第14話 前途多難の尾行
俺は早川さん・佐宮さんの席から数席後ろに座り、2人の行動を観察していた。しかし予想に反して〇リキュアが面白かったので、観察そっちのけで観てしまう。
少年の時に抱いていた純粋な気持ちを呼び覚ますのだ。あぁ、この世の穢れを知らないあの頃に戻りたい…。
そして、あっという間に上映は終わりを迎える。
「面白かった~」
後ろにいても、早川さんの声を聴けばそれが本音だとわかる。
「そうだね。作品の垣根を越えてみんな集合した時はワクワクしたよ」
俺もそういうのは好きなタイプだ。佐宮さんと気が合うかも?
「少し早いけど、お昼食べに行こう。さーちゃん」
今は11時20分か。確かに少し早いが、気にするレベルじゃないな。
「うん。どこのお店で食べる?」
「この間、女の人に人気のイタリアンのお店が、ショッピングモール内にオープンしたんだよ。前から気になってたんだけど、1人だと入りにくくて…」
「そのお店気になる。そこにしよう」
「ありがと。場所は大体調べてあるから、あたしが案内するね」
女性に人気のイタリアンの店か…。尾行するために俺も入るつもりだが、大丈夫だろうか? 周りから浮くのは勘弁だぞ。
イタリアンの店に向かう早川さん・佐宮さんに勘付かれないよう、程良く距離を空けて尾行する俺。2人はオシャレなロゴマークが描かれている店の前で止まる。
「ここだよ。早速入ろう」
さすが女子高生。まったく動じずに入店したぞ。店の前でウロウロする訳にはいかないし、俺も勇気を出して入るか。
入ってすぐ、可愛らしい店員さんに席に案内される。早川さん・佐宮さんが見える席なのはありがたいが、やはり女性客が多い。ぱっと見8割ぐらいかな。
残りの男は、彼女らしき女性と一緒だ。つまり男1人は俺だけで、超浮いている。
「はーちゃん、何にする?」
「あたしはペペロンチーノかな。さーちゃんは?」
「カルボナーラにするね。後で食べ比べしようよ」
「良いね~」
もしかしたら“あ~ん”が見られるかも? …なんて考え過ぎか。俺もさっさと決めよう。
早川さん・佐宮さんの後に注文した俺。映画の窓口で懲りたので地声で話したんだが、その際に早川さんがこっちを見たような気がする。
俺の自意識過剰だと思いたい。尾行なんて初めてだからな…。
注文のタイミングが近かったからか、3人のメニューは俺がちょっと遅れて到着した。
「…おいし~♪」
早川さんは満足気だ。俺が頼んだミートソースの期待値が上がる。
「そうだね。人気になる理由がわかるよ」
「さーちゃんのカルボナーラ、一口良い?」
「もちろん。わたしもはーちゃんのペペロンチーノ貰うね」
2人は互いのパスタに手を付ける。あ~んしなくて残念だ…。
「こっちもおいし~♪」
「ペペロンチーノもおいしいね」
微笑ましい光景だが、腹は減ってるしジロジロ見過ぎるのも良くない。今は食事に集中しよう。
結局早川さんと佐宮さんは、自分のと相手のを交互に食べていた。女子は“食べあいっこ”が好きだよな~。
食べ終わった後は服を見るのを、食事中の会話を盗み聞きして知った。彼女に付き添う彼氏ならともかく、男1人が女性の服売り場にいるのは不自然だ。
今回は、離れた所にあるベンチに座って観察するしかないだろう。
2人が服を買う様子を遠目で確認する俺。…あまりにも長くて途中で時間を確認するのを止めたぐらいだが、ようやく終わったか。
ベンチから立ち上がり、尾行を再開する。
「さーちゃん、良ければ下着屋にも寄って良い?」
下着屋だと!? 嬉しい反面、男は周辺にすら立ち入れないから観察に支障が出る。
「良いよ。みんな可愛い下着持ってるから欲しくなるよね」
それは良い事を聴いた。妄想が膨らむな。
「そうなんだよ~。たとえ下着でも手抜きはできないから」
女子は下着のこだわりが強いのか…。早川さんだけかもしれないが覚えておこう。
尾行を早々に切り上げてベンチに座った俺は、嬉しそうに下着屋に入って行く2人を見届けた。それ以降は遠すぎてよく見えない。
もっと下着屋に近いベンチに移動すれば見えるだろうが、そうすると不審者だと思われるリスクが増す。ビビりの俺には厳しすぎる。
この尾行、思ったより前途多難だ。電車内や映画館は比較的楽だったが、服屋・下着屋は異性の壁が高い。精神的な疲れがどっと出てきたぞ…。
名残惜しい気はするが、今日の尾行はこれまでだ。家に帰ってゆっくりしよう。
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