第16話 打ち明ける時…

 篠崎さんが口を滑らせたせいで、〇リキュアの映画を観に行った事がA組のみんなにバレてしまった。尾行の件は大丈夫だと思うが、早川さんの笑みが気になるんだよな…。



 1限を終え、職員室に戻ってきた。早川さんは尾行に気付いているのか否か…。彼女の事だから何か行動を起こすかも?


そう思い、デスクにしまっている携帯を取り出してチェックする。すると…。


『昼休み時間ありそう? 話があるんだけど…』


こんな〇インが入っていた。これバレてる可能性大だぞ。今更逃げる訳にはいかないので、『あるぞ。どこで話す?』と返信する。


するとすぐ『体育館裏にしよっか。さーちゃんと一緒に待ってるから』と返された。


佐宮さんもいるならほぼアウトだな。今の内に、言い訳と土下座の練習をしたほうが良さそうだ…。



 昼休みになったので急いで体育館裏に行くと、早川さんと佐宮さんは体育館にもたれながら弁当を食べていた。


「颯君遅~い♪」


俺に気付いた早川さんが座った状態で文句を言う。2人共コンクリートの上であぐらをかいているから、スカートのが見える心配はない。


「これでも急いで来たんだぞ」

弁当を早食いしなければもっと早く来れたな。


「お昼はどうしたの? 颯くん?」


「食べてきたから、ちょっと遅くなったんだ」

佐宮さんの気遣いが嬉しい。


「あのさ~。そんな風に見下ろされると話しづらいんだけど? ここに座りなよ」

早川さんは横に移動し、座っていたところを指差す。


「2人の間は、さすがに恥ずかしいんだが」


「今更そんな事気にしてるの? に比べたら大した事ないじゃん」


「早川さん。それは…」

隣に佐宮さんがいるんだぞ。


「大丈夫。さーちゃんは、しーちゃんに比べたら信用できるから。家が近いのも話しちゃった」


そもそも悪いのは俺だし、反論する資格はないか。口が軽すぎる篠崎さんより信頼できるのは俺も思っている事だ。


「そういう事ならわかった」

俺は恐る恐る、早川さんと佐宮さんの間に座る。


この段階で緊張してどうする? これからもっと緊張するのに…。



 「颯君は先生で忙しいだろうし、さっさと本題に入るね」


これも早川さんなりの気遣いか。嫌な事は早く済んで欲しいから助かるな。


「あたしの勘違いなら悪いけど、この間の土曜日に尾行した?」


「…どうしてそう思うんだ?」

やはり勘付いているか。理由を聴いてから認めるとしよう。


「しーちゃんが言ってたよね? 土曜の颯君は、黒い帽子を被っていて白いマスクを着けてたって。あたし、映画館とイタリアンの店でその組み合わせ見たんだよ」


映画館で俺が座った席は、2人の後ろだった。先に座っていた2人の近くを通ったわずかな間で覚えられたか。


「わたしはお店でしか見てないから、篠崎さんの話を聴いた時はビックリしたよ」


佐宮さんは〇リキュアの事で頭が一杯だったんだな。早川さんもそうであったら…。


「それだけなら“ちょっと怪しい人”で済むんだけど、イタリアンの店で颯君らしき声を聴いた時は『あれ?』と思ったね」


注文する時に、やむを得なく声を出したな。席が遠ければ問題なかったと思うが、自由に選べるほど席数に余裕はなかったから、俺にどうこうできる話じゃない。


「わたしも気になった。でも聞き間違いだと思って、はーちゃんに言わなかったの」


「そんな時に、しーちゃんのあの暴露だよ? 気になるのは当然だよね?」


これだけ聴けば十分か。後は打ち明けるだけだな。


「颯くん、わたしとはーちゃんを尾行してたの?」


やましい関係じゃない佐宮さんに見つめられると、言う勇気が…。しかしここでためらっちゃダメだ!


「…ああ。俺は土曜日、早川さんと佐宮さんを尾行した」

ついに打ち明けてしまった。


「やっぱりそっか~。何でそんな事したの?」


そう言う早川さんは怒ってるように見えない。イタズラした子供に理由を訊く母親みたいな感じだ。


「俺に見せない早川さんの一面が気になったんだ。同性で友達の佐宮さんにだけ見せる一面をどうしても知りたくて…」


「ふ~ん。それで颯君の知らない、あたしの一面は知れたの?」


「知れたよ。俺と会う時よりオシャレしてたし、服を買う時は佐宮さんと長い間話し合ってたり…。俺が相手だったら、ああはならなかったはずだ」


「そっか。さーちゃんは、颯君に言いたい事ある?」


「えーと…、わたし達を尾行してたって事は、下着屋さんに入ったのも知ってるんだよね? 当然何を買ったかも…」


「下着屋に入ったのは知ってるが、すぐ切り上げた。服屋で散々待たされて疲れたんだよ…」


尾行の疲れもあると思う。慣れない事をすれば、誰だって疲れる。


「? あの時そんなに長かったかな? さーちゃん?」


「普通だったと思うよ?」


「あれが普通なのか? 女子の買い物は長いんだな…」

これも知らない一面か。


「颯君、他に隠してる事ない? 今の内に言ったほうが良いよ~」


「ないから安心してくれ…」


「颯くんを信じるね♪」


「ありがとう佐宮さん」

笑顔の彼女が、俺をホッとさせる。



 「颯君。一応言うけど、これで終わりだと思ってないよね?」


早川さんの顔に出てないだけで、やっぱり怒ってるのか? 女子は複雑だ。


「さーちゃん、颯君に何かしようよ!」


「おしおき? 颯くんは正直に話してくれたし、 今回だけなら許しても良いと思うけど…」


「さーちゃんは優しいな~。でもダメ男は、その優しさに付け込むんだって」


ダメ男…。早川さんは容赦ない。


「おしおきの事は、これからさーちゃんと話し合って決めるからそのつもりでね」


「ああ…」

当然の事ながら、俺に拒否権はない。白状したから軽めになるよな?


「颯君。ここは学校だし、一緒に戻るのはマズいと思う。あたしとさーちゃんはまだ食べてるからさ~」


「わかってる。俺は先に戻るよ」


「颯くん。今度は3人で〇リキュアの映画観ようね♪」


そこは誤解したままなのか…。まぁ、佐宮さんなら後で言えば良いや。俺は立ち上がり、体育館裏を離れた。

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