝突している場面になり言われてみれば、とレオは映像を凝視する。確かに画面の中のシロウサギはグレイシャと言う度に氷の粒をミナミに向けて飛ばしている、気がした。
翼がよくみていたヒーロー番組でもヒーロが敵を倒す大技を繰り出すときに叫んでいたが、あれは味方に『今から大技を繰り出します。皆さん気を付けてください!』と宣言しているようなものなのか……
なんとなくレオはシロウサギの発言に納得を得始めていると、それまでシロウサギと話し込んでいたりなが興味深そうにレオへと顔を近づける。
「レオ、お前もそうなのか!?」
「何がだよ?」
もうじき終わりに差し掛かる映像を横目にレオはりなを流し目で見る。
「レオも力を使う時に何か叫んでるよな?ほら丁度今画面にも映ってるけど」
「え?」
レオは眉を顰め、映像を注視する。引き込んだ拳をミナミに向ける直前。レオは確かに何かを言っていた。
「あっすいだん……?」
激流が全ての音を呑み込む直前、辛うじて聞こえた叫びだしの言葉と口元の動きを読み取りレオは画面の中にいる自分が発した言葉を口にしてみる。
「へぇ!圧水弾ってのか!!かっけぇな!!それも!!」
驚愕の表情を浮かべるレオを見ることなくりなは嬉しそうに両腕を上下させる。なぜ俺は自分の力が水なんて知らなかったのにそんな名前を叫んだんだ……??突如として現れた疑問がレオの脳内を埋め尽くす。どうしてだ?何故だ?俺はシロと出会う前にもこの力を使ったことがある……いや、まさか。じゃあなんで咄嗟にそんな言葉が……悩み過ぎているのか、それとも偶発的に起こったものか。不思議とレオは自身の頭が痛くなってくるのを感じる。
幾刻か経ち、映像が終わっても呆然と暗い画面を見続けていたレオを解き放ったのはりなが会話をレオに向けてきた時であった。
「レオ?」「ん?どうした?」
虚無から抜け出し、レオは視界を声のする方に向ける。
「今の話聞いてたか?」
心配するようにりなは首を傾げレオを見つめる。
「わりぃ、ぼーっとしてたわ」
レオは深刻な面持ちで自身を見つめる、シロウサギとりなへ笑顔を向ける。ま、偶然ってこともあるだろう。それ以上、レオは自身の発した言葉の意味について考えるのを放棄する。
「ったく、話しかけても全然動かねぇから心配しちまったぜ」
「わりぃ、わりぃ。それで話すことってなんだよ?」
「ん、いやくだらねぇことなんだけどな」
こほんと咳ばらいをしりなは腕を組む。
「この家って誰の別荘だ?」
「別荘……?」
「おうよ」
驚いて固まるレオにさも悪びれる様子もなくりなは微笑む。
「家にしては住むのは小さすぎるし、車も一台しかないから誰かの別荘じゃねぇのかなって思ってよ」
そうきたか。レオは心の中で目尻を抑える。八神りなは今まで家の外をほとんど知らない箱入り娘。家が大きな宅邸であるが故に実家という場所の規模が皆それであると思い込んで悪気泣く質問をしているのだ。
「標準が最大レベルなんだわ……」
「ん?なんか言ったか?」
「いや、なんでもねぇ」
薄ら笑みを浮かべ、レオは隣で胡坐をかこうとしているりなを見る。
「えーっと。りな。よく聞いてくれ。ここは別荘じゃなくて、俺の実家なんだ」
「実家!?」
口元に手を当てりなは目を丸くする。
「なんで従者も見張りもいないんだ?防犯は!?そうか、今はここは非難区域で皆避難してるから……」
「元から従者も見張りもいねぇよ」
「嘘だろ……」
「嘘じゃねぇよ」
「一体何人でここで住んでいるんだ……?勿論一人だよな……??」
怯えたような眼をし、りなはレオに語り掛ける。
「違えよ。父親と母親入れて3人で住んでるそうだ。両親は二人とも海外赴任してて1年に数回しか会えない」
「そうだ、ってやけに他人行儀だな……?」
「そうか?あんま一緒に住んでるって実感がないからかもしれねぇな。俺からしたら年に数回しか会わない両親なんて歳がちょっと上の友達みたいな感覚だし」
「成程な。ふ~ん、こういう家庭もあるのか……」
「俺の家は割と普通であってりなのところが規格外すぎるんだよ」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんだ」
りなとレオは互いに目を合わせ頷く。
その後しばらく互いの学校での話や友人の話で盛り上がっているとまたもや壊れた障子からいくつかの人影が慌ただしく現れた。
「りな様!!」
「んだよ、せっかく盛り上がってきたところなのに」
会話を否応なく中断しりなは敗れた障子に睨みを利かせる。人影のなかからそのうちの一つが動き出し、失礼します、と挨拶を交わしてから畳部屋へと踏み出して、りなの耳に手を当てひそひそと声をあてる。
「りな様、そろそろお帰りにならないとまたお父様に……」
「うっそ!?もうそんな時間!?」
「はい。こちらに」
従者が自身の左手につけている腕時計をりなの元に差し出す。
「ほんとだ……ありがとう。夏美知らせてくれて」
「いえ、りなお嬢様のためなら何なりと」
夏美は深くりなへ向けて頭を下げる。
「そういうのはいいんだよ。同い年なんだし、もっとフランクにいこうぜ。フランクに」
「ですが……」
「大丈夫だって!お父様もいないし誰も口づけしねぇって!さ、時間なんだろ!?行くぞ!夏美!」
りなは夏美の手を取り立ち上がる。
「すまん!話の途中だけど時間が来たみたいだから一旦お暇するわ!また話に来るからそん時はよろしくな!!」
レオとシロウサギの返事を聞くことなく、りなはじゃあな!とまた壊れた障子をくぐって従者達と共に颯爽と闇の中へと消える。
「相変わらず立ち去るのが急だし、消えるのが早いな」
レオとシロウサギは顔を見合わせ笑いあう。
大きな爆発音と共に八神邸から火が上がったのはそのほんの数刻後であった。
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